第26話
階段を上がると廊下が続いている。左右の壁には扉がいくつかあったが、突き当たりの部屋の扉が少し開いていた。
シロとクロは開いた扉の隙間から覗き込むと、部屋の中に散乱しているガラスの破片が見えた。事件です!
「クロ警部、事件のようです! ガラスの破片が散乱し、子どもの悲鳴が聞こえます!」
「うむ、この状況どうみるかなシロ警部!」
「結界が壊れたのでダッシュで逃げるべきだと思います!」
「安心安全に絶対は無い!」
トム様は?! とシロクロが金髪巻き毛の姿を探すと、貴賓室の端にトムと取り巻きの少年の姿をみつけた。トムは影で出来た無数の人間の手の様なモノから逃げ惑い、もう一人の眼鏡をかけた取り巻き君の姿があった。
取り巻き君は「トム様のせいだ! ボクは死にたくない!」と叫びトムの服を掴んだ後、ドンとトムの背中を押した。
トムはそのまま黒い手に捕まってしまう。トムを盾にした取り巻きの少年は貴賓室の入口扉へと走ってくる。
シロクロはマズイと扉から離れると同時に扉は勢いよく開かれて、泣き叫ぶ取り巻き君が出て走り去っていった。
子どもの後ろ姿をながめるシロとクロ、貴賓室の中では仲間に見捨てられてしまったトムが「くぅっはなせ!」と叫んでいる。トムの苦しげな声を聞いてシロとクロはハッと我にかえった。
「え、どうしようクロ。トム様見捨てられたけど?!」
「トム様に友だちは選びましょうって言うしかないな」
「もう遅いわ!」
シロとクロは改めて入口の扉から貴賓室を覗き込むと、トムは貴賓室の割れた窓から闘技場へと連れ去られてしまい時既に遅し。
結界は破れる筈がないと冒険者ギルド職員が話していたはずだったが、貴族階級が利用する為ある意味で一番結界がちゃんと張られている貴賓室の鑑賞窓が割れ魔物に侵入されている。
「レオンさん大丈夫かな」
「とりあえず様子をみてみるか……?」
シロとクロは顔を見合わせた後頷くと、貴賓室の中に入り二手へ分かれる。ふたりバラバラの位置から匍匐前進で割れた鑑賞窓へと向かい、そっと闘技場をみる。
闘技場の床には倒れた人々の姿が点々とあり屍累々。冒険者たちが倒れている光景が広がり石で出来ている床は破壊され壊れている。
巨大な黒い魔物は蝙蝠のような羽を一枚失っているようだが体力はまだあるらしく無数の影のような手を冒険者達に向けていて、手の中のひとつに力の入っていない子どもが握り締められていた。
「トム様生きてる?」
「ここからじゃわからん」
シロクロはハンドサインで情報共有しながら知っている冒険者の状況を確認。
レオンは大剣を振り回し斬り捨てているようだが本体に辿り着くことが出来ておらず斬り捨て損ねた影手に傷を負わされている。
ビビアンは「汚いわよっ子どもを放しなさい!」と言いながら魔物の動きを止めようと氷の柱をつくろうとしているが、影手に詠唱を邪魔されている。
ヤジロベエは大太刀で大きく斬りつけるが影手に弾かれ大太刀を手放してしまった。
弾かれたヤジロベエの大太刀はシロクロのいる貴賓室へと飛んできて、貴賓室の壁に刺さった。
大太刀が飛んできた事に気づいたシロクロは悲鳴を上げて貴賓室から逃げ出すが、二人とも心臓がバクバクとうるさく鳴っている。修羅場は乗り越えてきてはいるが、大太刀が飛んでくることは未経験だ。
「まってまって無理無理無理! 刀飛んできたんですけど無理!」
「口から心臓でる、うっ」
「心臓は上からでない! クロどうする?! これどうするべき?!」
「俺は吐きたい……」
壁を支えにしてしゃがみこみ両手で口元をおさえているクロ。シロは胸元を左手で抑え、そっと貴賓室の中を様子見ると影手は既になく、大太刀だけが壁に突き刺さっている。
「中にはもういないね。さて、どうしたもんかな」
「俺、魔物に鑑定かけてみたんだけど、やっこさんレベル90上級悪魔だってぇ。んで精神操作持ち」
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『ガープ』(上級悪魔)
Lv:90
HP:27650(330000)
MP:18970(330000)
◆スキル
精神操作:上級
◆魔法
闇魔法:上級 召喚魔法:上級(66/66)
◆称号
「悪魔王」「堕天使」「使いの悪魔」
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「精神操作? なんでんなもん持ってるの?」
「知らんわ」
異空間収納から黒板を取り出したクロは鑑定結果を簡単に書き写しシロにみせる。シロは見せられた内容を目で追い、嫌そうに顔を顰めた。
「やだ、こんな都会で出る敵じゃないよ。我が名は四天王って名乗ってもいいレベルよコレ」
「クックック、奴は四天王の中でも最弱……!」
「だまれオタク」
腕を組み顔芸までキメているクロをシロは睨んだのち考える。
精神操作が使えるということは冒険者たちの精神を操り戦闘不能にさせたか、冒険者同士戦わせたか。どちらにしてもやっかいだ。レオンさんたちが操られていない理由はわからないが、補助魔法だろうか。このまま戦い切ることは問題無さそうか? いや、回復要員の魔力が切れてしまえば戦線は崩れるだろう。
何にしても、私達が手を出すものではない。
Aランクのレオンさんたちがボロボロになってるんだ。Gランクの私達が出たところで形勢は変わらない。
シロは「うーっ!」と唸りながら頭を掻きむしる。子どもになってからというもの感情が表に出やすくなってしまったシロは、自分でも気づいてはいたので隠すようにはしていた。
今は受けるストレスが大きくクロしかこの場に居ない為、悩む姿を隠す必要はない。シロはその場にしゃがみこみ頭を抱えた。
クロはシロの判断待ちなので緊張感はない。シロがやると言えばやるし、やらないと言えばやらない。シロの判断が誤りだったとしてもクロにとって誤りではないからだ。
「シロ、どうする?」
「どうもなにも、ここで私達が出ていって流れが変わる保証はある?」
「あるだろ、ちょっとの波でも乗りこなすのが冒険者」
「駄目だったらどうするの?」
「シロと俺以外は見捨てるかなぁ」
「昔から極端すぎる、あーもー、あぁもう! わかった、やればいいんでしょやれば!」
パンッ! シロは自分の両頬を叩き立ち上がる。
クロがシロ以外の人間を見捨てることはいつものこと、それをさせないよう大将であるシロが仲間を守るのはいつものこと。
「勝負を仕掛けよう。運がいいことに刀があるんだ、使ってやらないと刀が泣く」




