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『無線タクシー』


 早朝から列車を乗り継ぐ長旅に、昼を迎えて車内で駅弁を食べれば蔑すむ視線に晒される。


 嫌な時代を感じながらの電車旅になってしまったと思いつつ、軽油臭い田舎路線の列車で暖を取りつつ食べれば良かったと気付き後悔する今、着いた駅にはゴミ箱はおろか人も居ない。


 この辺りは雪もそれほど降らない筈だが、山を観ると上の方では針葉樹が白みがかって見えている。


 凡そ六時間半を掛けて辿り着いた目的地だが、駅前を白銀が薄く覆っていた。



 ここへは十数年前にも訪れているが、当時の駅前には土産物屋と喫茶店に加え定食屋まであり、観光客もそれなりでタクシーも三台程はあったように思う。


 だが今はその全てが何処へ消えたと言うのか、来る前にネットで見たどこぞのマップは夏の画像で、ロータリー周辺の建物は取り壊され、アスファルトを割り砕いて押し退けた雑草が地表を覆い、何処までが跡地かすらも判らなかった。


 昭和の終わりまでは電車旅の人気に客足も多く盛況だったが、献金に(ナビ)いた政治屋が『今は車だ車!』と言い始めれば、あっという間に道路族の利権が成立。


 政府が国鉄事業から手を引けば廃線は無いとした約束も反故にされ、民間事業としての経営に田舎路線は削られて行く。


 田舎町の有力者もまた政府の補助金に靡き、客足が遠退く理由を車の客が来やすい道路が無いせいだと説き伏せれば、道路族は悦び勇んで山を削って道路は完成。


 だが元々の客は電車で来ていたのだから、道路が出来た処で態々車で来る客などいる筈もなく、道路整備に電車の客をなおざりにした結果、乗車率が下がり廃線の危機に陥り減便されて客足は更に激減。


 今は沿線にある高校のお陰で何とか第三セクターで維持している状態だが、新たな道路利権の話が沿線に住む免許の無い学生や老人の生活に怪しい影を落としてもいる。


 平成十二年頃を境に道路事業の利権政治は田舎路線にも牙を剥き、全てを狂わされたこの温泉地は影響をもろに喰らった形で町の全てが廃墟と化した。



 生憎な話だが今日の俺は廃墟写真が飯の種、馬鹿な政府の対応にも死んだ魚の目で微笑っていたが、過去の栄華を知る町が死んでいるのを目にする度に、何だか自分が死神になったようにも思えて来る。



 廃墟を求めて列車を乗り継ぎ、辿り着いた駅は自動改札で無人化され、田舎の光景としては定番の駅前ロータリーに停まる一台のタクシーですら運転手の姿は見当たらない。


 駅前の雪原に足跡は一つとしてなく、タクシーの屋根には十センチ程の厚みを乗せ、昨日からの風雪を判らせる。


 ドライバーの成り手不足の影響なのか、まさかこんな田舎駅に自動運転タクシーが普及しているとは思わなかったが、今やこの駅は本当の意味での無人駅となってしまった。


 廃墟となって最先端を行く無人駅の皮肉さはディストピアらしくも感じられ、廃墟写真を撮ろうとする俺の気分を盛り上げる。



 一部の建物は取り壊されて跡形も無くなり、道まではみ出す程に鬱蒼と伸びた草木が雪に埋もれていたのか風に吹かれて顔を出す。


 人の背丈よりも高くなる草もあり、見知らぬそれが雑草本来の姿と知って驚いた。


 人が消えてからも歩み続ける自然の一歩は遅く短く緩やかにも思えるが、進む自然と衰退する人工物の対比は新たな生命の芽吹きとさえ感じてしまう。



 元の駅前商店街に残る建物も硝子は割れて下に散らばり、木材は腐り鉄骨は錆びて崩壊した箇所も多そうだけど、今は雪が薄っすらと隠してもいて、強い風が吹けば建屋ごと倒れる可能性が高く、被さる雪を見れば中へ入る以前に建物前の道を歩く事すら危険と知れる状態だ。


