黒炎龍VS巨大ロボ、叫べウェルブレイバー!!③
「止まれ!!」
野太い男の怒鳴り声が耳の中でこだまする。
余りの声の大きさにセレンティーヌも耳を塞ぎうんざりとした様子を浮かべている。
「動くな。手を上に上げろ!」
兵士の先頭に立っているガタイのいい男が剣を構えると残りの兵士達も一つもタイミングをずらすことなく剣を抜く。
「なんだコイツら」
「お嬢様…」
「どんな歓迎をしてくれるのか楽しみにしてたけど、流石にこれは予想外。サプライズね」
彼らは武器を前に突き出しながら一歩ずつ前へと歩みを進める。
「お前は何者だ!何が目的だ!!」
「え、オレ?…」
兵士達の切先は全てオレに向いている。
それもご丁寧にオレを取り囲むように。
「大人しく人質を離せ!お前は既に包囲されている。勝ち目は無い。諦めて降参しろ!!」
「ちょっと待て。これどういうことだ!?……」
「ふふふ…なるほどそういうことね。ははは!」
最初こそ笑いを我慢しようとしてたセレンティーヌだが最後には限界だったようで思いっきり大口を開けて笑いこけているではないか。
「笑ってる場合かよ!!オレめちゃくちゃピンチなんですけど!?」
「これが笑わずにいられる?無理よ無理!はははは!!」
くそッ……他人事だと思って!!……。
「お嬢様。このくらいに。流石にアイツも可愛いそうです」
「レイフォード…」
お前、いい奴だな。オレが女なら今ので三回は落ちてるかも。
「ふっ……」
「おま!」
今の撤回!
アイツ鼻で笑いやがった。悪役令嬢の執事は揃って悪役か!
それはそれはお似合いですね。くっつかないのが不思議なくらいだ〜。
フンッ!
「お前らな、何か知ってるなら教えてくれよ!まがいなりにも部下のピンチなんだぞ!」
「悪かったわよ。そんな怒らないで」
「これが怒らずにいられますか!!」
ダメだ。落ち着けオレ。心を研ぎ澄ませろ。
受注者限定ユナの等身大フィギュアを思い出せ。
出来の割には五十万もした無駄に高いあのフィギュアの顔を。
不思議とオレの体の内部が冷却されるように冷たく感じる。
そうだ……それでいい。
あの時の怒りと比べればこの程度、どうってことは無い。
「……で、どういうことなんだ」
「多分彼らにとってウェルは私を人質にとってこの国を襲おうとしている侵略者にでも見えてるんじゃない?」
「はぁ!?」
「まさか敵意を抱かれるどころか被害者に思われるとは考えが至りませんでした…」
「きっとさっきアナタを見て噂をしてた大勢の市民達が通報したのね。カイゼル商会の令嬢セレンティーヌが化け物に捕まってるって」
「何だよそれ!言い掛かりじゃん!」
だから言ったんだ。大騒ぎになるって。
「しゃ、喋った!!」
「モンスターが喋るだなんて聞いたことないぞ」
「図体はデカいがやっぱり人間なのか!?」
「全員怯むな!俺達の目的はこの化け物からセレンティーヌ様を救うことだ!!今はそれだけに集中しろ」
どうしよう。今にも襲いかかってきそうだ。
このままじゃモンスターに間違われたままオレは殺されるのか。
「だけど面倒ね。約束の時間に遅れてしまうわ」
「そんなこと言ってる場合かよ!何とかしてくれ!」
「そうね…ウェル命令よ」
「なんだよ、何をしろって?」
「その手で邪魔者を蹴散らしなさい。それが一番早いわ」
コイツ、オレに人を殺せって言ってるのか。
確かにセレンティーヌは原作でもプロの殺し屋に頼んでユナを殺害しようと目論んだり、目的の為には手段を選ばない冷酷な女なのは知ってる。
でも、そんなのできるわけがない。
オレはプロの殺し屋どころか喧嘩すらしたことない、人一人殴れない普通のおっさんなんだぞ!
「ちょっと待て。いくら正当防衛だってそれは無理だ!」
「早くしなさい。これで遅れたらウェルのせいよ」
「デカブツさっさとやれ。お嬢様の命令だ」
「お前ら、それ本気で言ってるのか?……」
マジかよ……。
「なわけないでしょ」
「なわけないだろ」
「なっ、……」
二人共口を揃えて冗談だと笑い合う。
「そうなればそれこそ戦争だ。そんなことお嬢様が望むわけがないだろ。お前も部下ならその位分かっておけ」
「レイフォードの言うとおり。ただの誤解なんだからそれを解けば済む話よ」
くそッ。この二人またオレを揶揄ったな……こっちは本気でビビってたってのに!
「セレンティーヌ様今の内にこちらへ!」
「お気遣い感謝しますわ。でも心配無用。武器をしまってもらえる?」
「一体何を?」
「大丈夫。早くして」
「…分かりました」
兵士のリーダーらしき男は渋々武器を下ろす。男の部下達もやむを得ずそれに続く。
「怪物のようなあの巨人、実は私の部下なんです。誤解を招くような真似をしてしまって申し訳ありません」
よく言うよ。そのつもりでオレを連れてきたくせに。
「部下!?本当ですか?……」
「ウェル。せっかくだから自己紹介なさい」
「え、」
「早く」
「わ、分かった…」
相手が相手なだけに敬語はマストだよな。変に反感でも買ってトラブルになったらセレンティーヌに怒られかねない。
だったら、出来るだけ腰を低くして下手に出よう。
「先程は失礼しました。どうも初めまして。私はウェルブ」
「ッ」
ん?
