覚悟を放て!嘘を吐くならいつまでも…②
翌日。
「お嬢様。例の少年の事で報告が」
「待ってたわ。聞かせてちょうだい」
「ではこちらを」
素性が事細かに記された書類をセレンティーヌに渡す。
「名前はカイト・エイバン。妹のシルフィ・エイバンと共に三年ほど前からあの施設で暮らしています。普段から妹想いの優しい少年だったそうで、施設の職員方も昨日のような行動には驚いているようです」
「両親はモンスターによる事故死か…」
「子供達にとってはですが」
「どういうこと?」
「実は二人の両親は闇ギルドから多額の借金があったようで、彼らは事故死などではなく子供達を置いて出て行ったようなんです」
セレンティーヌは不機嫌そうに舌打ちを鳴らすと書類を一枚くしゃくしゃに丸めてしまう。
「お嬢様?……」
「続けなさい」
「はい。その頃少年は四歳、妹は一歳。この事実を知るにはまだ幼過ぎた。だから両親は事故で亡くなったと二人には説明したそうです」
「それで今度は私やウェルに居場所や大切な妹まで奪われると思った。だから私に唾を吐きかけた。そういうことね」
あの子達の中で二人の両親はあの頃のまま生きている。死んだと聞かされても忘れることは出来ず思い出だけが残っている。
大人の都合で捨てられて、大人の身勝手な理由で子供が振り回される。
妙な噂を信じてしまうのも無理はない。大人だってホイホイと信じてる奴ばっかりなんだから。
それじゃあ私も唾を吐きかけられて当然ね。
だって全部悪いのは大人だもん。
「ねぇ、聞いてたんでしょウェル」
「ああ。耳はいいんでね…」
セレンティーヌがパイロットとして乗り込んでから、不思議とセレンティーヌの声ならどこにいても聞こえるようになったのだ。
もちろんオレの声もセレンティーヌには聞こえている。
そして互いの会話はオレ達意外には聞こえないという秘密な会話も漏れないオマケ機能付きだ。
どんな大声でも、蚊のようなヒソヒソ声でも全部オレには丸聞こえ。
便利と言えば便利なのだが、将来的にあんな声やこんな声が聞こえてくるんじゃないかと、気が気じゃないのはここだけの話だ。
「どう思う?」
「どうって…最悪としか言いようがないけど」
最悪か……。二人の両親も、それを隠そうとした大人達も、それをあの場で分かってあげられなかった私も。
「…行くわよウェル」
セレンティーヌは覚悟を決めた面持ちで立ち上がる。
「だと思った。もう表で待ってるよ。急ぐぞ。今からなら日暮れまでに間に合いそうだ」
くしゃくしゃに丸められた一枚の書類。
そこには二人の両親に関する情報も詳しく書き記されていた。
◇◇◇◇◇◇
「カイトおにいちゃんこれかって!」
「ダメだよ。先生から貰ったお金ちょっとしかないんだから」
シルフィがねだるのは可愛い妖精を模したストラップがオマケでついた付いたラムネ菓子。値段の割に入っているラムネは数粒でもはやラムネがオマケになっている。
「いいじゃんいいじゃん!きのうのおにいちゃんのせいでセレンティーヌおねえちゃんからもらうはずだったおかしわたしたちだけもらえなかったんだから!」
「だからこうして貯めてたお小遣いを使ってお菓子を買いに来てるんだろ。あ、ほら!それじゃなくてこっちのクッキーしたら?こっちの方が値段も安いし量も沢山入ってるぞ」
「ヤダ!こっちがいい!!こっちがいい!!わーーーー!!」
店前で地べたに体をつけて泣き叫ぶシルフィ。通りすがる人々の視線がカイトに突き刺さる。
「シルフィ……」
「ヤダ!ヤダ!ヤダ!こっちじゃなきゃヤダ!」
「わ、分かったよシルフィ。じゃあこれ買おう」
「ほんと!?」
直ぐに涙が治りケロッとした顔でこちらを見つめる。
「うん。本当。だからこれ買って早く帰ろう。急がないと日が暮れちゃうよ」
「うん!あ、おにいちゃんのぶんも!」
ニコニコした顔でもう一つ棚から取って僕に渡す。
「あーーー……」
シルフィに分からないように背を向けそっと財布の中を確認する。
「ありがとう。でも、お兄ちゃんの分はいいよ。今日はシルフィの為に買いに来たんだから」
「そうだね!いこう!」
カイトは最初から持っていた大好物のチョコクッキーを手放し店を後にした。
その時、怪しげにこちらを見ている者がいるだなんて僕は全く気づかなかった。
「おにいちゃんありがとう!」
「どういたしまして」
買い物を済ませ二人は慣れしたしんだ道で施設に戻ろうとしていた。