 既に道に向け倒れた建物も幾つかあるが、残骸を道から退かした形跡を残してもいて、自動運転の車を通す為なのは間違いない。


 裏を返せば、人の家や生活よりも技術開発に無人の車を通す為にと人が労働した証拠でもある、これをディストピアと言わずに何をディストピアと言うのだろうか。



 家の中から伸びた枝木が窓を突き破って陽に葉を向けようと春を待つ。


 蔦を這わせ上を目指す野性味あふれる生命力も冬枯れし、共に朽ち行く鉄骨を見つけては自然に淘汰される人工物の崩れ行く様に人の愚かさを重ね表すようで、ファインダーの中では美しくも映る。


 ディストピアに抗えるのは人ではなく自然なのだと判らせる、この光景にこそ真理があるように思えてならず、ファインダー越しに切り取る絵面を眺めては、浮足立ったか元の駅前商店街だけで既に百枚程を収めていた。



 ファインダー越しにこの温泉地の栄華の時代を思い浮かべていたが、俺自身の若かりし頃に重ね見て同情していたのかもしれない。


 前回ここへ来た時の俺は旅行雑誌のカメラマンで、ライターと一緒に泊まりで温泉地を巡り、個室や料理や温泉にとレンズを向けて、撮影を終えれば女将に持て囃されるがままに舌鼓し浸かるを繰り返していた。


 社に戻ってからは写真を精査し編集作業と、眠れない忙しさすら苦にならない程、当時の俺は充実した日々を過ごしていた。


 だが、当時の俺はカメラマンなのに明るい所ばかりを見ているだけで、影の部分を見ようともしていなかった事を今更に知り後悔を浮かべる。



 考えてみれば高速道路の延伸に伴い田舎路線の廃止も相次ぎ、新幹線の新設を始めたのも平成十二年頃。


 パソコンの二千年問題に託つけ、買い替え需要を外資が叫び、デフレを叫ぶ政府の思惑にグローバリズムを言い出したあの頃から、俺の人生も可笑しくなっていた。



 メディアは自分で自分の首を絞めているとも知らず、景気低迷を言っては豪華さや遊びを叩き始め、経費削減に人件費を削り出す経営者を褒め称え、遊ぶ金すら無い庶民に対し矛先を向ける。


 気付けば旅行に行く金どころか旅行雑誌を買う金もなく、電車旅から自転車旅へと移行する学生が出始めたが、それはスポンサーである自動車業界の思惑から逸脱した事態。焦ったメディアは男女平等を訴えておいて連呼した。


『車の運転が出来ない男は女にモテない』


 イメージ戦略を仕掛けたところで時既に遅く、女性が運転する機会が増加した事実にすら気付かず対応も遅れ、今や若者は個人を優先して旅行にそもそも金を使わず、中古やシェアを当たり前に近場で賢く安く過ごす事を主に置き、キャンプやBBQ等に目を向けている。


 テレビで観る金使いの荒いガキを調べてみれば、政治家や資産家の二世や警察・検察等の国権幹部や宗教家族や外資系就労ビザの外国人の子供ばかりで、裏社会を隠してはしゃぐ坊ちゃん嬢ちゃんが殆どだ。



 そうして日本の一般人は旅行に行く金すら税とし奪われ、日本の観光地は外国人に占拠され、売国奴のガキ共が日本の歴史文化を破壊し微笑い、税金で贅沢三昧に遊んでいるが故にこうした廃墟が増え続けている。


 それを知る俺もまた、今日はその廃墟で飯を食っているのだから同じ穴の狢の一人なのかもしれない。



 小さな液晶画面で撮った画像を確認しつつ、浮かべる思想に妙な自論で気を削がれ、天を仰いで白い息を吐き捨てるが、視界に入る薄く雪を乗せた山並みに当時の記憶が顔を出す。


 不意に思い出したのは、商店街と温泉街との間に昔からある神社で、当時としては画期的なガチャガチャの【おみくじ】が置かれていたが、妙に当たると評判にもなり、旅行誌でも取り上げられたが、今もあるのか興味が湧いて進む足がやたらと軽い。


「在った……」


 思わず声に出てしまう程に残っていた事に感動した。

 鳥居を越えたこの一角だけは雪も被らず、拝殿の屋根に守られているそれは、いつの間にか隣にもう一つ御守りのガチャガチャまで置かれていたが、中身はないのか神の加護を賜る御守りに【故障中】とは貼りたくなかったようで、【留守中】と貼られている。


