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訳アリ教師ふたりが異世界召喚に巻き込まれたようです  作者: 藤白春
前日譚、幕末篇

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38/43

湯漬け、ニシン。

時期は戊辰戦争中、夏。


 旅籠屋で茂栄(しげはる)はひとり飯を食べていた。


 戦もあって食べたかった鯉を出す店はなかったが、ニシンの山椒漬けにはありつけたので茂栄の腹は多少満足していた。


 茂栄がニシンを湯漬けにのせ食べていると、連れである(きのと)が「戻りました」と部屋の障子を開ける。


「首尾はどうだ?」


 乙は手荷物を畳の上に下ろしたあと、暑いのかパタパタと手で顔を扇ぎながら茂栄の質問に答える。


「一足遅かったようです」

「わかった、次は仙台藩か?」

「いえ、先回りしたいと思います。戦の終わりは箱館なので、その辺にいれば嫌でも出会うでしょう多分」

「先見の明がある乙も定敬(さだあき)の動きはわからない、と」

「不便な先見の明でして。ところで何食べているんですか」


 私も腹が減りました。と乙は茂栄の前に座り、飯を狙う。


「ニシンの山椒漬けだが、主人が隠していた残りだそうだ。大切に食べなさい」

「それはまた貴重な……飯って残ってます?」

「あるぞ」


 茂栄から椀を受け取り、おひつに入った冷や飯を入れる。飯の上にはニシンと山椒の葉ものせた。さらに湯を注ぎいれれば湯漬けの完成だ。

 乙は「いただきます」と手を合わせ飯と湯をすする。

 

 夏場とはいえ温かい物は食いたくなる。

 山椒の辛味と酸っぱい味も、動いて汗をかいた乙の体によく染みた。


「んまいですね、よく漬かってる」

「だろう? 主人には礼をせねば……鯉も食いたかったが」

「容保様に、兄が来たぞ! とお伝えになればよいのでは?」

「嫌だ、今の私は黒田海斗(くろだかいと)だぞ? ちょっと金持ちの若君が物見遊山気分で戦を眺めている風を演じなければならん」

「三十過ぎて若君はちょっと……」

「なんで海斗は若君と呼ばれ、私はだめなんだ!」

「歳が三十を過ぎているからですよ」

「海斗も三十路一歩前だろうが!」


 誤差だろう! 納得がいかないという表情をする茂栄。

 面倒なことを言い始めたと思った乙は、食べかけの湯漬けに湯を足した。

 

 話を聞かず飯をすする乙に気づいた茂栄は「お前、私はお前の上司だぞ」と声を荒げたのち、息を吐き出す。

 

 茂栄は乙の上司ではあったが、乙の機嫌を損ねると今この場に置いていかれる可能性があった。

 乙をねじ伏せる力は茂栄にはないし、乙を制御できる甲と海斗はこの場にいない。

 

 置いて行かれると困る茂栄は無理矢理笑顔を作り話題を変えることにした。

 

「そういえば、(きのえ)を殺した奴は(ひのと)と言ったか。私は知らぬ者だが兄上は知っていたのか?」

「大殿は知っておられました。蝶の中でも古株らしいのですが、私も会ったことはないですね。甲先生が長になった辺りにはもう桑名藩付きになっていたようです」

「甲が里から追い出す、訳がないな。アイツは身内を大切にしすぎる節があった」

「古株の蝶達曰く、序列を決める際に甲先生に負けた腹いせで、周りに当たり散らかしていたそうです。なので皆で話し合い追放した。その時の恨みで甲先生を殺したのではないかと」

「甲と丁の間には乙と(ひのえ)もいるだろ、どうして甲だけ恨まれる?」

「甲先生と同腹、顔も似ていたようで、よく比べられていたそうですよ」

「密偵として良い武器になりそうなものをドブに捨てたのか」

「怨み辛みはいい油になりますから、よく燃えます」

「お前、甲のことが嫌いだったか?」


 甲は仲間たちに慕われ、乙も甲によく懐いていた。

 

 殺され燃やされた。

 惨たらしく死んだ。

 

 無念の死を遂げた甲の仇討ちをするために、乙は動いているのかと茂栄は考えていた。

 

 甲に対して思いのほか突き放すように言う乙。

 そんな乙の言葉に引っ掛かりを覚えた茂栄は乙に嫌いかと問うと、苛立ちと、怨み辛みを溜め込んだ、耐えるような声で乙は答えた。

 

 

「嫌いですよ」


 

白虎隊剣舞はかっこいいので見かけたら是非。

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