「(よかった笑顔になってくれて。昨日からずっと怒ってたもんな)」
手を繋いでるいだけでシルフィの機嫌がいいのが分かる。
「ねぇおにいちゃん」
「ん?」
「こんどシルフィおねえちゃんにあったらいっしょにあやまろうね!」
「え、いや、それはいいよ」
「ダメだよ!きっとママもそういうよ」
「そうか?……(そんなこと僕だって分かってる。お父さんもお母さんもこんなことして喜ぶわけが無いって)」
「だいじょうぶ!シルフィもいっしょだから!」
「…ありがとシルフィ」
「うん!」
シルフィの言う通りだ。勝手に怒ってあの人のせいにして、悪いのは全部僕だ。今度あったら必ず…
「止まりな坊主!」
「え?」
突然目の前に現れたのはスキンヘッドの強面で大柄な男。その後ろに仲間らしき男達が数人集まっている。
「な、なんですか?……」
「なんですかって決まってんだろ!!」
「わっ!……」
声をがなりたて凄む男に思わず声をあげて驚いてしまうシルフィ。
僕の体にくっつき、ぎゅっと服の裾を握っている。
「(ぼ、僕がシルフィを守らなきゃ……)」
「お前達二人に用があるからわざわざ俺達がこうやって出向いてやったんだ」
「用?……」
「俺達はな、お前の両親にたーくさんお金を貸してるんだ。借りたものは返さなきゃならない。それは子供のお前達だって分かるだろ?なのに君達のパパとママは約束を破って君達を捨てた。悪い奴らだよあの二人は」
「パパやママをわるくいうな!」
「待ってシルフィ。捨てた?……お父さんとお母さんが?そんなわけない」
この人達はさっきから何言ってるんだ?
「お前達さっきから何言ってんだ。捨てられたから施設で暮らしてんじゃねぇのかよ」
「違う!先生達が言ってた父さんや母さんは亡くなって、それで……」
「フッ……なるほどな。お前達周りの大人に嘘を吐かれてたんだ。可哀想に」
「嘘?……」
そんなわけない。あり得ない。先生達が僕達に嘘なんかつくわけが無い。きっとこの人達は僕達を騙そうとしてるんだ。
「まだ分からないか?じゃあはっきり言ってやる。お前達は二人に見捨てられたんだ」
「嘘だ!!」
「嘘じゃないさ。お前達はそうやって大人達にずっと騙されてたんだ。両親がお前達を裏切ったようにな」
怪しげな笑みを浮かべた男はジリジリとこちらに迫ってくる。
「く、来るな…あっちいけ!!」
「安心しろ。子供のお前達でも簡単に稼げるいい仕事を紹介してやる。特にそこの可愛い妹さん。彼女なら何百、いや何千万なんて端金だ。そうなれば借金なんか直ぐに返せるさ」
こんな顔をした大人を初めてみた。施設にいる先生が怒っている時より何倍も怖い。
「ふざけるな!妹に近づくな!」
「悪いがお前達に選択肢は無いんだよ。連れてけ」
「うす!」
「くそッ!逃げるぞシルフィ!」
「逃げられるわけないだろ」
逃げようとした途端、仲間の男達がカイト達の腕を掴む。
「離せ、離せよ!」
「諦めろ。子供が大人に勝てるわけないだろ」
「さぁ行こうかシルフィちゃん」
「お、おにいちゃん!!」
「シルフィ!…このっ!」
シルフィに手をかけようとしたスキンヘッド男におもいっきり唾をかける。
「あぁ?……」
「テメェ、アニキになんてことを…ぐあぁっ!」
男の手にはっきりと歯形が付くほど噛み付くと、男の手を振り解き妹の前に立ち塞がる。
「今だシルフィ、逃げろ!!」
「でもおにいちゃんは!?」
「僕は大丈夫。直ぐに行くから早く行くんだ!」
「で、でも……」
「いいから行って!!」
カイトはシルフィが欲しがっていたオマケ付きのラムネ菓子を手渡し頷くと、背中を押す。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
シルフィは泣き叫びながら走りだす。
「チッ、妹を逃がすな!」
「させるか!」
無謀にもスキンヘッドの男に掴みかかるカイト。だが力の差は歴然で全くびくともしない。
「アニキすみません!妹の奴、逃げ足が速くて見失いました!すみません!」
「チッ……さっきからガキのくせに生意気なんだよ!!」
「ぐあぁっ!!…」
勢いよく蹴り飛ばされたカイトは倒れたまま動けなくなってしまう。
「どうしますか?追いますか?」
「残ったのはコイツだけか…まぁいい。ガキの割には度胸があるし、それにそこそこ顔もいいしな。よし、これでずらかるぞ」
「うす!」
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