今舌打ちのような音が聞こえたような……
「(え、なに!?)」
ふと振り返るとセレンティーヌがオレにだけ分かるようにこちらをめちゃくちゃ睨んでる。
なんだあの高等技術。
パッと見は笑顔のままだけど、よく見ると目が笑ってないのが分かる。
……なんか言ってる?だけど声が小さくてよく聞こえない。
何とか聴き取ろうと耳を傾けると、他の雑音は遮断されセレンティーヌの声だけが大きく聞こえるようになる。
すげぇ…こんなことも出来るのかオレ。
「(もっと堂々と。上から目線で!)」
「え!?」
「あの〜どうかしました?……」
「あ、いや、ちょ、ちょっと待ってくださいね」
セレンティーヌはオレにその声が届いていることを確信すると再び小声で話し出した。
「(こういうのは最初が肝心よ。ビシッと決めて格の違いがあると思い知らせてやりなさい!)」
おいおい、ただでさえこんな大勢の前で自己紹介しろってだけで緊張してるのに、そんなの無理だって!
「(早くやりなさい!クビになりたいの?)」
出会ってまだちょっとってのに、毎回痛いところばっから突きやがって。
分かった分かったよ。やればいいんだろやれば!
……俺はオレだ。日本にいた頃の俺とは違う。
今の俺は子供の頃によく見てたスーパーロボットそのものだ。
なりきるんだ。あの頃憧れたアニメのように!
「ゴホンッ…先程は失礼。オレの名前はウェルブレイザー。閃光機動ウェルブレイザーだ!!以後よろしく!」
どうだぁ!これならアニメに出てくるロボっぽいだろ。
それに閃光機動って響きも男子の心を擽る。思いつきにしては悪くないよな。
それにしても今の声。急に変わったけど本当にオレの声なのか?まるで声優にでもなったようだったぞ。
「ダサッ」
「はぁ!?」
ボソッと呟いたセレンティーヌの声をオレは一言一句聴き逃さなかった。
「何だよいきなり。お前がやれって言ったんだろ!」
「声が変わって覚悟でも決まったかと思ったらあれは無いわ。閃光機動って…ここに来る時私が乗ってた馬車と全く同じ速度だったじゃない。どこが閃光なのよ」
「それはだな…」
確かに空を飛べるわけでも、もの凄く速く走れたりする気もしないけどさ。
「いいだろ!こっちの方が響きがいいんだから。それにカッコいいだろ!」
「却下」
「えぇ!?」
「私の部下が失礼しました。彼はウェルブレイザー。そう呼んでくれればいいわ。さっきの変なやつは忘れて」
「変なって……」
「これは失礼しました。ウェルブレイザー様」
誤解が解けたのはいいがこうも露骨に態度が変わるのは複雑な気分だ。
「あの、気にしないでください。悪いのはこっち、…ギクっ!」
「ウェル」
背筋が凍るような悍ましい気配を感じオレは慌てて言葉を変える。
「済んだ事だし気にするな。それにオレに様はいらない。タメ口でいい」
「ではお言葉に甘えて。…ウェルブレイザー。君は見た目だけじゃなく心も大きいんだな」
「おいおいやめてくれ。オレを褒めても何も出やしないぞ。ハハハ」
言葉こそ否定してるものの、分かりやすく照れるオレにセレンティーヌもこの表情。
だけどこれにはオレも驚いていた。
こんな大勢の人前で冗談混じりに会話を交わせるなんて、日本にいた頃の俺じゃ考えられない。
これもなりきろうとしたお陰かな。
子供の頃に想い描いた自分の憧れに。
でも、大人になると分かる。子供の頃の夢は殆ど叶わないままいつかそれすら忘れてしまう。
だけどこの世界ならそうじゃないかもしれない。
夢の形や姿は変われどその想いは決して忘れてはいけないのだ。
「お嬢様そろそろお時間が」
「そうね。それにこの感じ…急いだ方が良さそう。ウェル」
「ん?」
「これから私は約束通り王と会ってくるわ。アナタはここでお留守番ね」
「留守番!?ここまで一緒に来たのに」
「仕方ないでしょ。珍しくあの城は私の屋敷と違ってウェルが入れるほど広くないんだから」
国の城より広い屋敷を持ってる方がよっぽど珍しいとオレは思う。
「待ってる間きっと暇だと思うの。だから一つ仕事を与えるわ」
「仕事?」
「私がアナタの名前を呼んだら直ぐに駆けつけること。それも周りがあっと驚くような登場の仕方をしてね」
「最後の意味が分からないんだが……」
要するに呼ばれたら直ぐ来いって事だと思うんだけど周りが驚くような登場をしろってなんなんだ?
オレを使ってサプライズでも仕掛けるつもりか?
「じゃあ、そういうことだから」
「お、おい!まだ質問が!」
そのまま振り返らずに手を振ると一切足を止める事無く城へと向かっていた。
周囲にいた兵士達もセレンティーヌの護衛といて付いて行ったためここにいるのはオレ一人。
「これじゃまるでご主人様を待ってる飼い犬だな……ワン」
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