悪役令嬢暗殺計画②
「新郎。あなたはここにいる彼女を病める時も健やかなる時も富める時も貧しき時も妻として愛し敬い慈しむ事を誓いますか?」
「はい、誓います」
凛とした表情で神父の問いかけに答える。
「新婦。あなたは病める時も健やかなる時も富める時も貧しき時も彼を夫として愛し敬い慈しむ事を誓いますか?」
「はい、誓います」
「それでは誓いのキスを」
天気は快晴、上を見上げれば雲一つない大空が一面に広がっている。横を見れば大海原の絶景が。
こんな景色が揃った最高な場所も滅多にない。みんなももっと景色を見ればいいのに周囲は王子と聖女の生のキスシーンに夢中で景色には全く目を向けようとしない。
「(勿体無い。こんな絶景だというのに……)」
披露宴が終わり一同王子や聖女の元に集まっていく。
そんな幸せムード絶頂の中一人だけ場違い極まりない気だるそうな女がいる。
今の彼女は運ばれてきたローストビーフやスープに夢中でそれどころじゃないらしい。
「セレンティーヌ。嘘でももうちょっといい顔したらどうなんだ?一応結婚式なんだぞ」
「私が嘘を嫌いなの知ってるでしょ。あ、これ美味しい!ウェルも食べたら?」
「食べれるもんなら食べてみたいさ。でもオレは食べれないの!」
意思のあるロボットの目の前であんな美味そうに肉を食べるのは卑怯だろ。空かない腹が空いたらどう責任とってくれるんだ!
「なーんだ残念ね。こんな美味しいのに〜!!」
完全にわざとだ。わざとオレに見せびらかしながら食べている。
「このっ……」
コイツが俺の上司で悪役令嬢セレンティーヌじゃない別の何かだったら、きっとオレは目の前のコイツに手が出てる。
落ち着け。怒ってもしょうがない。それにここは王子と聖女の結婚式。
こんな所で騒ぎを起こして面倒ごとになるのだけは御免だからな。
それにしてもオレがこの世界に来てから随分と時間が経ったものだ。
二人の結婚式が行われるということは原作の時系列でいえばシーズン1の最終回。
オレは何度このシーンを見たことか。チャペルや室内では無く敢えて大空の下での結婚式ってのが実に素晴らしい。
設定通りちゃんと晴れたしな。
実際の結婚式なんて数回程度しか行ったことないのにこのシーンだけは覚えてるだけで百回は見ただろう。
だけど不思議だ。アニメで見てた時と違ってなんとも思わない。
最初の方こそそれを生で見れると聞いて喜んだが、実際見てみると案外拍子抜けだった。ただ単に見過ぎたせいなのかもはや二人の結婚式などには興味すら無くなって、目の前ローストビーフのことの方が気になっている。
ひとまずこれで物語はハッピーエンド。多少強引でも終わる理由に不自然さは無かった。寧ろこのシンプルさが分かりやすくて良かったくらいだ。ファンの評価も悪く無かったしな。
だから原作通り行けば何事も無く結婚式は終わる筈なんだ。
ただ、一つだけ原作と違うことがあるとすれば、何故かセレンティーヌが式に参加しているということ。
知っての通り、セレンティーヌは王子の元婚約者。もっとわかりやすく言えば元カノだ。
いくら幼馴染とは言えあんな振りかたした元カノを自分の結婚式に呼ぶとは正気とは思えないよな。
「なぁ、そんなに嫌なら来なければよかったんじゃないのか?てか、来る必要無いだろ」
「私だってね来たくて来てるんじゃないのよ。あ、レイフォード。さっきと同じ物頼める?」
