悪役令嬢暗殺計画④
ゴーグルが無くても海の中ははっきり見えてる。
海の中は透き通っていてとても綺麗だ。許されるならもっとゆっくりと見ていたいくらい。
息が苦しいような感じもない。でも上の数値は少しずつ減っている。
これがゼロになるまでに陸に上がらないと。
「これ本当に大丈夫?……」
「大丈夫だ。思ったより冷静だろ」
「おいデカブツ。ちゃんと反応の場所に向かっているのか?」
「安心しろレイフォード。奇跡的に向かってる。このまま潜った先だ」
「違うわよウェル。これは潜ってるんじゃない。沈んでるのよ」
「……それを言うなよ!」
異世界にスーパーロボットとして転生してもオレはカナヅチだった件。
……なんて笑えねぇ冗談なんだ。
こうなることなら子供の頃からスイミングスクールにでも通っておくべきだった。
それか今度はちゃんと浮き輪を持って飛び込まなきゃな。ロボットのオレでも浮かせられる浮き輪が存在すればいいけど。
大きな岩が沈むようにウェルブレイザーは真っ直ぐと海の底へと沈んでいった。
深い海の底に足が付くと真っ暗な筈の海の中は何かに照らされてているように明るく見える。
「ここが海の底か……思ったより明るいわね」
「いいやオレの視力がいいからだ」
本来光とは無縁の深海の世界。姿を隠すのにはうってつけな場所だ。
だけどオレには見え見えだ。
真っ暗な海の世界で妙に目立つ青白い巨体。間違いない。
「見つけたぜ。あそこだ!!」
「げっ!……いつの間に!?」
「コイツが真犯人ね。確かに見るからに卑怯な顔してるわ」
「中にいる女を殺してからの一戦が理想でしたがまぁいいでしょう。海はワタシの独壇場なのですから!」
海の中を自由自在に動き回るエルトゥナ。
銃口はウェルブレイザーに向けられ複数のポインターが同時にロックされる。
「狙われてるぞデカブツ!」
「分かってる。だけど歩くことすら出来ないんだよ!」
泳げないウェルブレイザーにとってこの場から一歩移動することすら困難であった。
「私がやる。とにかく移動するわよ!」
セレンティーヌも中から動かそうとするがレバーが固く上手く動かない。
「固っ……」
「お嬢様私も手伝います!」
レイフォードも加わりなんとか足に力入るのが伝わってくる。
「うおおおお!」
だが二人がかりでようやく動けたのはたった一歩。右足を前に踏み出しただけだ。
「ウェルブレイザー。私の居場所を見つけた事だけは褒めて差し上げます。しかしここに一歩踏み入れた事は間違いでしたね!!」
エルトゥナから連続に発射されたミサイルがウェルブレイザーを蜂の巣にした。
「ぐああっ!」
「ッ!…」
「お嬢様!」
複数の攻撃をまともに被弾した事で中にいるセレンティーヌにもある程度の衝撃が伝わったようだ。
「大丈夫かセレンティーヌ!」
「こっちの心配はいいわ!今は目の前の敵を倒すことだけを考えなさい」
海の中じゃ思った通り動く事もできず、ウェルブレイバーが無ければ盾として使うことも反撃することもかなわない。
考えるたってこれ以上選択肢が無いのにどうしろってんだ!
「ぐああぁ!」
少し集中してる間に再びミサイルが着弾。ついにウェルブレイザーのボディーにヒビが入り始める。
「マジでやばくなってきたなコレ……」
「冷たっ!…え、ウソでしょ!?」
「どうした!?」
「少しずつだけど中に水が入ってきてる!このままじゃ倒す前に私達溺れ死ぬかも」
「冗談抜きでヤベェじゃねえか!」
なんとかしないとオレもセレンティーヌ達もこのまま海の水雲だ。
せめてここから浮上してセレンティーヌ達だけでも助けないと!
