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第3話 よくある異世界召喚ってやつですか?


 子どもが二人「な、なんじゃこりゃああああ!」と声には出さず、心と目で叫びをあげていた。

 深山真白と黒田海斗である。何故身長が縮んでいるのかは謎である。


 深山と黒田の前には一之宮達と、さらに向こう側に複数の人影が。

 ひとりは背が低く、小太り気味男が王冠を被り赤いマントを羽織っていた。その隣にはティアラを頭の上にのせ、淡いピンク色のドレスを纏った若い女性がいた。

 そして二人を守るように配置された甲冑をきた者たち、メイド服と言われる黒色のワンピースの上に白いエプロンを着ている女性たちもいる。

 床には円形の幾何学模様のようなものが何重にも広がって光り輝いており、円の周りに黒いローブを纏った人々が座り込んでいた。

 中世西洋のような部屋の内装は、深山や黒田が見知ったものではない。どちらかと言えば漫画やアニメなどでよく見かけるヨーロッパ風の世界感のようにも見えた。ここはホールかなにかだろう、かなり広い。


 そんな場所にいるのは、一之宮天翔、上瀬千尋、畑中梓、滝下美樹、空井次郎。

 黒田が担任として持つ生徒五名と、子どもが二名。


 何故か子どもの姿になってしまった深山真白と黒田海斗は、状況を理解できず混乱していた。

 大人の教師の姿ならば、時間をかけず落ち着くことができ生徒たちを守ることが出来ただろう。しかし、深山と黒田は子どもの姿になっていたため混乱が長引いた。精神年齢が肉体年齢に負けてしまっているためだ。

 大体十歳前後の姿になってしまった深山と黒田は呆然とする。

 深山は黒田の顔をみて、黒田も深山の顔をみた。

 所謂召喚、異世界召喚。

 頷きあった深山と黒田はぶかぶかになった服を何とか着直した。深山はシャツの裾を折り、スカートのウエスト部分を何度も折る。ズボン着られないじゃんと黒田は黙ってズボンを脱いで首に引っ掛け首の後ろで縛った。

 そしてこっそりと耳打ち合う。


「クロ、これって流行りのだよね」

「クラスに主人公ぽいのがいるかと思ってはいたが、多分巻き込まれだな。教師はたまに巻き込まれる」

「なんでだよ。あとなんでまた身長が縮んでるの。今度こそ謎解きか?」

「どうするシロ」

「様子見。私達は教師には見えないし、この場は一之宮君たちに任せよう」

「了解、子どもらしく振る舞っておくか」

「いいね、演じる役は突然知らない所に連れて来られた『きょうだい』で。手でも握る?」


 「手汗酷いのは無視しろよ」と黒田が言い、深山と黒田は手を握る。お互いの小さな手に、懐かしさを覚える。昔、深山と黒田が出会った時もこの年頃だった。

 国王らしき人物は一之宮に向かってベターな台詞を話し出す。


「おぉ、異世界の勇者とその仲間たちよ! よくぞ召喚に応じてくれた。我が名はアバイン・ディクタチュール、ディクタチュール国の王である! 勇者よ我が国を魔の手から守りたまえ!」


 舞台役者のように両手を広げ歓迎する王に対し、状況が掴めていない主人公組は茫然としていた。謎の場所に、謎の人物。疑って当たり前なのだが、一之宮がハッと我に返り、一歩前にでる。


「俺は一之宮天翔と申します。俺達はただの高校生です、勇者ではありません!」

「いいや、お主たち五人の誰かが聖光魔法を使えるはずだ。その者が勇者である! 我が国は一刻の猶予もない。勇者のみが魔を打ち滅ぼせるのだ、我が国を救えるのはお主たちしかいない!」

「魔……この国はそんなに危機に瀕しているのですか」

「そうだ。先日も我が国の民たちが魔の者によって亡き者にされた……勇者とその仲間たちよ、ディクタチュール国の王として命じる。我が国を、民を守ってくれ!」

「……わかりました、やりましょう」


 王の言葉に頷いた一之宮に対し空井が「どうしてそうなる!?」と声を上げた。他の女子たちは「天翔が言うなら……」「一之宮君が言うなら、私も頑張る!」と決意を表明。ちなみに深山と黒田は「空井が勇者ならまだましだな」とドン引きしていた。

