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訳アリ教師ふたりが異世界召喚に巻き込まれたようです  作者: 藤白春
前日譚、幕末篇

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34/43

飴、雨。


 天ぷら屋だった奴が建てた小屋だったか?

 東の方から流れてきたとか言ってたな。

 随分燃えてたらしい、南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。

 仏さんは一人だったんだろ?

 客は逃げたとか聞いたから、まぁ店と店主がーってところか。



 昨晩川沿いの小屋が燃えたらしい。

 江戸っ子達が数名集まって見物をしていた。

 火消しを行った人間達は既におらず、燃えた小屋の跡だけが残っている。

 噂話をしながら満足気に帰っていく人々は、何を見て達成感を得ているのだろうか。


 火事の検分を終えた奉行様方が現場を去っていく。

 見物客達もいつの間にか全員居なくなり、その場に残ったのは紅色の襟巻きを身につけた男と黒い襟巻を巻いた男。


 中に入ると煤の匂いと焦げた匂い。

 脂のような匂いだが鳥や猪を焼く時のような美味しそうな香りではない。

 鼻にずっとまとわりつく嫌な匂い。

 全てのものが燃えて灰になっている。天ぷら粉だったようなものと、黒い色の粉が入った袋はガワだけ燃えてしまったようだ。

 粉類に火がついてしまったら、もっと悲惨な現場になっていたたろう。


 紅色の襟巻き男はしゃがみ、一番燃えていたであろう場所を指で撫でると赤い液体の塊が指につく。ついでに黒っぽい粉も手に付いた。


 ここで身体が燃えて死んでしまった男は、個人の判別が出来なくなっていた。

 身体は奉行所が持って行った。寺で拝んだ後に埋葬されるという。


 紅色の襟巻き男は煤がついたままの手を握りしめた後、小屋から出る。

 小屋の外で待っていた黒い襟巻き男は、出てきた男の顔を見た後「どうだった?」と念の為問いかけた。

 問いかけに紅色の襟巻き男は首を横に振り「よく分からない」と答え。


 男達が探している人間がこの小屋に来たという噂を聞き二人は訪れていた。

 小屋の中どころか運び出された焼死体は真っ黒に燃えていたため、個人の判断はつかない。


「お兄ちゃんたち、飴いらん?」


 話しかけられた男二人は声がした方へ向く。


 気配も無く突然声をかけられたことに驚き警戒する男二人であったが、声の主である女の子は気にせず「飴、狐と狸買ってくれ」と言う。


 女の子の手には狐と狸の顔を模した飴細工。

 黒い襟巻き男は子どもを追い返そうとしたが、紅色の襟巻き男がそれを止め「いくらだい?」と懐から財布を出した。


「ひとつ四文」

「はいよ、狐と狸の分ね」

 

 女の子に金を渡すと狐と狸の飴細工を男二人に渡す前に、キョロキョロと周りを気にした後袖の中から巾着を取り出し飴と一緒に手渡した。

 見覚えのある巾着に男二人は動きを止める。


 紅色の布地に蝶を模した根付がついた巾着。


 男達がずっと探していた人の持ち物によく似ていた。


「火事だ! ってみんな騒いでる時に突然落ちてきたの。アタシが拾ったのは誰も知らないよ」


 紅色の襟巻き男は震える手で巾着の中を開けると、子どもの手で描かれたのであろう、拙く薄汚れた絵が数枚出てきた。


 紅色の襟巻き男や黒い襟巻き男には見覚えがあった。


 自分達が幼い頃に描いた、傷が多い男の顔。


 人相描きの練習だと師が子ども達に描かせ、子ども達が成長してからも時折絵をみてはニコニコと笑っていた。

 職業柄個人的な物を持ち歩くことは御法度ではあったが、里で最強と言われていた男だった。

 正体が検められる前に敵の方が死ぬため、誰も文句は言わなかった。


 そんな人の、おとしもの。



「赤い襟巻きのお兄ちゃん、蝶々のおじさんに何となく似てるから渡した方がいいなって思った。あってた?」


 不安そうに首を傾げる女の子に男二人は頷く。


「よかった。アタシが転んだときに蝶々のおじちゃんが助けてくれたから、お返し」


 にしし。歯を見せて笑った女の子は自分を呼ぶ声に返事をして去っていく。

 飴売りの派手な格好をしている父親らしい人へ抱きついた女の子。

 微笑ましい姿を見送った紅色襟巻き男は、長く息を吐き出した。

 白い煙が上へ上へと登っていく。


「……(きのえ)様、命令」

「え、あぁそっか、次は私が甲かぁ」


 鼻をすする音がした。

 甲様と呼ばれた紅色の襟巻き男は手に持っていた絵を折り目通りにたたみ、巾着の中へ入れる。

 蝶の根付も壊さぬようにと巾着の中へそっと入れた。


「そうだなぁ、先ずはさっきの女の子の監視護衛と天ぷら屋の捜索かなぁ。あと甲の名前、私に合わないから今回は名前の引継ぎ無しで……とか?」


 紅色の襟巻きを巻き直しながら話す男に、黒い襟巻き男は頷いた。


「護衛と捜索、名前も承知した……甲ではなく乙様。今から雨が降る。なので私達は先に帰る」

「雨? 雪じゃなくて?」

「雨が降る、すごい土砂降りになる」


 上を見る黒い襟巻き男につられて紅色の襟巻き男も顔を上げて空を見た。

 遠くに見える山の頂上付近は黒い雲がのっている。自分達の頭上にある雲も鈍色で、冷たい風も吹いていた。


「雨より雪が降りそうな感じの空模様だけど……」

「若様が(きのと)様の為に出来ることは、誤魔化してやることだけだ。って言ってた。今は誤魔化してあげる場面だと私は思った」

「黒が……? あー、なるほど理解した。ありがとう(みずのと)、お言葉に甘えて雨宿りしてから戻るよ」

「ん。若様にとって貴方は必要。私にも必要、いないと困る。だからちゃんと帰ってきて」

「わかった。ありがとう」


 クスクスと笑う紅色の襟巻き男に少し安心したのか、黒い襟巻き男は満足気に頷いたのち姿を消した。


 紅色の襟巻き男は燃え尽きた小屋跡を眺めた後、上を見る。

 鼠色の空から、はらはらと落ちてきたのは白い六花。



「先生も、ちゃんとかえってきてよ」



※主人公達はオタク。

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