「畏まりました」
あんなに美味しそうなローストビーフが無ければもっと機嫌が悪かったに違いない。
「じゃあどうしてだよ。肉を食べるためか?それともこの後出てくるデザート目当てか?」
「食べるだけならこんな所来る必要ない。どうしてもこれが食べないならここのシェフを引き抜いて家で食べるわよ」
「だよな。だったらなんで断らなかった」
「断れるなら断ってるわよ。私の招待状に王家の王印が無ければね」
王印か……天下の悪役令嬢様でも流石にそれなら無視も出来ないな
王印付きということは、言い換えれば王からの命令ということだ。それに従わないのならそれは王の命令に逆らうのと同じ。
いくらセレンティーヌがこの国のライフラインを握ってる大商会の娘といえど王の命令に逆らえる程力はない。
「その肝心の王様とは会ったのか?」
「式が始まる前にね。まぁ、こっちが挨拶する前に逆に謝られちゃったわ。どうやら王様は聖女様にどうしても私を呼びたいからって頼まれて断れなかったらしいわ」
「敢えてユナが呼んだっていうのか!?」
「らしいわよ〜。一体何を考えてるのやら……ありがとうレイフォード」
どういうことだ。なんでわざわざ王様に頼んでまでセレンティーヌを呼ばなきゃならない。
原作でもこの世界も二人の関係は決していいとはいえない。寧ろこっちの方が悪いくらいだ。尚更呼ぶ必要なんて無さそうなのにどうして?……
「なぁ、もしもお前が敢えて嫌いな奴を呼ぶ理由があるとすればなんだ?」
「私?そうねー……利用価値があるからかしら。そうでも無ければ嫌いな奴になんて会いたくないわよ。それが結婚式ならもっとね」
「聖女が嫌われ者を呼んで得することか……あ!それってもしかして、今やセレンティーヌはこの国の嫌われ者。そんな彼女すら聖女は見捨てない。そう周りに知らしめるためだったりして」
「多分それで合ってるんじゃない?私ならそうするもの」
今だったらセレンティーヌの好感度を落としつつ自分の好感度は上げてそれを確固たる物にすることが出来る。
確かにユナならどんな悪人でも見捨てはしないだろうけど、オレの知ってるユナにそんな下心は無い。
「そんなに気になるなら本人に聞いてみましょうよ」
「なに?」
「ほら、噂をすればなんとやら。向こうから来たわ」
ある程度の来客達に挨拶を済ませ、いよいよセレンティーヌの元に二人がやってきた。
念の為かさっきまでは遠くにいた執事や護衛達も集まる警戒ぷり。
「(そんなに信用ならないなら呼ばなきゃいいものを……まったく、この世界のセレンティーヌは何がしたいんだ?)」
「セレンティーヌ様。今日は私達の為にお忙しいなか来てくださり本当にありがとうございます」
「これはこれは、まさか二人の方からわざわざいらっしゃるだなんて夢にも思っていませんでしたわ。此方こそこの様な素敵な場所にお呼びいただいたこと感謝いたしますわ」
感謝だなんて心にも思ってないくせによく言うもんだ。こうやってセレンティーヌが猫を被った時は大体何かが起こると決まっている。
まぁ、本心じゃないのはセレンティーヌだけじゃ無いみたいだけど。
「君がそこまで僕達のことを祝ってくれるだなんて嬉しいよ」
この王子、今のがよくある社交辞令だって気づいてないのか。
ちょっと前から気になってだけど、王子ジェイクってこんなにポンコツだったか?
