覚悟を放て!嘘を吐くならいつまでも…④
冷たい潮風が窓の隙間から吹き込み、独特な海の香りが部屋を漂う。
「うぅっ……」
ひんやりと肌を触る感覚がカイトの意識を取り戻す。
「ここは?……」
樽や果物箱など物が杜撰に置かれている倉庫のような場所。
中に明かりはなく窓越しに見える夕陽は沈みかけていて、僅かに差し込んだ窓の光が部屋を薄らかに照らしている。
腕と足は紐で縛られていて自由が効きそうにない。
「たすけて!誰か!…」
出せる限りの大声で助けを求めるが、一向に外からの反応はない。
それに手が震えて、息も苦しい…早く薬を飲まないと…。
「お目覚めかい?」
軋むような音が聞こえて扉が開くとやってきたのはあの時とスキンヘッドの男だった。
「お前……」
「威勢がいいね。でもそう睨むなって。そんな怖い顔してたらもうすぐ来る妹が悲しむぞ」
「やめろ!妹に手を出さないで!頼むから!」
「それは無理な相談だ。既にオレの部下がお前の施設に向かってる。ついでに他の子供達も一緒に攫っちまうか。その方が金になるしな」
「やめろ!……妹に、みんなにも手を出すな!」
いやらしくカイトの体をベタベタと撫でまわし、我慢しながらも拒絶する反応を見て笑みを浮かべている。
「それにしてもいい顔すんなお兄ちゃん。そういう顔は特にマニアが喜ぶんだ。男に女、性別なんて関係ない。良かったなお前がその気になれば両親の借金なんて簡単に返せるだろうよ」
「ふざけるな!そんなの誰がするもんか!」
再び男に唾を吐きかけるカイトだったが、今度は頬を張られ返り討ちに遭ってしまう。
「ふざけてんのはお前だろうが!そもそもお前に拒否権なんか無いんだよ。家族や他人の心配してる暇があったらあるなら自分の心配したらどうなんだ」
「ぐっ……」
「またその顔か……勘違いすんな。恨むなら借金残してお前達を捨てたバカな両親を恨むんだな」
「……バカなんか…じゃない…」
縛られながらも必死に拳を叩きつけ男を睨みつけるカイト。
「恨むどころか庇うのか。親も親なら子も子か。揃い揃ってバカばっかりだな!」
「バカじゃない!」
弱り果てながらも残された僅かの力で男に掴みかかるカイト。
「父さんと母さんのことを悪く言うな!!」
「ただの事実だろうが!!」
容赦なく脇腹に蹴りを叩き込む完全に捩じ伏せてしまう。
「言わせておけば父さん母さんってガキはガキか…縛っておけ!」
「ぐっ……シルフィ……」
「アニキ。先程、例の部隊が施設に着いたと連絡がありました」
「そうか。ならこっちも準備を進めるぞ。深夜の取引まで時間がねぇからな」
「うす!!」
「ん?……」
外から聞いたこともない騒がしい音がどんどんと此方に近づいてくる。
「なんだこの音は?……」
「…あ、アニキ!!」
「どうした?」
青ざめた様子の男は荒れた息を調えながら声を絞り出す。
「……何かが走ってきます!」
「何かってなんだ!?詳しく説明し、ぐっ……」
室内に差し込んだ強烈な光が室内を眩しく包み込む。聞こえた騒音は轟音へと変わりを遂げ勢いよく扉を突き破る。
「なに!?」
「……おまたせ」
フルフェイスのヘルメットを脱ぐと乱れた髪を華麗に靡かせる。
「お前は確かカイゼル商会の……」
「セレンティーヌ・カイゼル。覚えなくて結構よ」
一人悪の巣窟に乗り込んできたセレンティーヌに一同騒然としている。
「これはこれは、お嬢様がこんな所に何の用です?」
「分からない?」
白々しく惚ける男。それに対しセレンティーヌも疑問系で返す。
「分かりませんね。まさか冒険者でもないお嬢様が一人でガキを助けに来たわけじゃないでしょうし」
「そのまさかだとしたらどうする?」
「そうですね〜…まぁ、手始めにその綺麗な衣服をズタボロにしてここに来たことを後悔するくらい痛い目に遭わして差し上げますよ」
「あら、見た目に似合わず大層な歓迎してくれるのね。嬉しいわ」
睨みつけながら凄む男を前にしても動じることなくいつものペースで会話を続けていく。
「お望みなら今すぐにでも。おい」
男が合図を出すと部下達がセレンティーヌの逃げ場を塞ぐように周囲を取り囲む。
「何を考えているかは知らないがこれでお前も終わりだな。逆に感謝するぜ。容姿端麗、名も売れたアンタなら欲しがる客は引くて数多。想像以上の値段が付くことだろうよ。お前のお陰でこれでオレも念願の幹部入りも間違いない!」
