黒炎龍VS巨大ロボ、叫べウェルブレイバー!!⑤
広場に到着してウェルブレイザーの手の平から降りるセレンティーヌ達。
先程までとは比べ物にならない程一変した街の様子に思わず溜め息が漏れる。
建物は壊崩れ落ち街のあちこちは黒き炎に包まれている。
「このままだとこの国が滅びるのも時間の問題ね…」
「まさかこんなタイミングでバルハムートが現れるなんてな……」
本来バルハムートはファーストシーズンにおけるラスボスの筈だ。
セレンティーヌ達の話を元に整理すると、この世界は時系列的で言えば今は中盤辺り。
ユナが聖女の力に覚醒してセレンティーヌが王子との婚約を破棄され勝負に負けたのが七話あたり。
その時点ではバルハムートの存在事態描かれる事はなく、初めてその名前が登場したのは最終回前の十一話。
ただでさえいきなり過ぎる展開だってネットで話題になったのに、これは余りにも話を端折りすぎだ。
テンポはいいかもだけど視聴者置いてけぼりも良いところだ。
それに原作だと王都は襲われるがここまでの被害にはなって無かった。
やっぱりこの世界は俺の知ってる〈ファンタジクス〉とは何かが違うらしい。
人々の悲鳴を聞いて聖女ユナが姿を現さないのもまた妙だ。
それともう一つおかしな所。
「国の危機だってのに随分セレンティーヌは冷静なんだな」
「焦ったって何も変わらないでしょ」
「このオレを待機させてたのもまるでドラゴンが街を襲うと分かってたみたいだ」
さっきも言った通りバルハムートは最終回直前で伏線も無くいきなり登場するボスキャラ。
だからセレンティーヌが知っているわけが無い。
原作ではバルハムートを初めて見た時、全てをユナに押し付けて数秒で尻尾を巻いて逃げたのが印象的だ。
だから俺の知ってるセレンティーヌがこんな冷静でいられる筈も無いのだ。
「どうして分かってた?」
「私の勘ってよく当たるの。今日もそれが当たった。ただそれだけの話」
「勘だと?……」
「そう。自慢だけど昔からこういう勘だけは一度も外した事が無いのよ」
確かにセレンティーヌはずる賢く頭がキレる奴で思いつきだけで動くような直感的な奴ではあったけどさ……。
「じゃあオレを近くで待機させてたのは」
「嫌な予感がしてたから念の為。仮に外れてもあれだけ登場が派手ならサプライズとしても面白いでしょ。…それより今はこっちが優先!」
セレンティーヌはオレとの会話を早々に切り上げると一目散に瓦礫の方へと走って行く。
「お、お嬢様!?」
レイフォードとオレも遅れて駆けつけると、そこには衝撃の光景が広がっていた。
「ママ……!!」
「…カイン。私のことはいいから早く、逃げて!……」
「逃げるなら二人一緒にでしょ。大丈夫。直ぐに助ける」
瓦礫に挟まれた少年の母親をセレンティーヌが助けようとしているのだ。
「お嬢様これは……」
「ぼさっとしない!レイフォードアナタも手伝って!」
「は、はい!」
人は蹴落としてなんぼ。人を救おうだなんてこれっぽっちもイメージが無いあのセレンティーヌが人助けかよ……。
そんなのあり得ない。
セレンティーヌは憎まれてなんぼの悪役だぞ。
言ってしまえば、主人公がハッピーエンドになる為だけに存在する都合の良い敵役。
「そういうことか……」
少なくてもアニメ〈ファンタジクス〉の世界じゃこんな行動は許されなかっただろう。
でもこの世界はアニメじゃない。決まった役割があるわけでもない。
この世界のセレンティーヌは自分の意思で生きている。
ただ純粋に自分の生き様を赴くままに。
「せーので持ち上げるわよ!」
「はい」
「行くわよ。せーーの!!…ん?」
母親の足を挟む巨大な瓦礫を二人で力を合わせ持ち上げようとした瞬間、瓦礫が宙へと浮かぶ。
「こういう力仕事はオレに任せろ」
オレは軽々と周囲の瓦礫を撤去する。
こんな重そうな瓦礫もオレには綿飴でも持ってるように軽く感じる。
「ママ!!」
「カイン!!」
「一々言われなくても良く出来たわね。褒めてあげる」
「別にお前に褒められても嬉しくない」
オレは正直セレンティーヌの事が嫌いだった。
理由は簡単で推しのユナの敵役だったから。
