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アンドロイドの饗宴

 C国が撤退を始めたという報を聞いたときおれはこれで戦争は終わると思った。

〝再び攻めてきたら今度はハーン、お前を炭にしてやる〟と叫んで終了宣言した。

警戒を続けながらも達成感のような感じがあった。


おれはミヤコⅡをねぎらった。

以前のミヤコならそんなことは必要なかったが今のミヤコⅡには感情がある。

ミヤコは褒められるとダンスをするように初めて手を握り合ってこの上ない喜びの感情を表した。

無重量では飛び跳ねることが出来なかったがミヤコの心は踊っていた。

鼻歌を歌いながらにっこり笑って宇宙食のストックの中から何種類かの酒を取り出しておれに見せた。

おれはポカンとした。

宇宙船で酒が禁止なのは常識だ。

だからわざわざ禁酒条項を入れていない。

この宇宙船にはいつも何か不可解な物体が有る。

発泡性の酒は引っ込めさせた。

ミヤコはパウチから酒を絞り出した。

彼女の絞りだした酒は球体になって浮かんだ。

声だけで乾杯した。

空中に浮かぶ青、黄、赤、白、樺色の酒の球体に二人で次々ストローを突き刺して飲んだ。

五つの酒の玉を見ておれはミヤコに古き良き時代の歴史を語った。

五つの毬をもてあそぶ奇術と言われたビスマルク外交を説明し、これはイギリス、これはフランスなどと言っているとミヤコはニヤッと笑って言った。


「奇術をします」


ミヤコは五つの酒の球でジャグリングのようなことを、しかも無重量下でやろうとするのだ。

急速冷凍した酒の球を、アンドロイドらしく人間業ではない速さで正確無比な演技を見せてくれると期待した。


「君のを呑みたい。君のはビスマルクよりもうまいだろうな」


君の持っている酒玉を飲みたい、と言うつもりだったが〝ビスマルク〟をある液体と思ったようにミヤコは急に前を押さえてモジモジし始め、上目遣いに


「アタイのビスマルク……飲みたいの?」


「いや、いい」


変態プレイを誰がミヤコに教え込んだ……あっ、おれの小説だ。

反省しているとミヤコの声が聞こえた。


「アァ~ン、もう!」


「あれっ、へったくそじゃねえか」


実際にやるとミヤコのジャグリングは失敗の連続だった。

ミヤコⅠなら正確無比にやれるような感じがしたのにミヤコⅡはアンドロイドらしくもない。

最後に融けた酒の球体をミヤコはまとめて一つにした。

五種類の酒が混じったものになった。

残りを全部ミヤコが飲んでしまった。

そのうちミヤコは眼の周りを赤くしてトロンとなって


「ダンヌアふぁまぁ……アタイはダンヌアふぁまとぉ、……うふっ! ……あはっ! ……」


ミヤコは眼を閉じて笑顔で無重量のキャビンにたゆたっていた。

ただの酔っぱらいにしか見えなくなった。

アンドロイドらしくもない。

ぶつぶつ独り言を言っていた。

酔っぱらいのアンドロイドを介抱していたおれも眠気に襲われつつあった。



 しばらくして寝よう、と言ったらミヤコは何を勘違いしたか、しっとり潤んだ目をおれに向け、そのまま目を外さず笑いながら彼女は宇宙服を脱いだ。

顔と胴の金属部分が光った。

なおも笑いながら茫然とするおれの眼を見続けている。

しばらくして金属光沢が眩い背中と右の頬をこちらに向けて体を伸ばした。

すると突然胴体と顔の金属部分が皮膚そのものに変化し生々しい若い女の胴体が現れた。

なんだこれは。


こんなことが出来るとは聞いていなかったぞ。

これがすべすべ肌のアンドロイドの本態か。

舜助め、やるじゃねえか。

おれは純粋に彼の技術に感心していた。

健康的な小麦色の肌とやわらかい膨らみ方は十分男の性欲を掻き立てるものだった。


ところがさらに驚愕の変化が続いた。

次第に背が伸びてきてスマートな長身になり、肌は真珠のように白く輝きみずみずしく、栗色の髪の毛は真夜中のカラスの羽の様に黒く長くなった。

髪の毛は宇宙なのに美しく纏まり放散していない。

驚いているおれの方にゆっくり振りむき懐かしそうに微笑んだ女はミヤコではない、それは弓美子だった。

おれが小説に書いた、若い時の弓美子そのものだった。

全裸のまま微笑する弓美子が突然現れておれは震えた。



「これは技術ではない。魔術だ」


その瞳に覗き込まれ、気分は思い出の中の若かったあの頃に強引にもって行かれた。

弓美子には実はモデルになった女性がいた。

それはおれしか知らない秘密だった。

彼女は同じオフィスで働く美しいOLだった。

就職して初めて出会い、おれが憧れながら手から零れ落ちた残念な思い出があった。

その弓美子がアンドロイドの変貌で出現していた。

辺りが神秘的な雰囲気になった中で弓美子はOLだったころの、おれへの憧れと断念の苦しさを告白した。

おれがその気持ちに気づき確信を持てたのは彼女の退職のはるか後だった。


少しの間会話し、やがて彼女は黙り、うな垂れた。

おれは強い眠気に襲われていた。

瞼の閉じたおれに誰かが穏やかに言った。



「さようなら……でもまた逢う。きっと」


子守歌の様に聞きながら眠りに落ちた。

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