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第8話

 シロが金策に悩んでいると、手に書類を抱えてガーネットが戻ってきた。ガーネットの後ろにはお菓子が入っていると思われる袋を持ったレオンもいる。レオンの持つお菓子に、シロの目は釘付けだ。先ほど朝食を食べたばかりだというのに、お菓子が気になるらしい。

 シロは昔から甘党で、クロもそのことを知っている。

 幕末時代、修練でボロボロになっていた幼い姿のシロに、クロは妹から貰って懐に隠していたカステラをあげたことがあった。

 現代日本人ならカステラを買って食べることは容易で、シロも甘いものに執着心はなかった。知り合いに貰ったから甘いものを食べる程度で、自ら買ってまで食べようとはしなかった。

 しかし、幕末という時代で身も心もボロボロだったシロにとってカステラ、甘いものは救世主となった。ストレスの吐き出し口が甘味になっていたともいうだろう。

 糖分への異様な執着は、生きるためだった。理由が理由なだけあって、シロの糖分執着を止める気持ちはクロにはない。流石に健康を損ないはじめたらとめるつもりではいるが。

 レオンから菓子、昨日食べた蜂蜜菓子を貰ったシロは「美味しいやつ!」と喜び一口たべて笑みを浮かべる。クロはひとつだけ取っておいて残りはシロに渡した。

 ガーネットはお菓子に喜ぶシロとクロに向かってニコリと笑いかける。


「待たせたね! 冒険者学校の入学案内を持ってきたよ、入る為の試験はないが、実力テストはある。入学金は金貨二枚、成績上位者には奨学金も一応あるよ。冒険者は何歳からでも可能でね、子どもの小遣い稼ぎ用の依頼もあるんだよ」


 ガーネットは「これが冒険者学校の案内で、これは冒険者登録する時の提出用紙だよ」と文字が書かれた紙二枚と、羽根で出来たペンをシロとクロの前にあるローテーブルの上に置く。だが、シロもクロも読み書きができないため困ってしまった。こんな早く読み書きが出来ない弊害が現れるとは思ってもいなかった。

 シロは口の周りに菓子の欠片をつけながら、申し訳無さそうにガーネットをみた。


「ごめんなさいガーネットさん。わたし、この字がよめないの……」

「あら、そうかいそうかい! ごめんよシロちゃん! そうだねぇ二人ともしっかりしてると思っていたがまだ子どもだし。そうか、二人とも迷い人なんだね、迷い人ならわからなくて当たり前だね、すまないねぇ、おばあちゃんを許しておくれ……」


 ガーネットがシロとクロに頭を下げる。しおらしく、可哀想な子どもの姿を演じるシロに、クロは少し引いていたが使えるものは使うスタンスのシロに心の中で拍手していた。クロは腹芸が苦手だ。

 シロとガーネットの様子をみていたレオンは「では俺が読み上げてやろう、その上で冒険者をやるかどうか判断しなさい」と紙に書かれた内容を読み上げる。


一、ギルドはどの国にも所属しない。

二、ギルドはどの国の政治にも関与しない。

三、ギルドは冒険者全員を保護する。

四、冒険者同士の争いは厳禁である。

五、冒険者が罪を犯した場合、ギルド内のルール、その国の法によって処罰される。

六、依頼中の怪我について、ギルドは一切責任を負わない。

七、依頼中に死亡した場合でも、ギルドは一切責任を負わない。


SSランク:神に近き者。

Sランク:冒険者最強、ドラゴンやリッチ等。

Aランク:冒険者トップ、上級悪魔やオークキング等。

Bランク:冒険者のベテラン、下級悪魔やダークヒュドラ等。

Cランク:冒険者の中堅、ゴーレムやオーガ等

Dランク:冒険者の一人前、ゴブリンやダークウルフ等。

Fランク:冒険者新人、スライムや歯長兎等。

Gランク:未成年者等。


「以上だ、質問は?」


 冒険者ギルドの登録用説明文を読み終えたレオンは、シロとクロに声をかける。理解出来ているかはさておき、二人が説明を聞こうとしている姿にレオンは関心していた。説明を聞き、納得した上で冒険者ギルドに入る冒険者は滅多にいない。

 シロはレオンに向かって手を上げる。


「はい! レオンさん、私は成人前なのでGランクになると思いますが、依頼もGランクしか受けられないんですか?」

「あぁ、基本は自分のランクのものしか受けることはできない。逆にAランクがGランクを受けることは出来るぞ。だが、注意も聞かず勝手に挑戦する奴もいる。そういう奴は大抵早死にするか、即冒険者をやめる。お前たちはどちらかな?」