 国王の言葉は命令だ。王として臣下に命令を出すならば当たり前の光景だが、一之宮達は突然この場に連れて来られた、ディクタチュール国とは一切関係のない者たちだ。

 それに何故異世界人に頼むのか、そもそも魔の者とは誰なのか。説明が全くない。やりましょうという判断は余りにも早計で、短慮だ。


 「では、勇者様方はこちらへ。魔法属性をお調べいたします」


 沈黙していた姫君が主人公組を案内するべく声を上げた。誘導されるがままに五人は着いて行く。

 子ども姿の二人も一応ついて行こうとした時、国王が子ども二人の存在に気が付き、顔を歪めた。


「そのガキどもはどこから入ってきた?」

「陛下、この子ども達は召喚に巻き込まれた『迷い人』では?」

「ふんっ、ならば捨ててこい。子どもはすぐ兵器にならんからな」

「かしこまりました」


 「なんやて!?」と子ども姿の二人が呆気に取られている間に、国王達は去っていった。空井だけは気づいたのか驚いた視線を深山と黒田に送っていたが、一之宮背中を押され行ってしまった。

 ホールにいた騎士やマントを着た者達もいなくなり、ポツンと子ども姿の二人が残された。

 二人を「捨てろ」と命令を受けた騎士は「こっちにこい」と二人の手を掴み、無理矢理何処かへと引き連れていく。

 まずいなーと考えている黒田に対し、奴隷ルートかよ……と半ば諦めて溜息を吐く深山。よくある異世界召喚物語を読み、履修している二人だからこそこの状況は不利だと思っていた。しかし、過去にもっと切羽詰まった状況も経験している二人なので逃げようと思えば逃げることはできる。生徒たちのことも気になる二人は、今すぐ逃げるのではなく少し様子を見ようと考えていた。

 そんな二人が連れて行かれたのは、大勢が座ることのできるテーブルと椅子が置かれた食堂のような場所。食事時の時間ではないのか人は少なく、端の方で疲れた顔の侍従の男がパンをゆっくり咀嚼していた。

 空いている席に二人を座らせた騎士は、近くにいた料理番の男に「何か菓子と飲み物をやってくれないか」と金を渡して「ここに居ろ、逃げるなよ」と言い、どこかへ行ってしまった。

 騎士の背を見送った二人は、料理番の男に「蜜菓子は好きか?」と聞かれて首をかしげる。


「蜜菓子?」

「おう。あとはクッキーくらいしかないが。ったくレオンの野郎、隠し子か?」


 「茶も淹れてやるからな、ちょっと待ってろ」と男が厨房へと消えていったことを確認した二人は溜息を吐き出す。


「どうするシロ。蜜菓子? っていうやつ食べて逃げるか?」

「どうしようねぇ……蜜菓子食べてから考えようか」


 深山の言葉に頷いた黒田。男がすぐに厨房から出て来たので、二人は話すのをやめる。料理番の男は背が大きく、体も大きく熊のようだ。髪の色もヒグマのような茶色の色をしていた。子どもの姿で大男と対峙したくはない深山と黒田は、料理番の男の動きをジッと観察していた。そんな二人の視線を気にしていない男は蜜菓子とクッキー、木で出来たコップを持ってきた。コップの中には赤い液体が入っている。


 「このジュースは新作でな、見た目は赤くれアレだがうまいぞー。感想よろしくな」


 ニカッと笑いながら、男はお菓子と飲み物を二人の前に出す。二人の経験上、この類は毒入りの可能性もあり一瞬悩んだが、ここまで来たらなるようになれ! とジュースを飲んだ。

 甘酸っぱいラズベリーのような味とミントのような香りが鼻を抜けていく。

 「美味しい!」深山は勢いよく飲み干した。対して黒田はミントが苦手なので思いっきり顔を顰めている。黒田はチョコミントアイスが歯磨き粉と同じ味だと思っているタイプだ。


「嬢ちゃんは気に入ったようだが、坊主は苦手か? 何が駄目だった?」

「ごめんないさい、このスースーしたやつが無理」

「あぁ、薬草系が苦手なのか。それじゃあ坊主はラズベリーだけのを作ってやる。ほれ、蜜菓子とクッキーも食え。蜂蜜なんて滅多に食えないぞ」


 「うん」と子どもらしく頷いた二人に満足したのか、黒田用の飲み物を作りに再び厨房へと男は向かった。



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