第30話
今回から視点がシロになります。
太陽の神が世界を覗き込んだ頃、私は目を覚ます。
ボサボサの髪を手ぐしで整えながら、さっきまで見ていた夢の内容を思い出そうと頭をゆっくりと振る。
「なんか、先生が出てきた気がする。さっきまで覚えていたのに」
私が先生と呼ぶ人は、甲という男だけだ。
幕末に突然タイムスリップした私を拾ってくれた人。
子どもの姿になってしまった私を、自分の子だと言って育ててくれた人。
育ててくれたと言っても、先生による隠密の修練がしんどすぎて、毎度泣き言やら血反吐まみれではあったが。もう二度としたくない。
おかげで私は幕末を程々に生き抜くことが出来たし、異世界に来ても慌てず騒がず、クソデカな魔物を倒せたとも言える。
「夢の中で怒られた気がするな、やだわぁもー」
髪を適当に結い上げ、私は部屋から出る。
すると「シロ、おはようさん」と隣の部屋からクロが出てきた。
クロは顔を顰めている。朝から不機嫌らしい。
「おはよクロ、不機嫌さん?」
「筋肉痛と肩こりが酷い」
「クロお爺ちゃん、顔は洗えますかぁ?」
「なめるな! 俺はピチピチのギャル男!!」
「ふんぬぬぬ!」と気合いを入れて洗面台のある方へ向かって歩くクロ。
洗面台には毎朝ククリさんが水の入った桶を準備してくれている。
私はゲラゲラ笑ったあと「まって、私の筋肉痛はいつ来るの?」と恐ろしくなった。
昨日、前線で戦っていたのは私だ。
私の方が空中で身体を捻ったり、大太刀をぶん回したりしてた。
大人だったからこそ知っている恐怖。
時差で来る筋肉痛や全身の倦怠感。
歳を追うごとに言うことを聞かない身体。
常にどこかしら具合が悪く、徹夜は年々しんどくなる。
あ、昨日の内に怪我をスキル≪復元≫で元に戻したから、もしかして筋肉痛も無かったことに、なったってこと……?
「スキルってべんりぃ……」
筋肉痛で顔を洗うのに苦労しているクロに「スキル、使えばいいと思うよ」と私は声をかけた。
顔を洗い、寝巻きから着替えた私とクロが一階の食堂へ向かうと、レオンさんがのんびりと朝ごはんを食べていた。
「シロ、クロおはよう」
「おはようございます」と私とクロが挨拶をすると、レオンさんは微笑む。
食堂の厨房で仕込みをしているスーさんから朝ごはんを受け取り、私とクロはレオンさんと同じテーブルに座る。
「シロ、クロ。今日の仕事が決まっていなければ、俺の仕事を手伝ってほしい。依頼金は金貨二枚だ」
先に朝ごはんを食べ終わったレオンさんは、お茶を飲みながら言った。
子どもに依頼するにしては高額すぎて、怪しさ満載。
でも私とクロが不利になる事を、レオンさんが言うはずが無い。とも思っていたので、私は二つ返事で了承した。
ちなみに今日の朝ごはんは白くて丸いパンと、よく分からない謎肉のソーセージと卵焼き。
ソーセージは多分合挽き肉だ。何の肉かは全く分からない。
だけど、何日か前にスーさんに言われて燻製をする手伝いをした時に、ソーセージのようなものを見た記憶がある。
冒険者達に人気の子熊食堂。その店主作の手作りソーセージ。美味しいに決まっている。
今日もご飯が美味しくて助かるなぁ。
なんて思いながらソーセージをひと口かじると、パリッと皮の弾ける音がした。
下の☆をポチポチして頂けると、やる気の燃料になります!




