アルテミシア
翌年の八月になって堯助に招待されて彼の家に三人が集まった。
皆軽装でクーラーの涼しい風に当たっていた。
堯助の家は裕福で、庭のあるホテルにいるような雰囲気だった。
舜助が言った。
「以前ミヤコを君の奥さんにしようなんて言ったが、胴体はドラムカンで心は半分母親みたいになってしまった。中途半端で君の期待を裏切って申し訳ない。今、体の一部以外人間の女のようなスベスベの肌を持つアンドロイドを作っている。大きさも標準的な女性のサイズに納める。これでやっとメトロポリスに近づいた。人格を作り込むのはこれからだ
宇宙にいたミヤコからすべては無理だが数年間の学習による記憶や経験を取り込むのでミヤコⅡに逢っても君は同じ相手が生まれ変わっただけだと感じるだろう。人間そっくりの動きをし、高性能だが力は人間の女性並みだから恐れることは無い。君がミヤコⅡを抱けば一部硬いところを除いて人間を相手にしているとしか思えないだろう」
「人間の女を目指しているのか? ロボットをおれの奥さんにするために第二世代を開発しているのか?」
「そうだ」
舜助はニヤッと笑った。
もちろん冗談だがもとのミヤコと同じでもいいのに。
しかし第二世代を開発するのは当初からの計画だったそうだ。
おれにはわからないし興味がない。
おれが戦っていた頃から既に次世代アンドロイドを作り始めていたらしい。
ミヤコの心は、おれを観察するだけでは作れない。
女性的部分のモデルはたぶん舜助の母、瑤子だろう。
他に手近な女性がいないから。
「今度のアンドロイドの女性的な部分は誰を元にしてどこから来るのだ?」
「いろいろだ。君の書いた小説に登場するヒロイン達も入ってくる予定だ。ミヤコⅠにもその小説を読ませようとしたがおそらく理解できていない。今度のミヤコⅡなら小説のヒロイン達のように君に恋することが出来る」
小説だから恋も書いたがモデルになった現実は大違いだった。
堯助は予言者のように言った。
「君はアンドロイドに恋される。言い寄られたら躊躇なくやれ」
「やれって、何をどうするのだ? アンドロイドは硬い」
堯助はそれには答えず唐突に
「君に恋していた女性を紹介しよう」
言われておれは一人うろたえた。
堯助の妻鯛子の妹鮃子を思い出していたからだ。
鯛子はアマゾネスで堯助を尻にしいている。
このときまで鮃子が結婚したとは聞いていなかった。
そのときある女性がスッと入ってきた。
手に煎餅の入った盆を持っている。
古い白黒映画に登場する良家の子女という感じで白のワンピースを着ていた。
アンテナみたいな髪飾りを付けている。
スタイルがいいので鮃子ではない。
堯助は人間のように言ったがアンドロイドの感じがする。
「おい、これは誰だ。鮃子ではないな」
「鮃子は既に結婚して遠くで暮らしている。見合い相手の選別を鯛子に任せたそうだ。そうして決まった相手はサトシというが、それはそれは背がひょろ高くて冴えない男だ。帰省するといつもブーブー夫の文句をいう。そのくせ一向に別れようとはしない」
そんなこと聞きたかったのではない。
この家で他に若い女性と言えば美詩亜だが遠くにいるという。
顔は少し似ている感じもするが別人なのでここでは仮にアルテミシアと書く。
堯助と並んで座り、おれに向いた。
堯助は言った。
「君にはどう見えるかね」
「君の面影がある」
おれの返事は興味無さげに聞こえたようだ。
堯助は急に、外見と違ってこの子は大和撫子だと売り込み始めた。
呆れておれは両手を広げた。
そのときアルテミシアと目が合った。
彼女の目が大きくなった。
思わずおれは微笑した。
するとアルテミシアがおれの横に来て体を密着させて座った。
涼しいクーラーの風があたる中で腰や太ももの感触が本物の女に裸で接しているように気持ちいい。
血の循環も感じる。
女の太ももをうっかり触ってしまったとき、お返しのように女はおれの股間を触った。
柔らかい指で女らしく触られておれの下半身は反応してしまった。
ずっと見ていた舜助が無言で大爆笑した。
彼はさっき古い映画に出て来るアンドロイドのことを語っていた。
そんなに完成度が高いなら、と思って試しにキスをした。
アンドロイドなら表情も変わらないだろう。
と思ったらアルテミシアは真っ赤になって両手で頬を覆った。
「よかった。君は人間だ。赤くてやわらかい」
眼の前の男二人は顔を見合わせニタッと笑った。
何だこれは。
堯助が言った。
「彼女は君の書いた小説を読んで作者に逢いたいと言った」
以前堯助は自分が読む前に誰かが持って行ったらしいと言っていた。
それがアルテミシアだったはずがない。
あのころロボットは一つも完成していなかった。
どうも変だと思い、試しにアルテミシアに付き合いを申し込んだ。
するとアルテミシアは目を丸くし興奮して震え始め、明らかに変になったので慌てて舜助が退出させた。
結局彼女は何もしゃべらなかった。
アンドロイドにも生身の人間にも見えた。
夕日に照らされた美しい庭にせり出した開放的な部屋での夕食会だった。
料理は豪華だった。
堯助以外の家族は参加しなかった。
たまたま悪魔とは何か、という話題になったときおれはそんなものいないと思って冗談を飛ばしていた。
「おれは神主の子だから悪魔祓いもできる」
「女性の心の中の悪魔も祓えるのか?」
会合は違和感を含みながらも楽しく終わった。
美詩亜を想い出した。
彼女も一緒だったら昔のSF同好会のようになってもっと楽しかったに違いない。




