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訳アリ教師ふたりが異世界召喚に巻き込まれたようです  作者: 藤白春
前日譚、幕末篇

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36/43

栗、里芋。



「あれ、茂栄(しげはる)様。大殿は?」


 目的地であった部屋の障子が開いていた。

 (きのと)は床に膝をついてから部屋の中を覗き込む。

 部屋の中ではひとり茶を啜る男、茂栄が胡坐をかいて座っていた。茂栄は乙に気が付きニコリと微笑んだ。その笑顔に乙は経験上の胡散くささを感じとる。

 子どもの頃は遊び仲間でもあった茂栄と乙。殿と密偵という身分差はあれ、お互いに気が知れている仲であった。

 

「久しいな乙、大兄上は出掛けたぞ」

「そうでしたか、出直します」

(きのえ)が死んだらしいが、名と蝶の継承はするのか」


 躊躇いもなく切り込んできた茂栄に乙は閉じようとしていた障子から手を放し、茂栄に向かい合う。

 

「私は乙の名を通します。蝶の長は(ひのえ)様が適任、私には向いていません」

「そうか、ならお前は今日から暇だな?」


 暇という言葉に乙は反射的に答えた。

 

「いえ、暇ではありませんが」


 師であり隠密()の長であった甲の死後、やることは山積みである。丙に全てを押し付ける気概は乙には無かったし、自らが率いている組織『野衾(のぶすま)』の仕事も残っている。

 それに、正月三が日が過ぎていた。歴史の転換点である戦はもう始まっている。

 

 茂栄も本来ならば忙しくしている頃であったが、何故か余裕綽々としている。

 飄々とした茂栄の姿に乙は嫌な予感がした。

 

「暇な乙に新しい命を授けてしんぜよう。私と定敬のお守だ」

「忙しいためお断りしたいのですが」

「あきらめろ、殿様命令だ。あーいい顔だ、苦しめ苦しめ」


 ぎゅっと目をつぶり命令を拒否する乙を茂栄は大笑いで許す。咎めるお付きの者がこの場にいないことも災いした。乙はあきらめるしか道がない。

「よっこらせ」と立ち上がった茂栄は乙に「立て」と言って乙を立ち上がらせる。

 

「可愛い可愛い我が弟君の海斗はどこへ行った?」

「庭で焚火をしておりましたが」

「焚火か、なら焼き芋だな」

「薩摩芋はないですが銀杏、栗、里芋は焼いているそうですよ」

「何故薩摩芋がない?」

「夕餉に出るそうです」

「あぁ、それはしょうがないな薩摩芋は諦めよう。乙よついて参れ」


 にこにこと意味深い笑みを浮かべ部屋を出ていく茂栄の後を乙は追いかけた。

 目的地は乙の友人で、茂栄の義弟でもある黒田海斗(くろだかいと)がいる庭。

 

 ごうごうと燃えている火を見ている黒田の側に、茂栄は近寄った。しゃがんでいた黒田は不思議そうに兄の顔を見上げる。


「兄上、いかがされましたか?」

「お願いがあってな」

「なんでしょう? あ、栗が丁度焼けたので食べますか?」

「貰おう、あぁ皮くらい自分で剥けるぞ」


 黒田の兄ではあるが殿様でもある。

 偉い人に手間を掛けさせるのは、という元社会人的な思考がある黒田は、栗の皮を剥いてから渡そうとする。

 しかし茂栄はそれを断り熱々の栗を着物の袖で受け取った。

 亀裂に沿って栗を割り、鬼皮を剥いで火の中に投げ入れる。


 残った黄色い身の部分を、茂栄は口の中に入れた。ほくりと崩れ甘い味が広がる。当たりの美味い栗だったようだ。

 

「乙も食うか?」


 兄が栗の味に満足しているうちにと黒田は乙に声をかける。

 

「里芋が食べたい、どの辺?」

「里芋は手前の、多分その辺に埋まってる」

 

 乙は言われた場所から煤にまみれ黒くなった里芋を拾う。

 煤けた紙が巻きついたままの柔い里芋だ。

 乙は手ぬぐいの上に里芋を置き、皮を撫でるように剥く。白い実が姿を現した。

 黒田が乙の持っている里芋に塩をかけてくれる。

 乙は昇る湯気に息を少し吹きかけ、一口。

 塩気が癖になる、ほくほくねっとり食感。

 里芋はまだ熱く、口の中で躍らせながら冷まし咀嚼する。


「栗も美味いが里芋も美味そうだ。乙、私にもくれ」


 美味そうに里芋を食べる乙に我慢できなくなった茂栄が里芋を寄越せと言う。

 

「ふぇい、少しおまちくだふぁい」


 乙はモグモグと口を動かしながら里芋を発掘し、自らの手ぬぐいにのせて茂栄に渡した。

 殿様の着物を煤だらけにさせるわけにはいかないと思ったようだが、栗を持った時点で茂栄の着物は煤で汚れているため今更であった。

 

「兄上は栗二つ里芋も二つまでです、また夕餉を残されると困るので」

「せめて栗四つ、里芋四つにならんか?」

「俺が(まさ)姫様とお(ゆき)に怒られるのでダメです」

「乙、弟が厳しい。反撃を頼む」

「食ったら動けばいいと思います、剣の鍛錬でもしましょうか?」

「寒い中鍛錬なんぞしたくない」

「では諦めてください」


 ぐぬぬ。と悔しがる茂栄は、皮を剥き塩をかけてもらった里芋を小さく口の中に入れモチャモチャと音を立てて食べ始める。

 噛む回数が栗を食べた時より多いのは個数制限がされたからだろう。


 ゆっくり味わうように食べる茂栄を気にもせず、黒田と乙は自ら食べたいものを焚火の中から取り出し、見せつけるかのように口の中へと入れた。

 恨みがましい視線を黒田と乙に向ける茂栄であったが、何か思い出したような顔をし自らの膝を軽く叩き、黒田に言った。


「そうだ海斗。お前は明日から私だ、殿様業がんばれよ」

「は?」


 

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