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ハーンのミサイル  作者: 有嶺 哲史
第五章 休戦
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地上への帰還

 バイズの反乱勃発により東アジアの国際平和はしばらく保たれる見込みとなった。

そのころ宇宙線の影響を考慮し帰る許可が出た。

おれはノーマル発電モード(宇宙発電所)に戻し、地上に帰った。

おれだけが乗った往還機が自動操縦で高度を下げ、富士山が見えるようになったとき、いつかと同じく雨上がりの夕焼けが美しかった。

薄暗くなった海水浴場で若いビキニ女達が蟻のように大勢遊んでいるのを見て何か感動してしまった。

富士山の入山禁止エリアに少し乱暴に着地した。

その後リハビリが何十日も続くとは思っていなかった。


 ミヤコは一人で宇宙に残っている。

このころになるとミヤコが固まることは無くなっていた。

彼女もいつでも帰れる、と漠然とおれは思っていた。

しかし宇宙往還機は地上に戻っていた。


 ここで再びふと思った。

ミヤコに大した指示もしていない。

おれは役に立ったような感じがしない。

おれは要らなかったのじゃあないか。



 すべてのミサイルが不発だったというのはどの発射国も認めた。

ここにきて急に興味を深めたのが味方のはずのあのA国だった。

陰に陽にさぐりを入れてきたのと同時に、A国が検知した飛来数より我が国が発表した数がはるかに少なかったことにいちゃもんを付けた。

堯助は資料を隠した。

学会で何も発表したことがないので彼は無名である。

彼の下で働いていた人々も多数いたはずだが全く表面に出てこなかった。

これは舜助についても同じような状況だった。

昔の話で、初代Gをやっつける恐怖の機械の発明者はGと資料とともに自分の頭脳も破壊した。

ところがそのすぐあとに師匠の老教授は〝Gはまた来る〟と言った。

弟子が命を断ったのは早すぎたのだ。

無名の堯助も舜助も世間から見えない所に月のように陰気にひっそりと存在していた。


 C国は国会やマスコミの工作員を使って政府の隠し事をきびしく追及させたが何も出なかった。

全ての弾道ミサイルを沈黙させたのは直前にロケットを多数打ち上げた我が国の何かの兵器だ、宇宙発電所は公表された内容と全く実態が違うと見て、その秘密を取得したかったらしい。


 おれたち三人は秘密保持のためしばらく辺境で缶詰になっていた。

温泉旅館で毎日おいしい料理を食べて湯に浸かり天国のような生活をしていた。

ただし宇宙にいて筋力の衰えたおれはしばらくの間湯船に入ることを禁止されていた。

費用は政府持ちときいて冗談に温泉芸者遊びをしようか、と言ったらアイドルでも呼べるぞと誰かが言った。

おれたちに常時付いている痩せた女性官僚が苦々しい表情で睨んだ。

おれは素晴らしい能力を持つ彼等二人とは少し違う扱いを受けていた。

他の二人は時間があれば自室で何か仕事をしていたが、おれは数か月にわたる宇宙生活から帰還したのでリハビリの課題をみっちりやらされた。


暇なとき広間のソファでよく昼寝していた。

大分地上に慣れてきたころ監視役の眼を盗んで風光明媚な海水浴場に足を延ばした。

夏の心地よい潮風の中で嬌声を上げて飛び跳ねる若い水着女を見て自分にも有ったあんな年頃も過ぎ去ったな、と感慨に耽っていたところを見つかって遥か年上の相撲取りのような太った怖い女性官僚に怒られた。


「このクソガキ!」


監視役の彼女の声のデカさはC国の庶民のオバチャンを連想させた。


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