 その横で当時より新しいタイプのガチャガチャではあるが、中は当時と変わらず白い半紙のような紙で隠されカプセルが入っているのかも判らないが、流石に大人が神様の御前でそれを振って確かめる訳にも行かず、とりあえずに財布を取り出し投入口を見て、またも声に出してしまった。


「五百円?」


 時の流れを加味する神ならではの気まぐれか、神の世界も地獄の沙汰と道理に思えば、金次第で先の未来も知る事が出来るのだからと。


「ありがたや、ありがたや」


 口走った言い訳に感謝を口にしながら五百円玉を入れようとするが入らない。百円玉を五枚と気付き慌てて探す。


「ありがたや、ありがたや」


――GATYAGATYA――


 そう言って回すと朱色に塗られたカプセルが転がり出て来たものの、凍える手では開けるも苦労で、ポケットのカイロで温めながら何とか開けると、みくじ札と共に温泉街行きの記念切符が同封されていた。


 当時はこの記念切符でバスやタクシーにも乗る事が出来、温泉街の湯にも浸かれたようだが、廃墟となった今には記念切符の意味も変わる。


 みくじ札を開き、読み進めるが、末吉。


総合:前向きな姿勢で上向く

恋愛:冷静さが必要

金運:衝動的な出費は控え計画的に

健康:浮き沈みあり、気を配せ

方位:南南東微南・暗剣殺

失物:足下


 末吉は吉の下だから凶に向いてるとか、凶の上だから吉の末端とか所々で違う話を聞くだけに、何だか厄介なものを引いた気にもなって来る。

 ただ内容を見る限りは、慎重に考え前向きさを忘れなければ良さそ……


 何だ、この暗剣殺って?


 方位の所にあるが、この南南東微南とかも、やたら詳細に指し示されると流石に気になる。


 ネットで調べてみると『二大凶方位の一つ』とあり、『災いや予期しないトラブルが起きる』とある。これはつまり末吉は凶って事だろ。


 この方位は、自分が最近二晩以上滞在した場所を基準にした方向とある。考えてみれば昨日までの三日間は北陸で仕事していただけに、俺にとってはこの温泉街自体も南南東微南じゃないのか?


 そう考えた途端に不吉な場所に思えて来るとか、人の思考はいい加減で不思議なものだ。何せ今立っているのは神社の敷地、神様の領域に立って不吉とか失礼にもほどがある。


 とりあえずにおみくじのガチャガチャと御守りのガチャガチャをカメラに収め、鳥居を抜けて次は何処へと考える中、以前訪れた際に泊まったホテルが気になり出した。


 奥山の中腹辺りに立つホテルまでの道は、新設した広い道路のトンネルからは行けず、崖道の旧道を行かなければならないとまでは記憶にある。


 だが、駅前ロータリーにあるのは無人タクシー、アレに乗って行けるものかに不安が過る。細い巻き道もある林道だけに危険にも思えるが、気付けば何故か無人タクシーがこちらに向けて走って来た。


「え、」


 誰かが呼んだのかと思ったが、俺の横で止まるとドアが開いた。もしかするとカメラで人を認識して乗車の可能性に追尾して来たのかも知れない。


『どうぞ、ご乗車下さいませ』


 人の声なのかAI的な音声なのか、今や相手を知らなければその違いも気付けそうにないが、一応に確認してみる。


「あの、奥山にあったホテル……名前が確か、山路ホテルだったと思うんですが、このタクシーで行けますか?」


 応えているのがAIではないと判る軽妙な対応が返って来る。


『山路ホテル、あああ、あ、これだ。大丈夫ですよ。入力するので中で少しお待ち下さいね』


 事務所から電話で話しているかの対応に、こちらの様子は中にあるカメラで見られていたのかと思うと少し恥ずかしくもなる。

 一眼レフカメラの電源を落として蓋をし、バッグや服の雪を払って中へと入るとドアが閉められ車内の暖かさに安堵した。

 こんな廃墟で暖を取れるとは思っておらず、かなり着込んで来たがそれでも寒く、暖を取れる幸せを感じていたが、この時点で俺は気付くべきだったのかもしれない。


 

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 本作の主人公が所属するオカルト四季刊行誌『Argo』など、『Argo』のメンバーが登場したり関係する作品へのリンクバナーを以下に貼りました。
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