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ハーンのミサイル  作者: 有嶺 哲史
第五章 休戦
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宇宙発電の真相

 まだ温泉旅館にいた時、何気なくテレビを見ていた。

科学番組で最新のレーザー技術の解説をしていた。

おれもレーザーと聞けば無関心ではいられない。

番組では自由電子レーザーの効率が飛躍的に向上する技術開発に成功したと言っていた。

可視光領域での自由電子レーザーのエネルギー変換効率は今まで五%程度だった。

それがこの技術で十%になる、というのだった。

おれが宇宙からぶっ放したレーザー砲の効率はどうかな、と思い以前堯助たちから聞いた説明のメモを見始めた。


 おかしなことがすぐ判った。

効率を計算に入れてなかった。

効率百%の機械など存在するわけがない。

効率十%だったとしてもレーザー砲の威力は十分の一になる。

これでは一個や二個の弾頭を破壊できても夥しい数の弾頭は見逃してしまう。

やってきた舜助に疑問をぶつけた。

舜助は堯助に聞くといって部屋に引っ込んだ。

そのまま一時間以上経ってから二人そろっておれの前にやって来た。


「気づいたか。極秘中の極秘だ。おれたちの担当分野ではない。しかるべき方面から君にしゃべっていいと許可が出たから話そう」


「今後がガラッと変わってしまうような話か?」


「表面上はいままでどおりだ。君が疑問を持ったように、あの時言った方法では最初に説明したとおりの性能は出せない。これから話す仕組みが必要なのだ」


彼等の話を纏めるとこういうことだった。


発電衛星が七十基というのは嘘だった。

表向き宇宙太陽光発電システムということにして十基だけが敵の目晦ましのために打ち上げられているが、それらはダミーなので戦闘に参加しない。

衛星同志の戦いの時には囮になる。


ミヤコに聞けばすぐ判っただろうがおれは疑っていなかった。

太陽光エネルギーをレーザー兵器のエネルギー源にするというのも嘘だった。

発電衛星七十基の打ち上げは単なる発電目的だとして公表されたからC国にも伝わっていた。

彼等は当然レーザー兵器に転用されることも考え、その場合の脅威を自国の専門家に見積らせただろう。

専門家なら即座に発電衛星七十基くらいでは着弾までに破壊できる弾頭は高々数発にすぎないから、ジパングは我々が数発づつしか発射しないと思い込んでいるか、あるいは学生のような計算ミスをしたのだ、と答えるだろう。

