第23話 ───────悪魔討伐篇
冒険者ギルドとは、魔物などの討伐をして生計を立てる冒険者を管理している組織である。
ギルドは基本どの国にも支部があるため、ギルドカードが身分証明書になる。
ランクごとに冒険者強さが設定してあり、多くの冒険者はBランク止まりである。Aランクともなると指名依頼が増え、世界中にその名前が轟く。
Sランクの者は過去に存在はしたが現在そのランクは空いている。
一番低いGランクは、未成年である。未成年のため保護者やギルド職員等の引率が無い場合、街の外へ出る事や勝手に魔物と戦闘するなどの行為は原則禁止とされている。
うんぬんかんぬんと教師役である年配の男性ギルド職員が教本を片手に話している。
前方の席に座る子どもたちは真面目に聞いて手元の木板にメモをとっているが、一番後ろに座っている子ども達は隣と子どもと話したり遊んだりしている。
シロとクロも後方に座っていたが、あくびを我慢している程度で話はちゃんと聞いていた。
今日のシロとクロの任務はギルド本部にある研修室で勉強だ。お金は出ないがおやつは出る、強制依頼任務と言っても差し支えないだろう。
ここ最近Gランクに登録する子どもが増えたことと、調子こいて城壁の外へ出ようとするGランク冒険者が増加しているらしい。
危機感を覚えたギルドがGランク冒険者全員を集めて、研修という名のお勉強会を開催中だ。
誰だよ調子こいた奴は。と誰かがボソッと呟いた後視線を集めていた金髪巻き毛の男の子がいた。
その男の子は貴族で、子どもたちも貴族の恨みを買いたくないので男の子を責める事はなく黙って授業を受けていた。
Gランクは子どもといっても何も知らない子たちじゃない、世渡り上手だなというのがシロとクロの感想だ。
ギルド職員の授業を聴く子ども達は全員で二十人ほど。多くは孤児院の子で、小遣い稼ぎで登録しているらしい。
国運営の孤児院は衣食住に困らないが、お小遣い制度はないそうで孤児達はお小遣い欲しさに広場の掃除とか公共の依頼を冒険者ギルド経由で受けるそうだ。
シロは孤児院に入ってもよかったか? と孤児たちを眺めていたがクロは「俺はやーよ寮生活」とシロに向かって呟いた。
そして研修室後方で授業を聞かず遊んで騒いでいる貴族の子どもたちが調子に乗って力試しと称し、親に黙って魔物を倒しにいこうとしたらしい。
すぐ門番に捕まり親に連絡が行き回収されたため、魔物と会うことはなく怖い思いはしていないそうだが、親である貴族と一悶着あったらしく対応した冒険者ギルド職員は疲れていた。
親を連れて一緒に怖い思いをしてくれればいいのに。とギルド職員は考えていたが口に出さない、長いものに巻かれるタイプの職員だった。
シロとクロはちょこちょこ壁の外に出てはいたが、単独で出る時は夜のみでバレないように対策をしている。なので保護者と一緒でしか外に出ない偉い子達の仲間だとギルド職員は認識していた。
シロとクロはAランク冒険者のレオンに昼間なら二人で外に出ても良いとサインまで貰っている実力のある子達なのに、なんて真面目なんだとギルド職員はちょっと泣いていた。
泣いた職員は貴族の子どもたちの後始末と授業準備で一週間程家に帰れず情緒がおかしくなっていた。
そんな職員の情緒など知らない子どもたちは座学の授業を終えて、実技を行うべく場所を移動する。
シロとクロは車の教習所のような流れだなという感想を持つが、勉強してから実技を行うことは世界が変わっても理にかなっているのだろう。それに冒険者ギルドカードって身分証だし運転免許証も身分証だったしある意味教習所かと勝手に納得した。
子どもたちが案内されたのは冒険者ギルド内にある闘技場。ここでランク上げの試験をしたり、怪我をしてブランク持ちになった冒険者へ練習用に貸しているんだとか。うん、教習所だなとシロクロは改めて納得していた。
年配の職員から若い男性職員へと変わったが孤児院の子どもたち以外は説明を聞き流している。
一番聞いてほしい子どもには響かないのが大勢で行う授業の難しさだ。元教師だからわかるようんうんと頷くシロクロも話を真面目に聞いていないが。
突然子ども達の嬉しそうな悲鳴が上がった。なんだなんだとシロクロが子ども達の視線の先をみると、鬼のように角が額から二本生えた強そうな男と黒い三角帽子を被りスリットがきわどい黒色のワンピースを着た女が現れた。
見た目が派手な二人の後ろにはシロとクロが見知った顔、レオンもいる。
シロとクロの視線に気づいたレオンさんはフッと笑った。瞬間、子どもの黄色い声がさらに上がる。
レオンさんってアイドル系冒険者? かとシロは首を傾げたが、シロクロの近くにいた男の子が叫んでくれた。
「Aランクパーティーの『紅蓮の獅子』じゃん!」
「リーダーのレオン様と鬼族のヤジロベエ様だ! めっちゃかっけぇ!」
「魔法使いのビビアン様もいる! とても綺麗ね!」
「ビビアン様、やばいな、」
「やばいな、胸が……」
なんて言ってくれていて、シロクロは理解した。
毎日シロとクロと一緒にご飯を食べて、冒険者ギルドで依頼を探し、勉強して昼寝して依頼をこなして、夜はシロクロとカードゲーム(ババ抜き)で負けるイケメンは有名人だったらしい。
うせやろ?