ただそれだけだった。
でも、
「ありがとうウェル。助かったわ」
この世界のセレンティーヌなら推してもいい。
心なしかそう思えてしまった。
「…どういたしましてお嬢様」
「え、お嬢様って…いきなりどうしたのよ?」
「オレも部下としてちょっとは変わらなきゃと思ってな」
「ようやくお前も部下としての心構えが出来たようだな」
満足気に頷くレイフォードだったがセレンティーヌはきっぱりとそれを否定した。
「それやめて。ウェルにお嬢様って言われるとなんか気持ち悪いわ」
「気持ち悪いってなんだよ。せっかく気を遣ったのに」
「気を遣われるのが嫌なのよ。今度お嬢様って呼んだらクビにするから」
「分かったよセレンティーヌ。これでいいだろ?」
「ええ。余計な気を遣うアナタが悪いんだからね」
「ったく……ってお前、血が。城で何があったんだ?」
これがアニメならちょっと可哀想くらいで済むんだろうけど、リアルで見るとこれだけでも大分生々しい。
それにアニメのキャラが目の前で実際に血を流してるってのは妙な気分だ。
「ちょっと揉めてね」
「揉めた?あ、もしかして聖女にか!?」
「なわけないでしょ。あの子に私を張れるだけの度胸なんて無いもの」
だよな。虫一匹殺せない優しいユナの性格なら戦いよりもまずは対話を選ぶと思う。
相手がどんな凶悪な奴でも許しちゃうのがユナの良い所だもん。
「じゃあ誰が?」
「この程度ただの擦り傷。放って置いても治るわ。それより今はあっちがの方が問題よ」
「だよな」
バルハムートのヤツ、長年封印されてた鬱憤を晴らすように気持ちよく空を飛んでらぁ。
よっぽど街を破壊するのが楽しいみたいだな。
「レイフォードは二人を安全な場所へ連れて行ってあげて」
「畏まりました。でもお嬢様は?」
「私はウェルとあっちをなんとかする」
「たった二人でですか!?危険です!」
「それでもやらなきゃ。近くにいるのにこのまま見て見ぬふりってわけには行かないでしょ」
「お嬢様…分かりました。其方はお任せします」
「ええ。任されたわ」
「デカブツ!」
「おお!?…」
レイフォードな弁護士のようにオレを人差し指を突き立てた。
「お前にお嬢様を任せるのは癪だが…お嬢様が決めた事だ。文句は無い。頼んだぞ…ウェルブレイザー」
渋々言葉を絞り出したレイフォードの様子にオレは何故か感動しかけていた。
「お前オレの名前…」
「た、偶々だ!…とにかくお嬢様のことを頼んだぞ。私達は先に行く」
レイフォードってカッコいいだけじゃない。
カワイイ所もあるだなんて、なんて羨ましいんでしょう。
「…あの、大きなお兄さん!!」
さっきの少年の声が聞こえる。
あの子にとって180センチはあるレイフォードは大きなお兄さんか。
「お兄さん!!」
なんだアイツ。何か答えてやればいいのに……。
「お前だデカブツ」
「呼び方戻ってるし、え?」
「あの子はウェルを呼んでんのよ」
「お、オレ!!?」
確かに言われてみればこの中で一番大きいけど、オレがお兄さん!?おじさんじゃなくて!?
そんな風に呼ばれたのいつぶりだろう。十年、二十年?いや、もっと前かも。
「ママを助けてくれてありがとう!!」
「あ、ああ」
「ねぇ!」
「ん?……」
この先の展開は大体想像がつく。
「お願い!ママやみんなを苦しめたあの悪い奴をやっつけて!!」
その少年のたった一言がオレの躊躇や恐怖といった感情をまとめて吹き飛ばした。
これに対しての返答は決まってる。
「任せろ!!」
気分はヒーローそのもの。オレはここぞとばっかりにカッコをつけ親指を立てた。
少年は笑顔でオレに頷き返すと、母親やレイフォードと共にこの場を後にする。
「いいの?あんな事言っちゃって?」
「オレって単純だよな」
今更になってちょっと恥ずかしい。
でも後悔はない。
「分かりやすい人私は好きよ。だって扱いやすいもの」
「フッ。褒め言葉として受け取っておくよ」
「行くわよ。まずはアイツを追いかけなきゃ!」
「ああ!!」
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