「ふふっ……」
「何が面白い?…」
「面白いわよ。だって普通に考えたら分かるでしょ。冒険者でもないか弱い私が本当に一人で来たとでも思わけ?」
「だったら何故直ぐに助けに来ない?嘘を吐くならもっとマシな嘘を吐いたらどうなんだ」
「それはね…」
「生憎だったな。このお嬢様は三度の飯より嘘が嫌いなんだよ」
どこからか聞こえる謎の男の声が室内に響く。
「だ、誰の声だ?…」
「まさか既に仲間が中にいるのか!?どこにいる!探せ!」
男達は必死に周りを見渡すがそれらしき影は見当たらない。
「ちょっと!私が合図するまで喋っちゃダメって言ったでしょ?せっかく派手に登場させてあげようと思ってたのに何勝手に喋ってんのよ」
「あのな、オレはお前の部下であって物じゃないんだよ。喋るタイミングくらいオレが決めたっていいだろ」
「何言ってんの。部下なら私の物と同じじゃない。いつからそんなに偉くなったのよ」
「あのな……」
「おいお前!さっきから何と喋ってるんだ!」
奴らが戸惑うのも無理はない。側から見ればぶつぶつと独り言で勝手に盛り上がっているヤバい女。
「言われてるぞ。そろそろ頃合いなんじゃないか?」
「ったくしょうがないわね……ウェル!や〜っておしまい!」
「アイアイサー!(なんでオレもノリノリなのか自分でも分からない…)」
「なっ!……」
セレンティーヌの側にあったこの世界の人間には見慣れない乗り物。それがなんなのかも分からないまま黒い光と共に人型へと変形していく。
巨大化したその姿は倉庫の天井をあっという間に突き破る程大きく成長していき完全に変形を終えた。
「変形完了ウェルブレイザー!ってな」
こうやって一々カッコつけるのももう慣れた。
「な、な、なんじゃありやぁぁぁ!?」
人間でもモンスターでもない巨大な生命体を初めて目の当たりににした男達は驚き腰を抜かしていた。
「だから言ったでしょ。この私が一人で来るわけが無いって」
「お前達の相手はこのオレがしてやる」
オレは自分の中で精一杯の怖い顔をしているつもりで奴らを睨みつける。
セレンティーヌには分かっていた。不思議と彼らには動かない筈のウェルの顔ががとても恐ろしく見えていることを。
「どうやら私の部下は本気みたい。残念だけどこうなったら最後。もう私にも止められないわ。せめて男らしく最後まで抗ってみたらいかが?」
セレンティーヌは奴らの恐怖心を煽るように大袈裟に挑発する。
「アニキ……」
「くそッ!…お、覚えてやがれ!お前達ずらかるぞー!」
「あ、アニキ!?待ってくださいよーー!!」
得体の知れない巨大な生命体相手に勝てないと諦めたのか男は部下を置いて破れ先にと逃げてしまった。
「敵前逃亡なんて骨の無い男達ね。つまらないの」
「上手く行って良かったじゃないか。最初からこれが狙いだったんだろ?」
「あら何のことかしら?」
「惚けたって無駄だ。最初から奴らを殺す気ならさっさとオレに乗り込んで戦った方が確実に少年を救えた筈だ。なのにしなかった理由、それはズバリ、人が死ぬ瞬間を見せたく無かったから。違うか?」
「さぁね」
照れ隠しのつもりなのかこれ以上何も言わないままカイトの拘束を解く。
「何とか間に合ったようね。薬よ。早く飲んで」
「う、うん…」
発作の影響で震える手も徐々に落ち着きを取り戻し始めた。
「どうして助けに来てくれたの?……」
「妹さんにどうしてもって頼まれたから」
「そうだ、シルフィや施設のみんなが危ないんだ!早く助け行かないと!」
「大丈夫。そっちには最強の護衛がついてるから」
◇◇◇◇◇◇
「どうしてコイツが……こんな所に…ぐはっ…!」
「お嬢様の命令には忠実に従う。執事として当然だろ?」
施設の前にはレイフォードによって倒された裏ギルドの構成員達が大勢転がっている。
「レイフォードにいちゃんすげぇぇ!!」
それを遠くから見ていた子供達がレイフォードの元に集まってくる。
「レイフォードにいちゃんってつよいんだね!ぼうけんしゃみたいだった!!」
「みたいじゃない。そうなんだ。元だけど…」
「…ねぇ、このひとたちしんでるの?」
「ぜんぜんうごかないよーー」
子供達がそこら辺で拾った木の枝で倒れた男達を突っついているが全然反応が無い。
