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覚悟を放て!嘘を吐くならいつまでも…①

「お待たせしましたお嬢様」


「いつもありがとうレイフォード」


 熱々の紅茶に数種類の焼き菓子。そこに並ぶ物全てが一級品でどれもセレンティーヌの好みの物ばかり。


 好物を口にしながら流れる景色と共に優雅な時間が流れていく。


「…なぁ、ちょっといいか?」


「何よウェル。今いいとこなのに」


「優雅に黄昏れるのはいいんだけど、わざわざオレの中でゆっくりする必要はないだろ!こっちはこの快晴の中日傘もささずに歩いてるんだぞ」


 突然レイフォードを連れてオレの中に入ったと思ったら、何も知らされないまま地図だけ渡されて「ここに向かって」そう命令されたっきり。


 気づけば男気溢れる操縦席はあっという間に可愛く過ごしやすくなってしまった。席はゆったりとくつろげる広めのソファー。側には物が置けるサイドテーブルまで置いてある。


 ずっと居られそうなくらい居心地が良さそうだ。


「操縦席をこんなにしちゃってこれじゃ戦う気になれないだろ!」


「だからって過ごしにくかったら仕方ないでしょ。中は馬車と違って不思議と涼しいしね」


「あーあ、レバーとかボタンにまで装飾しちゃってるし…誤作動とかしたらどうすんだよ」


「大丈夫よ。何かあっても私には関係ないもの」


「オレがイヤなんだよ!急に自爆とかしたら笑えないでしょ!?」


「別に。レイフォードおかわり」


「畏まりました」


 オレの心配も他人事のように聞き流しながら紅茶を味わっている。


「ったく、ちょっとは気にしろっての……」


 バルハムートやジャスティゼイオンとかいう奴と戦った時とは大違いだ。


 あの時はオレもセレンティーヌの事を見直しかけたっていうのにこれだよ…ひと段落して日常に戻った思ったら別人みたいにワガママで厄介そしてマイペースな悪役令嬢セレンティーヌに逆戻りだもん。


