電磁郎敗れたり
「やわーい、あおおうん!あいあうぁ!?」
冬の朝だ。
トーストを口にくわえたままショートの紅髪を揺らして坂道を疾走する琉詩葉。
最近調子に乗ってる電磁郎とは、なるべく顔を合わせたくない。
だからこのところは気をつけて、早めに登校していたのに、今日は寝過ごして遅刻ギリギリだ。
校門が閉まるまでもう時間がない。
ごごごごごご。
目前の『冥府門』が、轟音をたてて閉まり始めた。
スタン!
門の隙間めがけて跳躍する琉詩葉。
錐揉み回転しながら、何とか隙間をくぐりぬける。
「へーふ!!はいぃん、ああぁ、あぅ!!」
トーストをくわえたまま琉詩葉が笑う。と、その時。
ひゅるん!空を裂いて飛んできた何かが彼女の細い足首に巻き付いた。
校庭で待ち受けていた電磁郎の鞭だ。
「冥条!ギルティだ!裁きの教鞭!」
嬉々として鞭を引っ張る電磁郎。琉詩葉校庭に転ぶか、と、思ったその瞬間。
しゃきん!
どういうことだ、琉詩葉を繋ぎ止める教鞭の先端が、鋭い刃物で切断された。
解き放たれた琉詩葉は空中で一回転、ずさり。見事校庭に着地成功。
ざざざざざ。
見ろ、土煙をたてて地面をドリフトしながら制動をかける琉詩葉の足元を。
ブラウンのスクールローファーのつま先から飛び出ているのは、切っ先鋭い鋼の刃だった。
「『隠剣』だと!小賢しい真似を!」
電磁郎、怒りに肩を震わし教鞭を巻き上げる。
「えんぁん!あうおいおああいいういあんえ、ひいよーやん!ほっひおあういアイエウうあっあうえんぇ!」
特訓の為、獄閻斎に『招蠱大冥杖』を取り上げられている琉詩葉。
面憎い教師にどうにか拮抗しようと、彼女が仕込んだのは冥条家伝統の暗器だった。
「くく、よかろう冥条、このところのお前、おとなしすぎてちと退屈していたところだ」
不敵に笑って鞭を撓らす電磁郎。テンガロンハットのつばの影から覗く眼が、なんとも嬉しそうだ。
「ならば俺も剣は用いぬ!その武器でこの『裁きの教鞭』、止めてみせい!」
琉詩葉むかって再び教鞭を打たんとする電磁郎、だがその時、
ぷっ!
教師の目前に黒い影が飛んできた。
「なに!」
咄嗟の電磁郎、鞭を下段から打ち放って黒影を切り払う。
ああ、鞭が、八枚切りを更に二枚に斬った。なんたること!電磁郎は目を見張った。
目前に飛んできたのは、琉詩葉がその口に咥えていたトースト。
「しまった目眩まし!」
慌てて身構えた電磁郎、教鞭を巻き取って二の打を整えようとするが……
時は遅かった。鞭の先端をがっしと握り止めていたのは琉詩葉の右手。
たん!
琉詩葉が跳んだ。教師の頭上を飛び越えて、その背面にすっくと立って紅髪を揺らす少女。
おお見ろ、いつの間にか電磁郎の体を縛り上げているのは、彼自身の教鞭。
飛び越えざまに彼女の手先が器用に鞭を繰り、教師の体を巻き取ったのだ。
「冥条!朝飯を目眩ましに打ち捨てるなど!お百姓さんに申し訳ないと思わんか!!」
身動きとれない電磁郎、悔しさに歯がみしながら背後の琉詩葉に叫ぶ。
「ふへへ!あいおうぅあ、おんぁいあい!」
琉詩葉が笑う。なんと、彼女の口に咥えられているのは、両断された八枚切り二枚。
電磁郎の鞭を取り、頭上を飛び超える刹那、宙に舞ったトーストを琉詩葉は器用に咥え取っていたのだ。
「勝負あり、そこまで!」
校庭に獄閻斎の声がこだました。