「レオン!」


 脅すんじゃないよ! とガーネットはシロとクロを抱きしめる。しかしレオンは「シロとクロに迷い人の基本レベルは高いと教えたんですよね? なら調子に乗るでしょう」と辛辣だ。レオンは二人が危険な真似をする前に釘を刺しておきたいのだろう。

 シロもクロもレオンの言葉にキョトンとしたのち、内容を理解して苦笑した。


 二人とも見た目通りの年齢で、斬った斬られたも知らず、血の匂いも分からない、物語に憧れを抱いていた普通の子どもならば自分達の力を過信し危険な場所へと身を乗り出すだろう。

 だがシロとクロは普通の子どもではない。身体年齢に囚われることはあるが精神は大人で、生きた年数でいえば二人ともレオンよりも年上になるだろう。

 シロはガーネットに聞く。


「Gランクって危なくはない、ですよね?」

「あぁ、危険がないように設定しているよ。それに依頼で街の外に出る場合は、暇をしている高ランク冒険者やギルド職員が保護者として一緒に行動するようにしているんだ。正直大人の手を借りてまで外に出ようとするGランクの冒険者はいないねぇ」

「わかりました。では今私達が冒険者登録をして、Gランクの依頼を受けながら他の国にいきたいと言ったら、危険な目に合わないよう保護者がつきますか?」

 

 シロはガーネットの目をみた。ガーネットはシロの目をみて驚いた後、ニヤリと笑う。

 シロは思いついた、冒険者登録をしてGランクになり、Gランクの依頼を受けて外にでる。最下位ランクの仕事でま依頼によっては外にば出れる様だし、大人のお守りもつく。若い子は監視される不自由を嫌い、大人隠れて街の外にでるなどの手段を取るかもしれないがシロとクロは反抗期をとうの昔にすぎている。むしろ着いてきてもらった方が安全だとわかっていた。

 依頼をこなしながら街から街へ、国から国へ移動していればディクタチュール国から少しでも離れることが出来るはずだし、保護者がいれば自分たちはその保護者に着いて旅をするだけだ。

保護者となる冒険者やギルド職員は子ども二人を抱えて旅をしなければならないため大変面倒をかけることになるが、昨日ガーネットとレオンは召喚してしまったことをこの世界の代表として申し訳ないと頭を下げた。他人の失敗に頭を下げることの出来るガーネットとレオンならば、シロとクロの為なら少しの我儘くらいは聞いてくれるのではないかとシロはにらんでいた。

 レオンは顎に手をやったあと、シロに問いかける。


「シロはどこの国に行きたいんだ?」

「冒険者学校に入りたいので、冒険者が多そうな国に行きたいです」

「冒険者学校ならヤマトノ国が一番大きいな。クロはどこに行きたい?」

「俺もデカイ冒険者学校に行きたいです」

「シロが行きたいからか?」

「シロと俺が行きたいんです」

「いいだろう。ガーネット様、この二人のお守りは俺が引き受けます」


シロとクロのお守りをやると決めたレオンに、シロは安心して息を吐き出す。無理だと言われたら、覚悟を決めてシロとクロだけの旅を始めるしかない。ディクタチュール国から早く出ないと不味いと、シロの勘が騒いでいた。

 クロもレオンがやってくれるなら安心だなぁと考えていた。レオンは言葉は少ないが、悪い人ではない。むしろ良い人すぎて割を食うタイプだろう。


「嫌だね。ガーネットおばあちゃんが引き受けるよ! 二人には絶対怪我させないからね!」

「は?」


 しかしガーネットの予想外の返事にレオンは呆けた声を出した。

 

「なに格好つけてるんだい青二才が、この私Aランク冒険者のガーネットが二人をヤマトノ国まで送る!」

「貴女はギルドマスターでしょう、それに俺もAランク冒険者ですが」


 口喧嘩を始めてしまったガーネットとレオン。シロとクロとしてはどちらでも問題ないので決着を見届けることにする。

 クロは蜜菓子を口の中に放りこむ。噛むとじゅわり、糖蜜のような甘い液体が口いっぱいに広がった。元の世界のヤックァというお菓子に似ている味、モチモチ食感の生地を揚げて蜜漬けにしているのだろう。シロが気に入るわけだ、とても甘すぎてクロは1個で十分だった。


「お菓子が美味しい世界でよかったねクロ」

「そだな」


 シロは機嫌よく、見た目年齢相応の笑顔を浮かべた。そんなシロの笑顔をみて、クロも笑った。


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