「そういえば前回の件で変な噂がたってるみたいだけど大丈夫だった?」


「え、噂?」


 セレンティーヌがオレの心配をするだなんて珍しい。


「知らないの?いいわなら教えてあげる。レイフォードがね」


「お任せくださいお嬢様」


 一々勿体振ることか?…。


「いいかデカブツ」


「態度変わり過ぎだろ!てか、またデカブツ呼びかよ」


「先日のパーティーで突然現れたお前によく似たデカブツの件だが」


「いや似てないから!同じくらいデカいってだけだろ」


「私からすれば同じような物だ」


 おいおい……。


「あろうことかそのデカブツを使ってパーティーを襲わせたのがセレンティーヌ様だという根も葉もない変な噂が広まっているのだ」


「なんだそれ。誰がそんなこと、あ」


 一人だけ心当たりがあってしまう。本来なら絶対にあり得ないとオレも信じないだろうけど、あんなの見せられたらな。


「ウェルの思ってるとおりだと思うわよ」


「オレは別になにも…」


「その反応、言わなくても言ってるような物でしょ。それに誰だって分かるわよ。こんな子供染みた事を本気でするだなんてあの聖女しかいないもの」


 セレンティーヌの言う通り確かにやっている事が絶妙にセコイ。彼女の悪評を広めたいと思うならもっと上手い方法があるだろうによ。


 少なくても原作のセレンティーヌは叩けば埃の出るような厄介な性悪女だったからな。


「しかし、大抵の人々が聖女の手の平で転がされているとも知らずにまんまとその噂を鵜呑みにしてしまっている者ばかりだ」


「あの事態を丸く収めたのは紛れもないオレとセレンティーヌだっていうのにか?みんな見てたんだろ!?」


「それも自作自演って話らしい。よく言うものだ」


「マジかよ……」


 あのニセモノめ。自分が聖女だからってやりたい放題だな。


 こんなバカな真似して本物のユナの顔にまで泥塗りやがって…今度あったら文句言ってやる。


 にしても、アイツは一体何が目的なんだ?セレンティーヌの事がめちゃくちゃ嫌いなのは分かったけど。


「だけどどうする。このまま黙ってるってつもりじゃないんだろ?」


「何もしないわよ。面倒くさい」


「え、意外」


「何よそれ。こういう時は言いたい奴には言わせて、信じたい奴には信じさせておけばいいのよ」


 ワガママでマイペースな奴だと思ったらこういうことサラッと言うんだもんな。本当抜け目の無い厄介なお嬢様だこと。


「それに私はそんなことに構ってるほど暇じゃないもの。さあ急ぎなさいウェル」


「はいはい。ところでオレってどこに向かってるんだ?」


「行けば分かるわ。その内元気な声も聞こえてくるでしょうしね」


「?」


 ◇◇◇◇◇◇


「あ!セレンティーヌお姉さんだ!!」


「え!?あ、ホントだ!!」


「みんなセレンティーヌおねえさんがまた来てくれたよ!!」


「「「わーーーーー!!!」」」


 セレンティーヌを見るや否や大勢の小さな少年少女達が遊びを放っぽり出して集まってくる。


「みんな。ごきげんよう」


「「「ごきげんよう!!!」」」


 子供達はまるで人の言葉を真似するオウムのように仕草まで一緒に真似している。


 元気さだけは子供達の方が優っているけど。


「みんな元気してたかしら?」


「うん元気!!」


「いい返事ね。あ、これ私からのプレゼント」


 さっきまでセレンティーヌが食べていた物と同じ大量の焼き菓子の詰め合わせ。


「いいの!?」


「もちろん。でもいつもの約束は必ず守ること。いいわね?」


「うん!!」


「はい復唱」


「「「一人一つ!みんなで仲良く分けること!」」」


「よく言えました。さあお食べ」


「わーーー!!」


 この世界の物価は日本と大して変わらないことを踏まえても、あれ一つ五千円はくだらないだろう。


 そんな超高級焼き菓子を人数分か。やっぱり金持ちはやることが違うな〜。


「…だけど、あの悪名名高いセレンティーヌが児童養護施設に支援しているとはな」


「お嬢様がこの活動を始めてもう五年だ。最初こそお嬢様を非難する反対の声や馴染めなかった子供達が多かったが今じゃご覧の通り。ここにいる子達はみんな様々な理由で親から捨てられたり身寄りな子達ばかり。だからみんなお嬢様のことが好きで好きで堪らないんだ」


「ふ〜ん。じゃあレイフォードと一緒だな」


「ああ。って、土壇場に紛れて何を言わせてるんだ!」


 ちょっとした冗談のつもりで言っただけなんだけど、いい顔するじゃないか。ほっぺが赤いぞー。


「別に恥ずかしがることないだろ。一人の女性としてお前がセレンティーヌの事を愛してやまないことくらいみんな知ってるさ」


「か、勝手な事を言うなデカブツ!お前が私の何を知ってると言うんだ。もう……」


 分かりやすく照れちゃって。カワイイんだから!


 こういう意外と不器用で素直な所が女性人気ナンバーワンの所以だったんだろうな。


 第三者としてアニメを見ている時はなんとも思わなかったけど、こうして目の前でやり取りしてると男のオレまでキュンとしてしまいそう。


 叶わぬセレンティーヌとの恋路を応援してたファンの気持ちも分かった気がする。


「ここから出てけ!!」


「ん?」


 ほのぼのとした雰囲気にはとても似合わない少年の怒鳴り声。


 集まっていた子供達と比べて少しだけ歳上に見えるけど、この子もこの施設で暮らしている子のようだ。


「お前なんか出てけ!このワルモノめ!」


「おい!」


 少年が投げた石がセレンティーヌの頭に当たり薄らと血を流してしまう。


 周りにいた子供達も唖然としたまま空気だけが凍りついてく。


「お嬢様!」


 慌てて駆け寄ろうとするレイフォードをセレンティーヌはそれを無言で拒否する。


「早く出てけ!どっか行っちゃえ!」


「おにいちゃんやめて!セレンティーヌおねえちゃんにそんなことしちゃダメだよ!」


 少年より遥かに小さい妹らしき少女が兄に抱きつき必死に抵抗している。


「え、シルフィ!?お前は来ちゃダメだって言っただろ!」


「ダメなのはお兄ちゃんだよ!わるいことしたらごめんなさいしなきゃいけないんだから!」


「い、いいから早くお前は中に戻れって、」


「私は何も良くないんだけど?…確かアナタ、カイトとかって言ったかしら」


「あ……」


 自分と比べて半分以下の背丈しかない子供相手に屈むこともないまま、真っ直ぐな目で少年達を見下ろす。


「可愛い妹さんが言う通り今すぐ謝るなら許してあげてもいいけど、どうする?」


「だ、誰がお前なんかに、あ、あやまるもんか!!」


「ふーん…」


 強気な言葉の割には明らかな弱腰。自分が誰に何を言ってるのか分かってるからね。


 それでも言ったってことはそれだけの理由があったってことだろうけど。


「それなりに本気みたいね……」


「当たり前だ!お前のせいで今度は妹がいなくなりでもしたら、俺は……」


「何それ?」


「とぼけるな!俺は知ってるんだぞ。お前があの巨大な仲間に命じて街を壊させたんだって!」


「はぁ?」


 もしかしてあの少年。最近巷で囁かれている例の噂を真に受けてしまっているのか。


「今度はここまでこわそうとしてるんだろ!?そんなこと俺がさせないぞ!」


「あのね…私がその気ならこんな場所とっくに壊してるわよ。なのにしないのは、私がアンタ達のことを」


「あ、……」


 今度はプロレスラーが放つ毒霧のように溜まった唾を顔面に吹きかける。


 おいおい、セレンティーヌにここまでの仕打ちをした奴は原作でもいなかったぞ。


「いいから出てってよ!!」


「……あっそ。ならお望み通り出てってあげる。行くわよレイフォード。ウェルも早く」


「畏まりました…」


「ああ」


 しれっと吹きかけた唾を拭うと、動じた様子を全く見せないままオレの中へと乗り込んでいった。


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