すると百発以上同時に発射する実戦のミサイル攻撃は十分有効だろうと思っていたらすべての弾頭が破壊された。

不思議に思ったC国は別の何らかの宇宙兵器とみて飛び交う夥しい衛星の中から怪しいものを必死で探しているに違いない。


 実は太陽光だけではレーザー砲の威力不足だけでなく冷却用の電力も足りない。

自由電子レーザーは従来型レーザーほどでないにしてもレーザー用電源の九十%が無駄になるということはそれだけ発熱するということだ。

しかも冷媒をステゴザウルスの骨板のような冷却装置に強制循環させる電力も必要だ。

その間にもミサイル弾頭を探すレーダー走査など電力を喰う作業を止めることは出来ない。

結局相当な電力が必要だ。


 そのための宇宙戦闘用の小型原子炉を開発したという。

或る小型モジュール炉の開発プロジェクトから派生したものだ。

炉心冷却方法も冷却材も従来とは全く異なる。

小型の利点により構造は簡明になった。


メンテナンスフリーで二十五年使え、出力も可変だ。

ステゴちゃんは無人衛星だから地上のように分厚い遮蔽は必要ない。

たとえば地上ならば原子力関連の高レベル放射線研究施設にある、隅が大きく歪み向こう側が黄色く見えるあのガラス窓だ。

それは厚さ一メートルの鉛ガラスの窓だ。

そういうものが無くてもステゴちゃんは最初の説明の四倍の重さ、十二トンになっていた。


 この重さでは従来型のロケットで高軌道まで打ち上げられない。

だから打ち上げに使ったロケットの二段目も普通のロケットではなかった。

秘密裏に開発された原子力推進システムの一種、核熱ロケットを使っていた。

我々がやっているのが秘密計画だから原子力を使うことが出来た。

これも中止になったプロジェクトから引き継いだ。

これの実用化に成功した国はまだほとんどない。

これは推進剤を核分裂熱で急激に蒸発・膨張させ噴射して推力を得るというものだ。

二段目ロケットの推進剤は噴射速度の速い水素を使う。

噴射炎はかすかに青みがかる。

原子炉を含むので二段目ロケット自体も回収して再利用可能にした。

ステゴちゃんの核熱推進剤は水素より遥かに扱いやすい水でよい。

軌道の調整にも使われる。

噴射炎はかすかに赤か緑味を帯びる。


軌道はときどき変更する必要があり、それは長期間にわたる。

ステゴちゃんに太陽光パネルは無く、代わりにステゴザウルスの骨板のように沢山の輻射放熱装置を持っている。

それは無重量と真空を利用した液滴ラジエーターだが怪獣のように光ることは無い。

マスターガン衛星は高軌道で有人なので宇宙線遮蔽のため殻を丈夫にしなければならない、ゆえにさらに重くなる原子炉を持っていない。

必要なエネルギーは他の衛星から無線で送電される。

ステゴちゃんの探索レーダーの性能もレーザー砲の威力も最初の説明の十倍は出せる。

すなわち一台で三メガワットだ。


 以上の説明を受けた後堯助に質問した。


「原子力の燃料であるウランは法律で厳しく管理されている。こんな用途に使おうとしたらたちまちバレて全国民に知れ渡り、敵国にも知られ、計画は潰されてしまうのじゃあないか」


「輸入ウランならそのとおり」


「自前のウランとは再処理されたプルトニウムか?」


「それも管理されていて同じことだ。実は目の前の水たまりの中からウランが採れる」


「水たまりとは、太平洋のことか?」


「そうだ。世界最強の海流の一つ、黒潮が水に溶解した資源を無尽蔵に運んでくる。それをフィルターに析出させて回収する。我が国は世界有数の潜在的ウラン資源国だ。金だって採れる。海には陸上の三万倍も存在する」


原発で使い古した劣化ウランでは同位体構成が悪くて使えない。

海産ウランを直接高速増殖炉でプルトニウムに変換すれば高品質・無尽蔵のエネルギー資源となる。

しかも海水からウランを採る技術は実用化目前まで来ているとの記事をおれは以前どこかで読んだ記憶があった。


 珍しく堯助が夢想を語った。


「核熱ロケットを使えば木星往復旅行が出来る。現在の化学ロケットでは往きに数年かかり還りは……帰って来られない。化学ロケットの性能では木星の引力圏から脱出できない。その脱出速度の半分くらいの速度で公転している地球にも追いつけない。夢をふくらませて、核エネルギー利用手段がさらに小型安全になって一般社会で広く使えるようになると……発電設備を各都市さらには家庭ほどに分散すれば災害に強くなる。核熱推進システムを使えば航空機は水または空気を推進剤にして無制限に飛べる。電力は安価になり(地下)植物工場で場所や気象に関係なく安定して大量の農産物を作ることが出来、同様に魚類の養殖も場所の制約もなく実用的コストになる。環境に左右されにくくなるだろう。あらゆる採掘コストも含めすべてのコストが下がりやがて諸物価がゼロに向かってゆくだろう。こうなったとき本格的宇宙移住も議題になり得るだろう。最後の問題は安全性とメンテナンス性だ。その解決がこの夢を実現させる」


「堯助のたわごとだよ、わっはっは」


そう言ったのは舜助だ。


おれは難しい話に入れないので少し議論を変えた。


「堯助、我々にはこんなに技術と武力がある、とこの衛星防衛システムを公表していたら最初からC国その他はミサイル攻撃を諦めただろう。戦争も起らず、すべて秘密にするよりいいのではないか」


「地政学的理由があればどんな問題も乗り越えて相手はいつか必ず開戦する。欧州のグーテ・アルテ・ツァイト(十九世紀後半から二十世紀初頭までの古き良き時代)をもたらしたのはビスマルクの天才的な勢力均衡策だった。天才の跡を継いだ凡人たちに五つの球(欧州列強)でお手玉する奇術はできず、世界大戦を避けられなかった」


 C国は密かに高性能レーダーや望遠鏡で我が国の衛星兵器を探索し続けているはずだ。

我が衛星が見つかればC国は必ずキラー衛星を打ち上げて我々の衛星を破壊しようとする。

我々の衛星を破壊しないとICBMが使えない。

だから今現在A国との相互確証破壊(MAD)が機能していない。

C国が一方的にやられるだけの関係に我慢ならないはずだ。


 いずれは我々の衛星は発見されC国によって攻撃される。

そのとき艦隊決戦モードというものを使うというのだが、どんなものか知らない。

ここで艦隊というのは戦闘衛星群のことで、衛星同士の戦いは一瞬で終わる。

今そうなれば地上からだれにも見守られないままミヤコは何もできず宇宙で死ぬ。

そう思った時気になっておれは宇宙のミヤコと久しぶりに会話した。

ミヤコは


「ひとりで宇宙におるのは寂しいぞなもし」


方言を言うとは変だ。

やっぱり高度なアンドロイドを宇宙に放置するのは良くないようだ。

早くミヤコを地上に降ろさなければならない。

あの機械的で無表情だが従順なミヤコを想い出し、先に帰った後ろめたさを感じた。

ミヤコがまるで魂を持っているように感じられた。


 リハビリも終わり温泉での缶詰期間が解け、皆自宅に帰ることになった。


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