どっちかといえば冷静沈着。普段は冷たいけどいざという時には必ず駆けつけてくれる少女が憧れるザ・王子様ってイメージてカッコよかった。
「だけど礼を言うならユナに言ってくれ。正直言ってオレは君を呼ぶのは反対だったんだ。だけどユナがどうしてもっていうから君を呼ぶ事を決めたんだ。仕方なくな」
「あっそ。でも安心してください王子。最初からアナタには言ってませんわ」
ほら見ろ。王子相手にこの態度だ。
何があったかは知らんが今の王子じゃセレンティーヌには歯も立たんな。
「貴様、いくらなんでも王子にその態度は失礼なんじゃないか!?」
この護衛。見たことのないモブキャラのくせにセレンティーヌ相手によく言うじゃないか。彼女に正論で挑むだなんて大したもんだ。
まぁ、彼女に正論で挑んだのが大きな間違いだな。
「それを言うなら、自分勝手な理由で振った元カノを自分勝手な理由で結婚式に招待した挙句、恩着せがましい態度を取るこの人の方がよっぽど失礼なんじゃなくって?」
「ぐっ……」
さっきまでうるさかった外野も黙ってしまった。だから言ったろ。セレンティーヌに正論で挑むのは間違いだって。
正論をぶつけたって更に最もな正論で言い負かされるだけだ。
「だからずっと聞きたいと思ってたんですわ。聖女様。どうしてわざわざ王に頼んでまで私をここに招待したんですの?」
「それは……セレンティーヌ様とお友達になりたいからです!」
「は?……」
「セレンティーヌ様が私の事を嫌っているのは分かっています。でも私はセレンティーヌ様と仲良くなりたい。セレンティーヌ様に祝っていただきたいんです!」
「はぁ……(この女何言ってんのよ。てか、分かりやすい。やっぱり私の想像通りじゃない)」
そう来たか〜。思っていた以上にストレートに来たな。
ここまで分かりやすく近寄られちゃこっちも下手に断れない。断ればそれこそあっちの思うがまま。
そうなればやっぱりセレンティーヌは最低な女だと世間は確信するだろう。そして聖女は可哀想だと同情されながら好感度と信用だけが上がっていく。
と、そんな筋書きかな。
こんな事を考えるだなんてまるでユナがセレンティーヌみたいだ。
これじゃどっちが本当に悪役令嬢なのか分かったもんじゃない。
「お願いします。私とお友達になってください!」
周りには大勢の来賓や、二人を祝う為にやってきた大勢の人々達がこちらを見ている。
こんな所で断りでもしたら……考えるだけで面倒だ。
「(ゲッ……)」
セレンティーヌが嫌そうな顔でこちらを見ている。そりゃあ、表向きだからって嫌いな奴と友達になんてなりたくないよな。
なんとかしろって言いたげだけどオレには無理だ。
ウェルブレイザーはそっと気づかぬふりをしてそっぽを向く。
「(あ、ウェルのヤツ、面倒だからって無視したわね〜!!帰ったら覚えときなさい!)」
背後から鬼のような形相でこちらを睨んでいる気配がする。
我慢だ、我慢。オレは地蔵だ。決して振り返っちゃならない。
セレンティーヌは仕方なく、渋々ユナの出す手を握ろうとする。
「(悪いなセレンティーヌ。後で愚痴ならいくらでも聞いてやる。……ん?)」
突如オレのセンサーに謎の信号が入る。視界には――接近中――の文字が。
レーダーに映る何かがすごい速度で近づいている。
この尋常じゃないスピード、それにこの直感的に感じるこの殺気。
「ウェルブレイバー!!」
「え、」
「なに?」
空から降ってくるウェルブレイバーを受け取ると盾のように大きく構える。
次の瞬間、謎のミサイルのようや銃弾がウェルブレイバーに直撃する。
「……ギリギリセーフ」
「ウェル!?」
「狙撃だ!」
「狙撃?」
そうか。この世界に魔法は存在しても銃のような兵器は存在しない。魔法だってここまで離れた距離から狙えるような魔法も存在しない。だからそもそも狙撃だなんて概念が存在しないんだ。
「誰かが遠くからここをここを攻撃してるんだ。まだ来るぞ!伏せてろ!」
「何ですって!?」
「モンスターの襲撃か!?」
「あり得ない。ここは聖女様が張った結界で守られてるんだぞ!」
周囲のいた護衛達も慌ただしくなる。
飛んでくるのは世界ガン無視のミサイルやビームばかり。
