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第6話


 知らない天井。

 目を覚ましたシロが最初に思いついたことは、物語によくある台詞だった。通常の現代人なら突然意識を失い病院に運ばれ目を覚ました時くらいでしか経験できないだろうが、シロは今回で2回目の知らない天井体験だった。

 シロは自分の左隣をみると随分と若返った友人、クロがあどけない顔でスヤスヤ寝ていた。クロが十六歳になる頃には「ひげ剃るのめんどくぇ」と言い始めるのか、シロはげんなりした。幼いときは可愛らしいのに、成長すると可愛らしいの欠片もないとシロは身をもって知っている。

 シロは寝ているクロを起こさないようベットから降りた。テーブルの上に置かれた水差しを手に取り、木のコップに水を注ぐ。水の入ったコップを両手に持ち、水を一口二口と分けて飲んだ。

 シロは短く息を吐く。久々にしっかり寝たせいか気分が落ち着いたようだ。

 江戸時代末期、幕末から戻ったシロは不眠症に悩んでいた。現代日本で銃や刀を持った人間が夜襲を仕掛けるなど滅多にない。無いと言い切れないのが残念だが、幕末時に命を狙われていた時よりは確率が低いだろう。気を張っていても意味がないというのに、無意識に構えてしまっているのか眠れないのだ。

 だが、昨日は寝ることが出来た。子どもの身体だから上手く寝ることが出来たのかもしれないので、ある意味子どもになってよかったのかも? とシロは考えた。

 シロは両開きの、透明度が低いガラス窓を片方だけ開け外を見る。

 黒と濃紺の下からうっすらと白い光がのぼり始めている。近世西洋のような石造りの建物は夜の陰を纏っているが、もう少しすれば姿を現すだろう。夜と朝の境界線は異世界でも変わらない。夜が明けるこの時間が、シロは好きだった。

 シロが建物を改めて観察すると、店であろう看板がみえた。看板に書かれた絵が辛うじて文字だろうということしかわからなかった。ガーネットやレオンと会話は出来る為、話す聞くは問題ない。しかし読み書きには問題有りのようだ。攻撃能力に秀でているよりも、読み書き出来ない方が生きていく上で大変なことをシロは知っていた。文字が読めないと今後騙されることだってあるかもしれない、知識とは力だ。元の世界に戻れないならば、勉強していくしかない。

 昨日シロとクロが決めたことは、スローライフファンタジーを送るために金を貯めるということだけ。現在の手持ちは銅貨五十枚に銀貨二十枚。日本円換算でいくらなのかはわからないが、無いよりはましだ。ガーネットにギルド登録について確認し、これで仕事を確保して文字とこの世界についての勉強も並行するしかない。もっと情報収集したいところだが、何をどうするべきかわからないのが現状だ。

 自分のスキルをみていれば何か考えつくだろう。シロは自分のステータスを確認し、鑑定スキルが目についた。物語では鑑定スキルを駆使して成り上がるものもある。自分だけでなく他の物や人に対しても使用できる物語もあるため、試してみようと思った。

 シロはクロをみて「鑑定」と呟く。すると目の前に自分のステータスを確認する際と同じく、文字がクロの前に浮かび上がる。


────────────────

『クロ』

10歳

Lv:?

HP:?

MP:?

◆スキル

◆魔法

◆称号

────────────────

「はてなマークばっかだな」


 なんでだろ。とシロはオタク知識をフル回転させた。はてなマークは読み取れなかったという意味か、鑑定スキルのレベルが低いから情報が読み取れないのかもしれない。シロの鑑定スキルの横には下級と書いてあった。使用を続けるか、別の手段を取れば中級上級と上がっていくんだろう。シロは続けて水差しに鑑定をかける。

────────────────

『水差し』

────────────────

 見た目でもわかる情報のみ、水差しの前に現れた。苛立ちを覚えたシロだったが、深呼吸し気分を落ち着かせる。小さなことに苛立ってどうするんだ、イライラしても状況は変わらないと自分を叱咤した。


「のんびりやるか、今回は人間に向けて刀振り回すわけじゃなさそうだし」


 あぁでもこの国の王はムカつくとシロは思っていた。そのうち誰かに暗殺でもされそうな王だったが、そのうちはいつになるかわからない。ディクタチュール国の城に勤めている人々は子どもを心配しお菓子やお金を置いていくなどのお人よしが多いようだ。だが王とその姫をみる限り国としては財政破綻か、または他国に攻め落とされる時が来るだろう。ディクタチュール国に長居するのはやめた方がよいかもしれない。

 シロが今後について考えていると「うぅん」とクロの起きる声がした。やっぱりこいつがヒロイン枠では? とシロは思った。寝起きのくせに顔が可愛いらしい。黒い瞳は欠伸で流れた涙に濡れ、窓から差し込み始めた朝日に照らされキラキラと輝いている。黒いサラサラの髪には天使の輪と呼ばれる艶ができていた。寝癖すら仕様なのかと首をかしげるレベルだ。

 これがあと六年で筋肉ムキムキのゴリラになる。シロは改めてげんなりした、先を知っているからこそ素直に可愛いと思えないのだ。


「おはよー、水飲む?」

「のむ」


 クロに水の入ったコップを渡すと勢いよく水を飲み干した。そのあと水差しを掴み直接口をつけようとしたので、シロはクロの頭をたたき阻止した。行儀が悪い。シロがクロを睨むと「誰もみてないじゃーん」とブツブツ呟きながら痛む頭をさすった。