と距離が近い故の疑問をシロクロは浮かべていたが。
シロとクロの疑問など知らない子どもの歓声を受ける紅蓮の獅子の三人は微笑んでいたが、ヤジロベエとビビアンはレオンの微笑みに疑問と少しの恐怖を覚えていた。
冒険者ギルドが主催するGランクの研修会に子ども達にも人気のある冒険者パーティー紅蓮の獅子に参加してもらいたいという依頼が来た時、ヤジロベエとビビアンはレオンが即断りを入れるだろうと思っていた。
紅蓮の獅子自体長期依頼のため個々で活動している事情もあるが、リーダーのレオンが何故か長期で休みをとっていたし、レオンは子どもは苦手だと公言していた。
ヤジロベエとビビアンは子ども達の面倒を見ることは苦ではなく予定にも余裕があったので個別で受けようと話をしていた時、休むといって姿を消していたレオンが紅蓮の獅子拠点の一軒家に戻ってきた。
突然どうしたとヤジロベエとビビアンが構えると、レオンは「Gランクの研修会、参加をすると答えてもいいか?」という。
ヤジロベエとビビアンは頭を縦に振るしかできなかった。
紅蓮の獅子メンバーでレオンの幼馴染であるクリスがその場にいたら「いいけど理由は?」と聞けたのだろうが、残念なことに単独依頼を受注中のクリスはまだディクタチュール国から戻ってきていない。
ヤジロベエとビビアンは不安だった。
火魔法より氷魔法が得意なのではないかと言われるほど他人に冷ややかな視線を送ることに長けているレオンが子ども達の面倒を見れるのかと。子ども達を泣かすのではないかと。今は大丈夫だが、後々怖いよ! と言われるのではないかと。
ヤジロベエとビビアンの心配をよそに、冒険者ギルド職員は「今日はAランク冒険者パーティー『紅蓮の獅子』のメンバーの方にご協力いただいて、冒険者とは何か! トップを走る冒険者とはどれほどの強さなのかを体験してもらいます!!」と言う。
シロとクロは遠慮したいなーと思うが他の子どもは皆喜んでいた。
ヤマトノ国にあるダンジョンをいくつも突破する実力のあるパーティー『紅蓮の獅子』は老若男女問わず人気だ。特に子ども達は紅蓮の獅子に憧れて冒険者になる夢を見ている。
ギルド職員に挨拶として欲しいと言われたレオンが子ども達の前に立ちその背後にはヤジロベエとビビアンが立つ。見せ方をわかっているなぁとシロは眺め、クロはレオンさん寝癖がなおってないじゃん! と別の意味でドキドキしていた。
「紅蓮の獅子リーダーのレオンだ。今から俺、ヤジロベエ、ビビアンがお前たちに稽古をつける。俺が城壁の外へ出ても問題ない強さだと思った奴はランクを上げてやるから全力でこい」
ギルドのルールで決めるものを言い切って大丈夫なのか? というシロの心配をよそにギルド職員はレオンの言葉に拍手を送っていた。問題はないらしい。
その後子ども達はいつくかの組に分けられた、一つの組に大人が一人つくようだ。シロとクロの組には孤児院住みの男の子と女の子がおり、レオンがみてくれるようでレオンが微笑みながらシロとクロのそばに来た。
「この組は俺が見よう。レオンだ、よろしくたのむ」
挨拶をするレオンに男の子と女の子は少しぼうっとしていたが、ハッと我にかえり頭を下げた。
「お、オレはセキといいます!」
「わたしはヨウです、よろしくお願いします!」
「セキとヨウか、ちゃんと挨拶できて偉いな。シロクロ、お前達も挨拶しろ」
セキとヨウはレオンに挨拶したのだと思い別の方を向いていたシロとクロ。二人はレオンに声をかけられ驚いたが、挨拶できない若者とみくびられては困る! とセキとヨウに頭を下げた。
「シロです! 好きなものは小熊食堂の卵クッキーです!」