魔法やモンスターが当たり前に存在するこの世界でもそんなことを出来る奴なんてそうそういない。
となると恐らく犯人はオレとよく似たスーパーロボットの類いだろう。
だが飛んでくるミサイルなどの攻撃の反応はレーダーに映るのにそれを撃ってる狙撃手がどこにも見当たらない。
それに撃ってくる場所もバラバラで攻撃を防ぐのがやっとだ。
「どうしてまたこんなことに……」
「まさかセレンティーヌ様。また私を狙って」
「はぁ!?アンタ何言ってんのよ!私だって狙われてるのよ」
「じゃあどうしてその巨大なロボットはいち早く敵の攻撃に気づけたんです?自作自演だからじゃないんですか!?」
「呆れた……さっきまで友達になりたいんです!なんて言ってたとは思えない言い草ね。そんなこと本気で言ってるわけ?」
「私だって友達になりたいです。だけどセレンティーヌ様がこんな事をするからっ!……」
四方八方から攻撃を受けている最中にも関わらず、涙ながらに絶叫する聖女。
まぁ嘘泣きだろうけど。
大方、自分の好感度を上げるのに都合が良いと考えて利用する事を選んだな。
確かに心優しき聖女様ならではの素晴らしい作戦だ。
命の危機に遭おうともそれでも友になりたいと涙を流した聖女の言葉を嘘だと疑う奴なんてここにはいない。
「そうだ!!今すぐ攻撃をやめろ!!」
「そんなに聖女様を殺したいのか!!」
「この人でなし!!」
降り掛かる攻撃の爆音を掻き消す程の暴言が飛び交う。中には耳を覆いたくなるような言葉の数々も聞こえてくる。
今にも死ぬかもしれないってのによくそんなことが言えるもんだ。
こっちは必死に守ってやってるってのに。
「大丈夫かセレンティーヌ」
「ええ。それよりもっと危険な状況だって分かってるから。それで敵の位置は分かったの?」
「いいやダメだな。それらしいのは全然」
「そう……」
そうこうしてる間に敵の攻撃は増していくばかり。
「ちょっ、何よアレ!?」
「狙撃手め、自暴自棄にでもなったのか!?」
今までのが石ころなら今度は隕石。目当ての物に当たらないならまとめて巨大ミサイルで吹き飛ばしたら丸く解決ってか。
「…冗談じゃねえぞ!!」
あんなのを真正面から防ぐのはまず無理だ。直撃した瞬間そのままドカンで辺り一面真っ平。
「こうなったらヤケだ!直撃する前にもっと強力な攻撃で爆発させちまうしかねぇ!」
「そんなの無理よ。この距離じゃ更に被害が大きくなるだけ。もっと他の方法を探さないと」
「そんな時間無いんだってば!!」
オレの視界には直撃まで残り三十秒の指示が見える。ボディーがスーパーロボットのオレでも中身は一般市民。そんな短い時間で画期的な作戦を思い浮かべられる頭脳は持ち合わせてない。
「セレンティーヌ!早くアレを止めろ!!」
「そうですセレンティーヌ様!こんなことやめてください!!」
王子と聖女がセレンティーヌに詰め寄るが彼女はそれどころではなく全く相手にしていない。
「やるしかねぇ……!!」
「……分かったわ。ウェル、責任は私が持つ。だから、出来るだけなんとかしなさい!!」
「分かった。出来るだけな」
あと十秒。
オレはウェルブレイバーをミサイルに向けて構える。
「一か八かだ。喰らえ!ウェルブレイ、なっ!?」
ウェルブレイバーストを放とうとした瞬間、熱を帯びたウェルブレイバーはショートしたように煙を吹き出す
。
「おいマジかよ!?こんな時に故障か!?まさか、刀身にダメージ受け過ぎたせいで…」
「ウェル!?」
「くそっ!動け、動けってばぁ!!」
どんなに叩いても揺すってもウェルブレイバーはうんともすんとも返事しない。
もう目の前にまでミサイルが迫っている。
「(終わった……)」
ここにいる誰もがそう思っただろう。
僅かな希望の光すらも失い諦めざるしかないこの状況。
だが異世界は不思議だ。
突如として海から飛び出した巨大なサメが大きな口を開けて丸ごと飲み込んだのだ。
「サメのロボット?……」
得体の知れないサメ型ロボットはそのまま海に潜り込んだまま二度と浮上することはなかった。
時を同じく、続いていた攻撃も止まり今日初めての静寂を迎えた。
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