「はー、良く寝た」

「そりゃよかった。あ、クロ、ガーネットさんたちのところ行く前に1つ聞きたいんだけどさ、この国についてどう思う?」

「うーん国王に対しての好感度はマイナス。正直この国にいても良い事は無いな」

「オッケー。この国からでようかクロ」

「了解、でもどこにいくんだ?」

「ガーネットさんたちに聞く」

「それが一番手っ取り早いか。あ、もう一個不安要素」


 クロが真面目な顔で「俺達のチート、どうやって隠す? 特にステータス」と自分のステータスを開示する。異様なステータスが、この世界の普通なら問題ないが、多分違うだろうとシロとクロは思っていた。さらには子どもの姿なので異常さが際立つだろう。何かに突出していることはよいことだが、隠した方がよいときもあると二人は知っていた。今は隠した方がよい時だろう。

 二人で腕を組みながら悩むこと数分、自分のステータスをみて気がついた。『創造』というスキル、言葉通りならかなり強力だ。


「ねぇ、スキルに創造ってあるけどこれ使えるんじゃない?」

「おー、もしかしてこれ1つでチートじゃないか?」

「それな。だけどスキルの使い方がイマイチわからないなぁ、鑑定は使えたけどさ」

「鑑定はどうやって使ったんだ?」

「対象を見ながら鑑定って言っただけ」

「そのまんまか。うーん、完全詐称とかをイメージしたら?」

「詐称は偽っていうだからちょっと違うんじゃない? これは見るも含まれると思う。難しいんだよ日本語は。どの言語も難しいけど」

「よっ元国語の先生!」

「あ、完全偽装は? もっともらしくつくる、カムフラージュのイメージで作れば……」

「その前に創造で別のスキルとか作れるのか?」

「それな」


 「まぁやってみてよ」とシロはクロにやらせようとする。

 「俺がやんのかよ」とブツブツ言いながら、クロは唸りだした。文句を言いつつやるらしい。


「えーっとどうしようかな、まずはイメージ。シロ、完全偽装の意味って何?」

「あー、事実を覆い隠すために他を装うことと、周りに似せて見分けにくくすること、かな。完全はわかるっしょ?」

「おっけぃ。むーん、むーん、あ! わかった! 欠けることのない偽りの装い。開示用、初期値設定、他者からの鑑定時に出現≪創造≫」


 腕を組み目を瞑って悩んでいたクロは思いついた。スキルとか魔法なら、呪文が必要じゃね? と。シロに教えてもらった言葉の意味を想像し、自分のステータスを覆うイメージ。それと呪文を放てばなんかいけるかもしれない。ついでに異世界召喚の物語に多々ある日本語チートもためしてみるか。

 そして呪文を唱えたクロの中で、何かが出来た気がした。クロの中で何かに覆われた感覚があったのだ。

 「お、シロ! できた!」とよろこんでいるクロに向かって、シロは「鑑定」と呟く。

────────────────

『クロ』

10歳

Lv:1

HP:5

MP:5

◆スキル

無し

◆魔法

火魔法:下級

◆称号

無し

────────────────

「あ、ほんとだ。めっちゃ弱い」

「弱い言うな」

「クロ、さっき創造って言った時何を意識してた?」

「ステータス覆うイメージと日本語。俺達が無意識に話す言葉はこの世界の言語になってるぽいし。もしかしたらこの世界にない言語の方が魔力を込められるとか、あるかもなーって。召喚者とか迷い人もいる世界だし」

「あーなら全部日本語で言ってみようかな」


 シロはベッドの上で座禅を組む。息を吸う吐き出すを繰り返す。シロが何かに集中したい時によくやる行動だ。

 集中、イメージするは完全偽装。ステータスに大きな布をかける。


≪欠けることのない偽りの装い・開示用・初期値設定・他者からの鑑定時に出現・創造≫


 子どもの頃は何とも思っていなかった魔法詠唱だが、シロの精神は大人なので少し恥ずかしさを覚える。

 『創造』と言うと、シロの中で何かで覆われ隠された感覚があった。


────────────────

『シロ』

10歳

Lv:1

HP:5

MP:5

◆スキル

無し

◆魔法

水魔法:下級

◆称号

無し

────────────────

 シロはクロに鑑定をお願いすると、クロは鑑定と呟いた。

 「おう、隠蔽されてる。あ、隠蔽でもよかったんじゃね?」と今更なことを言い放つクロだったが、隠蔽は隠すだけだからまた意味が変わってくるとシロは返す。

 改めて自分達のスキルを確認してみる。

────────────────

『シロ』(深山真白)

10歳

Lv:99

HP:9998

MP:9998

◆スキル

剣術:神級 銃術:神級 格闘術:神級 暗殺術:神級

馬術:上級 詐術:上級 鑑定:下級 創造:中級 完全偽装:神級

◆魔法

火魔法:下級 水魔法:下級 土魔法:下級

風魔法:下級 光魔法:下級 闇魔法:下級

空間魔法:下級

◆称号

「刀神」「侍大将」「維新の英雄」「紅き修羅」「異世界召喚者」「神のいとし子」

────────────────

 シロのスキルには完全偽装が追加され、神級となっていた。

 他者に看破される可能性は低くなっただろう。クロも自分のスキルを確認し「うげっ、完全偽装のレベル上級だ。チートこわ」と声を上げた。上級という言葉にシロは疑問を覚え首を傾げる。クロもシロの様子に気づいて首をかしげた。

 

「え、クロも神級じゃないの?」

「いや、上級だぞ?」


 二人でステータスを確認し、何故? と疑問を覚えていると、扉を叩く音。

 扉の向こうから「二人とも起きたかい?」ガーネットの声がした。


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