「逃がすとお思いで?」
「テメェ……」
一歩でも歩みを進めようとするウェルブレイザーの前に立ち塞がるエルトゥナ。
「それに逃げようとしても無理ですよ。私とアナタじゃそもそもの作りが違う。お分かりでしょう?」
「知るかそんなこと。やってみなきゃ分からないだろ」
「悪足掻きはやめてください。アナタらしくもない」
一番深くヒビの入った分に銃口を突きつける。
「私はアナタに興味がある」
「興味だと?…」
「あれだけ人間を毛嫌いしていたアナタがどうして人間と共に戦っているのか。ずっと疑問でした。きっとアナタのことだ。これも何かの作戦なのではないかと最初は思っていましたがどうやらそれも違うようだ」
「誰と勘違いしているか知らないがオレはそんなに頭は良くないぞ。テストの点数だっていつも赤点よりちょっと上くらいだったからな」
だから赤点は取った事はない。いつも赤点を取らない程度には勉強をしていたから。
自慢できる事でもなんでもないけど。
「賢くないのは知ってます。意味の分からないことをほざく程度には」
「だろ?」
こんな悠長に話してる暇はない。こうしている間も中に水は中に流れ込んできている。
「レイフォード水を掻き出して!」
「ですが、道具など」
「なんでもいいわよ。ほらそこにあるカップでもいいから!」
「しかしあれはお嬢様のお気に入りではありませんか!」
「そんなのまた新しいのを変えればいい!いいから急いで!」
「は、はい!」
「生きて帰れたらの話だけど……」
こうなったら隙をついて奴の銃を奪う。
それで逆転。それしかない。
「だから気になるんです。どうしてアナタのような方が人間と共に戦うことを選んだのか」
「そんなの決まってる。一つは仕事だからだ」
「ということはもう一つあると?」
「約束したからだ。オレが必ず守ってやるとな!!」
ウェルブレイザーは突きつけられた銃を強引に奪い取り、すぐさまエルトゥナに向ける。
「貰ったぁ!」
「甘い」
「なっ、」
同時にエルトゥナは隠し持っていたもう一本の銃を突きつける。
そしてエルトゥナが目を光らすとウェルブレイザーが奪った銃は泡になって消えていく。
「っ……(しまった。完全にしてやられた……)」
あっという間にチャンスを失い、張り詰めた空気がオレを襲う。
「アナタも変わりましたね。まるで別人だ。人間との約束を律儀に守ろうとするだなんて」
「それの何が悪い?…」
「別に。ただ、倒しやすくなっただけですよ」
銃にエネルギーが溜まっていく。
「ウェルブレイザー。アナタはここで終わりです」
「ぐっ……」
「お嬢様!これ以上は……」
「ウェル……」
既にコクピット内も胴体の半分以上にまで水位が上がってしまっている。
「(ここまでか……)」
「それではさようなら。永遠に……!?」
高圧縮されたビーム砲が発射される直前、エルトゥナを魚雷のようなミサイル攻撃が襲った。
「誰だ!!」
「助かった、のか?……」
「誰がワタシの邪魔をした!!」
水を切るような猛スピードでこっちに迫ってくるのは、あの時ミサイルを飲み込んだサメ型のロボットだった。
サメ型ロボットは大口を開け、エルトゥナ目掛けて次々とミサイルを発射していく。
「こしゃくな……!」
エルトゥナは攻撃を避けるため、自ずとウェルブレイザーから距離を取らざるを得ない。
「お前は昨日の…」
クールな顔つきに凶暴そうな見た目だが、何故かコイツはオレを襲おうとはせず周囲をぐるぐる回っている。
「な、なんだ?」
「この子…よく見たらあの子とちょっと似てないかしら?」
「あの子ってクロスライガー?」
「そう。ほら、よく見なさいよ。そっくりじゃない!」
「そうか?……まぁ、言われてみれば確かに同じシリーズって感じはするけど。あ、もしかしてコイツもアニマノイドなのか?」
「それならこの子ともアレが出来たりして」
「アレか。確かにアレならピンチも乗り越えられるかも」
オレ達の考えている事が伝わったのか、サメはただただ深くオレに頷いた。
「寡黙なヤツ。…カッコいいじゃん」
――ガンマシャークが合体を要請。承認しますか?――
「ほらこの子もやる気みたい。どうせこのまま黙ってたって私達は溺れ死ぬだけ。それならやってみる価値はあるんじゃない?」
「合体だガンマシャーク!!」
ガンマシャークは頭、体、足へとバラバラに合体待機状態へと素早く変形を遂げ、ウェルブレイザーに合体する。
「コンバイン(合体完了)ウェルブレイザーシャークカスタム!!」
二つの生命が一つへと姿を変える時、漆黒に包まれたボディーはクールな青色が映える新たな姿を誕生させた。
「こうも簡単にアニマノイドを手懐けてしまうとは、やはりアナタは王の器か……」
「王?」
「まぁいいです。どんなに力を手にしようとこの海の中でワタシに敵う者はいない!!」
落ち着きを取り戻したエルトゥナは改めてトドメを刺すべく複数のミサイルを一度に発射する。
「いいやそれは違うな」
「なっ!」
