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『無人タクシー』


「お、と……」


 唐突に走り始めたタクシーは、ゆっくりと山路ホテルのある細い林道へと向け走り出し、何の話もなく走り出した事に驚くばかりだが、慌てる様子もカメラで見られていると思うと迂闊な事も出来ず、カメラから顔を逸らして車窓を覗く。


 自動運転が故か、安全運転にやたらと速度が遅く思えて運転席のメーターを覗き見ると20km/h、電動自転車のアシスト機能が働く限界速度よりも下回る。けれど速度を出されて事故を起こされるよりは全然良いと感じて、ふと思い出した事がある。


「どうして日本人は町中でやたらとスピードを出したがるのか!」


 これを言ったのは北欧から来たレーサーだ。話を聞いた後ネットで向こうの配信動画を観て理解した。


 日本に居ると、テレビで海外ではと云う話に見せられる動画はアウトバーンのような高速道や都市と都市を繋ぐ幹線道路が多く、町中や住宅街を走る映像はあまり見ない。


 だが北欧の街の風景動画を観ていて気付かされるのは、道の広さに対して車の少なさと遅さと止まる率。日本は狭いを云うも、向こうも車線自体は広くもなく一車線、自転車道と歩行者道と中央には路面電車が走っていて、そのどれもが速度はさして出さずに横断歩道は歩行者と自転車を優先にきっちり止まる。


 オランダでは車道のハンプ(段差)が車側に付いていて、止まるがどちらかも明確だ。日本のように横断歩道で車が止まらない、という事が少なくなるよう道路構造が成されている。


 海外ではを言うのなら、先ずはそこからだろっ!


 などと考え気を紛らわしている訳だが、正直を言えば今、旧道に入り崖道を走っている事に恐怖感が止まらない。


 前を見ても運転席には誰も居ない、自転運転のタクシーの中で車窓に崖を覗いて恐怖感に打ち勝つ方法など、道路行政に対する不満をぶつける以外に無いだろう。


 よもやタクシーではなく、同じ自動運転ならレールの敷かれた路面電車やトロッコや、車車を言うならCarが付いてるケーブル・カーとかにしといて欲しいと強く願う今、崖の下に転がる車が目に入る。


 白ける心に風が吹く、いや、何故か急に『風が吹けば桶屋が儲かる』なんて言葉が頭を過ぎり、山を巻く風の強さに雪道に滑って転落とか、有り得なくもないように思えて嫌になる。


 車窓に道を見ればガードレールの無い部分が多く、標高を上げると道路の端には空が見え、雪道と曇る空との境界線がいまいち判らず、不意に気付かされるカメラ頼りの制御機能に自動運転の信頼も揺らいでしまう。


「……?」


 何故か崖を左にした右カーブの途中で車が止まり、何の反応もなくなった事にじわじわと不安が押し寄せてくる。


 いや、うんともすんとも言わない自動運転に機械の恐ろしさを実感させられ、先の事務所らしき声も聞こえず、何の情報もなく停止している車の中でどうする事も出来ない中で、ただただ動き出すのを待つしかない。



 凡そ五分は経っていると思うが不安に駆られているから三分程か? いや、三分待つ事自体も異常に思える。


 何をどうすればいいのかも判らず、とりあえずタクシー会社に電話しようとスマートフォンを取り出すと圏外。


 山間の巻き道は日陰で暗くも雪の白さで周囲は見えるが、誰とも連絡が取れずこのまま落ちても、気付かれる事すら無さそうに思えて来る


 とは言え自動運転タクシーなんて高そうだから、タクシー会社が必死になって探すだろうと高を括るも、見つかるだけでその時には既に俺は死んでいると気付き我に返った。


 このままでは絶対まずい。


「……!」


 ふと、この状況が何故に起きているのかに、一つのヒントに答えを導き出そうとする自分が居るのが怖ろしくも思える。


 【停止と圏外】


 この二つが重なり合うとソレが答えとしか思えない。


 自動運転の制御に地図の読み込み、道路状況のセンサー機器や走行データの相互通信がどうたらこうたらと、何かの発表会で聞かされたのに肝心な今には思い出せない。


 何だか分からないままに運転席を覗き見ていた俺に、余計なパーツが目に留まる。


「何故、コンパス……」


 貼り付けるタイプの大きなコンパスがフロントガラスの目に付く場所に在るが、カメラ頼りの自動運転には邪魔とすら思え、妙に細かく刻まれる緑のラインと方位が示す。


 今、車が向いているのは南南東微南。


 凄く嫌な感じがして来たけど、九十九折の道とかで方位云々言ってたら走れない。そう考え方位から気を逸らす。


 このままでは埒が明かない。とりあえず、林道をそのまま下ればまだ歩いて帰る事は出来そうだからと、ドアを開けようとしてノブに手をやるが、開かない。


 まあロックはするか。と、運転席のサイドボタンを弄るが反応しない。


〈これ、閉じ込められたのか?〉



――PIPUUUBUUBUUPONN!――


 何の音かは知らないが、何かに反応しているのは確かなようで、暫くして走り始めた。


 けど、さっきよりも更に更に遅くハンドルの動きが露骨に硬く、微調整と言うより家庭用ゲーム機のコントローラーでハンドル操作しているみたいな、何とも言えないぎこち無い動きで見ていられない。


 速度計は15km/hとかなりの遅さ、左カーブをようやく抜けて林道の最深部に入って来た所で、突然音声が入って来た。


 てっきり安心して下さい的な話かと思えば……



『これから言う口座に五百万円振り込んで下さい。拒否した場合はこの先の崖に車ごと落とします』


 唐突過ぎて何を言っているのか理解が出来ず、カメラでは俺が反応をしていないように見えたのか、声に苛つきを加えて喧嘩口調で迫って来る。


『マジで、お前バカなの? 自分の状況解ってんのか? おい、返事しろよこの野郎! コッチはカメラでテメーの顔も見えてんだよ!』


 言われて気付く。見えているのであって、聴こえてはいないのではと……


 とりあえずに口パクしてみると妙な反応が聞こえてきた。


『おい、音入ってんのかこれ? ここに反応有るから大丈夫だと思う』


 相手は二人?

 間違いなく車の制御がクラッキングされた状態なのだろう。

 昔から走行データを欲しがる自動車の関連企業が車の制御盤に通信基板を繋げた事で、走行データの通信基板をクラッキングして車の制御を乗っ取る事に成功した事例が欧米では多く報告されてもいる。

 だが、日本では報道されていない。


 本業のオカルト誌の関係で海外のそれ系の動画を仕事として散々見ているだけに、確認方法も知っているけどカメラで見られている中では使えない。


 いや、五百万円て何処から算出した数字だよ。俺が仕事に持ち歩くカードにそんな金額は入っていない。

 恐喝するにも、せめてそこまで見越しておいてくれないか、今払えるのは……


 あれ?

   うそ?

     嘘でしょ?

        何で?

          何で?

   何でないの?


   財布……



『なに、わざとらしい事してんだよ!』



「……いや、マジなんだけど」


 最後に使ったのって……



 ……あっ!


 神社、おみくじ、南南東微南の暗剣殺……


 俺、終わったかも。


 

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 本作の主人公が所属するオカルト四季刊行誌『Argo』など、『Argo』のメンバーが登場したり関係する作品へのリンクバナーを以下に貼りました。
【繋がるオカルトミステリーホラー】
双穴水鏡山Argo願いの飛び石トライ
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