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訳アリ教師ふたりが異世界召喚に巻き込まれたようです  作者: 藤白春
前日譚、幕末篇

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35/43

焚火、銀杏。


 ぱちぱち火がはねて赤く燃えている。


 空へ上がろうとする煙にまかれた男はゲホゴホとむせた。生乾きの木が混ざっていたようだ。

 男は咳き込みながら、洗って乾かしておいた丸い石を火の中に二つ放り込む。

 ついでに殻に切れ目を入れた栗を近くの火に投げ入れた。


「若様、そのような事は私が」

「大丈夫大丈夫、おやつ奉行黒田海斗(くろだかいと)君に任せんしゃい。それよりお(ゆき)彦助(ひこすけ)の事探してたぞ? 行かなくていいのか?」


 男、黒田はこの屋敷の若君だ。黒田の傍に控えていた彦助の上司でもある。

 上司が火の世話など! と考えていた彦助だが、お幸は上司の妹で、この屋敷を男の代わりに取り仕切っていた。


 彦助は少し躊躇った後「お幸様のところにいってきます、ここに居てくださいね」と黒田に伝え屋敷の中へと入っていく。


 黒田は「寒いなぁ」と濃紺色の襟巻きを直す。準備してきた鉄鍋に、塩と殻付きの銀杏を入れて遠火に置く。

 続けて水で濡らした紙でサトイモを包み、焚き火の中へ放り込む。


「アルミホイルが欲しいなぁ」


 黒田の視界の端でチラチラと何かが飛んだ。

 よく見ると、白いふわふわが舞っている。


 黒田が空を見上げると、薄い青に薄雲がかかっていた。

 火の暖気に煽られ溶けていく白いふわふわを、黒田はぼーっと眺める。


 ゆらめく火を見つめていると、向こう側に人が現れた。

 黒田は手招きをして「しろ! こっちこっち!」と呼ぶ。

 (しろ)と呼ばれた男は鼻が赤くなっていて、懐からぐしゃぐしゃにした鼻紙を取り出し鼻をかむ。白は汚れた紙は火に投げ入れた。ついでに袂に溜めていたらしい鼻紙もぽいぽいと火の中に投げ捨てる。


「おかえり白、風邪うつすなよ」

「ただいま黒、手洗いうがいして」


 口元を襟巻きで覆い隠す白は「殿は?」と聞く。

 聞かれた黒田は「さっき帰ってきたけど、面倒臭い面倒臭いって何回もグチグチ言ってたから暫く近寄らない方がいい」と答え鍋の中の銀杏を箸でつついた。


「白は銀杏と栗と里芋、どれがいい?」

「早いのはどれ?」

「あー、銀杏かな」

「んじゃ銀杏がいい。お奉行様、どの銀杏が食べ頃ですか?」

「うむ、この焦げて割れてるやつじゃ!」


 焼けた銀杏を箸で摘んだ黒田は、白の手の中に落とす。

 銀杏の熱さを気にしない白は、殻と薄皮を器用に剥き口の中に入れた。

 むちむちした食感、少しの苦味と塩辛い味付けが癖になる。

 ずっと食べてられるような味に「あと二十個ください」と白はおおねだりをする。

 「二十は多いから五個にしろ」と黒田は断り、袋状にした紙に銀杏を五個入れて白に渡した。


 そのあと黒田は焼けて温まった石を箸で拾い、準備していた厚めの布で包んで白に渡す。


「兄上と話したら戻ってこいよ、その頃には里芋が良い感じになると思う多分」

「わかった。あ、ついでに薩摩芋も入れておいてよ」

「芋は夕飯で出すからやめろって言われた」

「それはしゃーない」


 白は「銀杏とカイロありがとー」と黒田に手を振り、屋敷の中へと入っていく。

 後ろ姿を見送った黒田は息を長く吐き、のぼる白い息をしばらく眺めた。


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