「クロです! 好きなものは小熊食堂の卵スープと唐揚げです!」
「シロちゃんとクロくん! 私はヨウっていうの、よろしくね! 小熊食堂って冒険者街にある人気の食堂だっけ……?」
「オレはセキだぞ。小熊食堂って人気冒険者御用達って先生たちが言ってたな、シロもクロも食べたことあるのか、すげーな」
「ふっふふ、狙い目は開店してすぐ。卵クッキーは一枚銭貨一枚」
「安いわね、信頼の出来る情報なのかしら?」
「へぇ、的確信頼がモットーの情報屋をやらせてもらってますんで。先日人気冒険者様にもこの情報を売りましたところ、毎日のように卵クッキーを食べてましてね、ご不安なら明日の朝お確かめになってからでもよいかと」
「よし、その情報買った!」
「ありがとうございます!」
パンッと音を立てて握手を交わすシロとヨウにクロとセキは呆れたように見つめる。
「ヨウここは孤児院じゃない、密売ごっこはやめろ。悪いなシロ、最近孤児院流行ってる遊びでさ」
「いいよ、楽しかった」
「シロ、人気冒険者ってレオンさんだろ」
クロがレオンの名前を出すとセキとヨウはレオンを見た。視線に気づいたレオンは真面目な顔で懐からそっと紙でできた包みを出す。
「これが噂のブツだ、内緒だぞ?」
レオンから包みを受け取ったセキが中身をみると、クッキーが二枚はいっていた。「えっ!?」と驚くセキとヨウだったが、ビビアンの大きな声に遮られる。
「さぁ、子ども達! あたしの魔法を御覧なさいな!!」
ビビアンが〈水よ、氷となり現れよ!〉と詠唱すると、巨大な氷が地面から生えるように現れた。
「おぉ!」とよろこぶ子ども達に気をよくしたのか、さらに氷の柱が何本も増やしていくビビアン。
シロとクロはめっちゃ寒い増やしすぎでは? と身体をさするが、子どもたちは寒さなんてへっちゃらのようだ。レオンとヤジロベエも表情を変えることはない。
「みんなで協力して氷を壊してちょうだい!」
「あたしはここで見学しているわ」と優雅に箒の上に乗って宙に浮き、どこからか取り出したポットとカップを手に笑うビビアンの姿は魔女そのもの。
魔女への憧れと期待を裏切らない堂々たるその姿に女の子達はため息を吐いた。
この世界で魔女は女の子にとって憧れであり目指す子も多い。魔法や薬学などの魔女の試験を通過すれば見習いでも食いぱっぐれない程だ。お手堅い職業を狙う女の子にはぴったりだろう。
シロは知識として魔女という職業を知っていたため憧れはないが、隣にいたヨウがキラキラとした目でビビアンをみていた。どの世界でも女の子の憧れは魔法少女にあるのかもしれない。
「さてと、この氷をどうします?」
「俺は宇治抹茶味がいい」
「セキとヨウって魔法使える?」
「オレは水魔法、ヨウは火魔法使えるぞ」
「あんこに抹茶!」と叫ぶクロを無視しシロは目の前の氷の柱を叩く。
厚みがあって固い、円柱のような氷の柱は子ども達よりも背が高く抱える事も難しい。
コレをGランクに壊せというのは難易度が高いのではないだろうか。
「私は水、クロは火魔法が使えるよ」
「オレらと同じ感じか。ヨウ、溶かせるか?」
「無理だよ、大きすぎるもん」
「俺も無理だなぁ。レオンさんはこの氷溶かせますか?」
ふと気になったクロがレオンに声をかけると、セキとヨウはギョッとクロをみた。Aランクの冒険者様にあまりにも馴れ馴れしいのでは?! と慌てたがレオンは気にせず「溶かせるぞ」という。
「だが周りも溶けるか燃えるな。北に氷の神殿というダンジョンがあってな、出てくるアイスモンキーが氷の柱の影に隠れて攻撃してくるんだ。その時の攻撃が鬱陶しくてな、柱を全て壊したというか溶かした記憶があるぞ。壁も溶けてダンジョン全体も溶けかける騒動になったな」
