帰還とその後
目が醒めるといつもの半金属のミヤコだけがいた。
ミヤコに昨日の弓美子の出現を聞いても何も知らなかった。
地上に帰ったら舜助に弓美子が出現したからくりを聞こうと思った。
やがて忘れて快適にその後の任務を終了した。
ミヤコと一緒に地球に還る時主コンピュータがアラビアンナイトの魔人のアバターとなって再び出現して見送ってくれた。
魔人は盃を持って酔っぱらいの真似をして饗宴の日のおれのことを揶揄していた。
その傍に初めて見る少女アバターがいた。
少女はおれに言った。
「旦那様、おなごりおしいです。お気を付けてお還り下さい」
「君は誰だ?」
「私……アタイは初代ミヤコです」
驚いて振り返るとミヤコⅡが笑っていた。
アバターになったミヤコⅠの笑顔は実物より遥かに可愛かった。
何らかの方法で自分の意識を衛星コンピュータの中にコピーしたのだろう。
とすると、おれの命令の声はコンピュータの中にいたミヤコⅠにも直接聞こえていたはずだ。
おれの言葉が聞こえて先読みしていたのだろう。
本当に働いていたのは実はコンピュータの中のミヤコⅠかもしれない。
ミヤコⅡは何のためにいたのか、と思った時コンピュータから声が掛かった。
「お姉さま。旦那様といつまでも、末永く……ああ、うらやましいわ」
振り向けばミヤコⅡが見たことのないほど照れて笑っていた。
最初は孤独な仕事と思っていたのにこの宇宙船には主コンピュータを含め最後、四人もいたのだ。
最後のミヤコⅠの言葉には感情がこもっていた。
ロボットの体を持っていた時のミヤコⅠとはしゃべることがなんか違っていた。
ミヤコⅡと一緒に帰還船に乗って帰った。
何かの都合とか言われてすぐミヤコⅡと別々になった。
後日、おれは名前のなかった有人衛星に〝ミヤコ号〟と命名させた。
衛星は秘密裏に破棄されるだろうが、ミヤコの名前を何らかの記録に残したかった。
まだリハビリ中の十二月のあるとき舜助とコーヒーを飲んでいた。
ミヤコⅠが帰還時に地上に激突した理由について話し合った。
ミヤコⅠが帰還に使った個体ロケットやエアロシェルなどがなぜ衛星にあったのか、おれの推測を話した。
「おれが不慮の死を遂げた場合ミヤコが速やかにおれの遺体を地球に送り届けるためじゃないか。静止軌道の少し上の墓場軌道に捨てる方が安上がりなのにわざわざこんなものを用意して地球に帰そうとしたのだ。宇宙でおれが死んで真相が解明できないとミヤコに永久に解けない嫌疑がかかる可能性が有る。すると将来宇宙でアンドロイドを使えなくなってしまう。さらにおれの死に関して法的問題を調査されると衛星迎撃システムが明るみにでてしまう。遺体を棺に入れたら後は自動で軟着陸まで出来るようになっていたのだろう。ミヤコはおれに遠慮して棺を使わず裸でロケットにしがみ付いたのだろう」
というと舜助は
「これはもっと簡単な話だ。そもそも君が宇宙に行っている間に死ねば自動操縦の宇宙往還機が必ず待機しているはずだから遺体を送り返すのに特別な方法を使う必要は無い。あれは誰かが考えて置いていた、臨時の貨物便だった。往還機が無いときそれでミヤコが還ることは最初誰も考えなかった。だから最後のパラシュートが小荷物用で、小さすぎたのだ」
宇宙船で充電器を使ってミヤコに心臓マッサージをしたと言えば舜助は驚きもせず、有人宇宙船にAEDを置くのは義務なのだと言った。
ロボットに心臓マッサージをするとは変だと思ったが理由を聞き忘れた。
そのあとおれはミヤコⅡから弓美子出現という驚くべき体験をした、と気軽に話した。
「ミヤコⅡは体を変形させて生身の女のようになった」
「ちょっと待て。金属の服を外したのじゃなくて?」
舜助が驚愕した。
ミヤコⅡはおれが書いた本を読んだという。
しかしミヤコⅡが本当に体を変形させて弓美子が姿を現わすとは彼にも予想できなかったのだろう。
舜助は考えながら言った。
「いや、きっと勘違いだ」
このときおれは不思議なことに気づいた。
「弓美子のモデルになった現実の女性を知っているのはおれしかいないのに容貌、身のこなし、声、しゃべり方までが正確に再現され、おれは一目でその人と判ったことだ。おれは小説を書くとき彼女の詳しい描写を意図的に避けたから誰も若い時の弓美子の容貌は知らないはずだ」
聞いている間に舜助は表情が険しくなり怯える目付きになって毛を逆立てた。
しかし一転して
「君はミヤコⅡに催眠術を掛けられたのだ。或いは入眠時の覚醒と夢の入り混じる変容した君の潜在意識が作り出した幻影だからだ、ハハハ」
彼は大笑いしかけたがすぐ黙ってしまった。
進化したアンドロイドは人間と区別がつかない……まさか。
ミヤコは作成者の舜助にも想像できない新たなアンドロイドの世界に入っていったのか。
舜助に言った。
「おれは何も気にしない。君も忘れてくれ」
アンドロイドの面影を心に浮かべながら窓の外を見ていると最後に登場した何者かの言葉がよみがえった。
「……でもまた逢うわ。きっと」