まるで水を得た魚のようにウェルブレイザーは海の中を自由自在に駆け回り、追撃してきたミサイルお互いに衝突させる。
「これが海を泳ぐって感じか……超気持ちイイなコレ!」
「アンタは私達の獲物。覚悟なさい!!」
「喰らえシャークベイビー!ご飯の時間だぜ!」
ウェルブレイザーの腕や肩に装着されているハッチが展開。中から小さなサメのような形をした魚雷が発射される。
「この程度、撃ち落としてくれる!」
エルトゥナも負けじとミサイルを発射するが、直ぐにミサイルはウェルブレイザーが放った魚雷に激突する。
かと思われた瞬間、ウェルブレイザーが放った魚雷がエルトゥナのミサイルを丸ごと飲み込んだのだ。
「そんなバカな!奴の攻撃がワタシの攻撃を吸収したというのか!?…ぐああぁ!!」
魚雷は更に勢いを増しエルトゥナに直撃する。
「お前はオレの獲物だ。骨の髄までクールに喰らいつくしてやるから覚悟しな!」
「決めるわよウェル!」
「「チャージアップ!!」」
ウェルブレイザーに流れる全身のエネルギーが胴体に付いているガンマシャークの頭に集中する。
数値はみるみる減っていき自らの体力までをも喰らい尽くし新たな力に変える。
「やらせるかあぁぁぁ!!」
「シャークブレイグラトニー!!」
ガンマシャークの口が大きく開き発射された超高出力のエネルギー砲とエルトゥナが放った全身全霊の一撃。
暗闇の海を激しく照らすように互いの攻撃はぶつかり合う。
「「いっけーーー!!!」」
二人の想いが具現化するように砲口は赤黒く光り輝き、増幅されたエネルギー砲はエルトゥナの体を貫通する。
「このワタシが負けるなんて…おのれえぇぇぇぇ……!!」
エネルギー砲はコアを打ち砕かれ金属の塊となったエルトゥナの全てをも飲み込んだ。
「討伐…完了!」
こうして聖女達を狙った真犯人は明らかになり、海での決戦は終局を迎えたのであった。
◇◇◇◇◇◇
「お嬢様。聖女側への報告完了致しました」
「ありがとう。面倒事頼んで悪かったわね」
慌しかった日々を忘れるようにアフタヌーンティーに興じるセレンティーヌ。
「いえ。お気になさらず」
「それであっちはなんだって?」
「相変わらずですね。未だに全てがお嬢様の自作自演だと信じているようで……」
「そう…」
「誤解を完全に晴らすためにはまだ時間がかかりそうです。せめて襲ってくる者達の目的が分かればやり方もあるんですが……」
レイフォードの視線がオレに突き刺さる。
「なんだよ。オレは知らないぞ!」
「本当か?お前は知らなくてもヤツらはお前の事を知っていたんだぞ。何か知ってる事は無いのか」
「だから何も知らないって。オレがヤツらに聞きたいくらいだ」
そういえば最初に現れたジャスティゼイオンが言っていた。
「…私達の大切な者を殺したお前が、それを言うのかぁぁ!!」
ずっとその言葉が妙に引っかかっている。ふと出た言葉にしては思いが籠りすぎてる。
それにヤツらが度々口にする「変わった」とか「裏切り者」ってのも妙なもんだ。
ヤツらは一体オレの何を知ってるんだ。
いや、オレの知らない何かを知っているのかもしれない。
「別に目的がなんだっていいじゃない」
「「え?」」
珍しくオレとレイフォードの息が合う。
二人は若干気まずくなりながらも、レイフォードが口を開いた。
「お嬢様。それは一体どういう意味なんでしょう。私にはお嬢様がこのまま誤解されたままでいいと聞こえてしまいました」
「そう言ってんの。私は気にしないわ。だって人から嫌われるなんて慣れっこだもの」
「しかし…」
「それに私には二人がいる。だって、何があっても命くらいは守ってくれるんでしょ?」
「……お嬢様。ずるいですよそれは」
「ああ…」
やっぱり悪女は悪女か。そんな顔されて断れるわけねぇだろ……。
ほんとズルい女だよ。お前は。
「たのもーー!!!」
突然、屋敷の外から巣太い男のような叫びが聞こえてくる。
「誰よいきなり。もしかして新手のセールスか何かかしら?」
「わざわざここにか?それはないだろ。どっちかというと売る側だし」
「そうよね」
「ウェルブレイザー!ここにいるのは分かっている!出てこい!」
「どうやらウェルに用があるみたいね」
レーダーに映る反応を見るに声の主は人間じゃない。ということは……。
セレンティーヌも中に乗り込み、屋敷の外に出ると待っていたのは、巨大な槍を備えた隻眼のスーパーロボットだった。
「ま、眩しい……」
銀色のボディーが空から降り注ぐ日光を盛大に反射している。
「ようやく会えたなウェルブレイザー!この時をどれだけ待ったことか」
「オレは別に。で、お前は誰なんだ?」
「我を忘れたというのか……ならもう一度名乗るまでだ。ゲイルダーン。今からお前に倒される者の名だ。よーく覚えておけ!」
「「……は?」」
一難去ってまた一難。
面倒事はネギを背負ってやってくる。
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