「大丈夫。ただの峰打ちだ。そんなことよりもうすぐ夜ご飯の時間だぞ。みんな手を洗って早く中に戻ろう」
「はーーい!!」
◇◇◇◇◇◇
「さぁ帰るわよ」
「…ねぇ、父さんと母さんは僕達を捨てたってそれ本当なの?…」
「本当よ」
少年の問いに躊躇うことなく即答で返す。
「じゃあどうして死んだなんて嘘をついたの!?僕達を騙したんでしょ!」
「知らないわよ。私が言ったわけじゃないんだから」
「っ……」
子供相手に真正面から正論で返す。せめてもうちょっと気でも使ってやればいいものを…でもこれが彼女なりの気の使い方なのかもしれない。
「だけどそれはきっとアナタ達の事を大切に思ってたからだと私は思うけど?」
「どういうこと?…」
「アナタ達の両親と同じってこと」
そう言うとセレンティーヌは一枚の手紙を彼に渡す。
「これはアナタ達の両親がいなくなる直前二人に向けて書いた手紙よ」
「父さんと母さんが!?」
両親からの手紙だと知ると直ぐさま手紙を開く。
そこにに書かれていたのは実にシンプルなものだった。
二人に対する謝罪から始まり最後には両親から実の子に贈る愛の言葉の数々が綴られていた。
「…」
恨んで当然の両親からの手紙に少年の目には無数の涙が浮かんでいた。
「なにこれ……」
「本当にバカよね。大バカよ。巻き込みたくないからって実の子供を捨てるだなんて正気の沙汰とは思えないわ。だけど愛してたからこそなのかもね」
「!……」
するとセレンティーヌはカイトを優しく抱きしめる。
「アナタ達の両親がしたことは決して許されることじゃない。だけど許してあげてほしい。アナタ達には未来がある。過去に縛られて恨んだまま歩んでいくには人生は長過ぎるから」
「でも、」
「私達しか見てない。いいんじゃない?たまには子供らしくなったって」
「うっ、ううっ、うわぁぁぁぁぁん!!……」
「よしよし」
周りには気を遣い、欲しい物は欲しいと言えず妹の物を優先してしまう。両親を失ってからそうやって生きてきたのだろう。
それも全てたった一人の家族として妹を守るために。
そして今、初めて子供のように涙を流した。今まで必死に我慢してきたものが溢れ出すように。
着ている高そうなドレスは涙や鼻水でボロボロ。しかしそんなのも気にせずセレンティーヌは彼を抱きしめ続けた。
「……もういいわけ?」
少年は涙を拭って立ち上がる。
「ありがとう…もうだいじょうぶ」
「そう。なら帰ろっか」
「うん」
吹き抜けとなった屋根から見える空の景色は真っ暗で僅かに見える星だけが輝いていた。
一つ、二つと小さく輝く星の間に妙に見覚えのある物が見える。
「あれってまさかな……」
次の瞬間、疑念は確信へと変わった。亀裂は次第に広がっていくと、遂に空を切り裂いた。
亀裂の向こうから現れたのは艶めかな緑色が目立つ新たなスーパーロボットだった。
「またかよ。しかもよりにもよってこんな時に…セレンティーヌ!」
「チッ」
無数の物音が響く中に聞こえる舌打ちの音。
「せ、セレンティーヌ?……」
「少年はここで待ってて。私達が来るまで絶対ここから動いちゃダメよ。いいわね」
「うん」
「よし……ウェル。アイツに空気の読み方ってやつを教えに行くわよ!」
「お、おう!」
どうやらオレの上司は相当機嫌が悪いらしい。これ以上怒らせたら面倒になりそうだ。
そうなる前に早くアイツを何とかしないと……。
乗り込もうとするセレンティーヌに少年が声援を贈る。
「おばさん頑張って!!」
「え……お、おばさん!?私が!?」
あーあ……大人っぽいと思ったらやっぱり子供か。実に正直で素直な子だ。
「ちょっと待って。私がおばさん?聞き間違いよね?大体私はまだそんな呼び方で呼ばれるほど老けてなんか、」
「分かった分かった。いいから行くぞ」
「待ってウェル。まだ話が終わってない。あのね、私はまだ二十代でそんな歳じゃ」
「そんなセレンティーに悲しいお知らせだ。残念だがあの子からしたら二十年以上歳の離れてる人はもうおばさんだと思うぞ」
「ウソでしょーーー!?」
オレは強引にセレンティーヌを中へと乗り込ませ一目散に奴の元へと向かった。
無限に湧き出る行き場のないこの怒りを晴らすために。
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