「ダンジョンが溶けたら中にいる冒険者も危ないのでは?」
「危ないな」
その時は凄い怒られたぞと笑うレオンにクロは「えぇ……」と引いていた。レオンの微笑みを遠くで見ていたヤジロベエとビビアンは驚いて固まっていた。長らくパーティーを組んでいるが作った笑みではない、楽しげに笑う姿は初めてみたからだ。
「シロぉ、レオンさん参考にならない」
「レオンさんAランク冒険者でしょ、Gランクが真似出来るわけ無いじゃん」
「それはそう。うーん、全部溶かさなくてもいいか、穴開けてお湯かければ少しは溶けるだろ多分」
「クロくん、どうやって穴をあけるの?」
「……ヨウちゃんって指からずっと火が出たりしない?」
ちなみに俺は無理。とクロが言うとヨウも笑顔で「わたしも無理だよ!」と返事をする。火で一点を温め続ければ穴が空くと思ったクロだったかそう簡単にはいかないようだ。
他の子ども達も自分の使える魔法を使って氷の柱を傷つけようと頑張ってはいるが中々難しい。
悩む四人。正直シロとクロなら余裕で壊せるが同じ年頃の子ども達の実力に合わせた方が目立つことなくこの場を終えることが出来るので悩んでいるふりをしていた。
「シロクロ、魔法銃を使ってもいいぞ」
レオンが悩む四人を見兼ねて助け舟を出すが、シロクロにとっては迷惑この上ない舟。
しかし言われて何もしないのも不審なのでクロはレオンに預けていた銃を受け取った。
レオンはシロとクロの魔法銃等のきっかけがあれば氷の柱くらい壊せると思っていたし、ヤジロベエとビビアンにシロとクロの力を見せつけてやりたいとちょっと思っていた。
俺が面倒をみている子ども達は強いんだぞという、ちょっとした自慢をさせて欲しかったのだ。
「んじゃ俺がコレで穴開けるから、空いたところに水と火ぶつけてくれ。少しは壊れるだろ」
「クロ、それ魔法銃ってやつか?」
「そうー。みる?」
ほい。と魔法銃をセキに渡そうとするクロだったが「いい! みるだけでいい! 壊しそう!」とセキに断られてしまった。
「セキ、銃好きなんだから持たせてもらいなよ」
ヨウに「良い機会じゃん」といわれるセキだったが「触ったら満足するまでずっと眺めちまうだろ!」とオタクのような発言をして頭を何度も横に振っていた。
「あぁ、セキって銃好きなのか。んじゃ今度時間のある時に貸すよ。いいだろシロ」
「いいんじゃない? 危なくないように孤児院の先生にも良いか聞いてからだけど。孤児院ってどこにあるところ?」
「職人街のクート孤児院だけど」
「職人街か、俺らは行ったことないなぁ。シロ今日帰り行ってみねぇ?」
「レオンさん、今日のコレが終わったら遊びに行ってきていいですか?」
「いいぞ、夕飯までには帰れよ」
レオンに許可を貰ったシロにヨウはワッと喜ぶ声を出した。
「シロちゃんとクロくん遊びに来てくれるの!? やった! わたし孤児院の子じゃない友だちはいないの! 私が案内するね!」
「え、オレも案内する!」
シロの手を持ちブンブンと振るヨウに、ずるい! と慌てるセキ。そんな三人を尻目にクロは魔法銃を構え氷の柱の下の方を撃った。
銃弾の行先を考えなくても良いのだが、念の為に斜めに穴が空くように撃った。なので穴は貫通していない。子どものヘソ辺りの高さに穴を開けたので水も入れやすいだろうというクロの配慮だ。
「シロ、もっと穴あけるか?」
「うーん、あと二、三発斜めに撃って溶かせば下の方がとれたりしないかな」
ナイフでガリガリと削り「この辺を」と言いながら跡をつけるシロと、銃を抱え顎に手をやり悩むクロの姿にセキとヨウは驚いていた。
「ねぇ、セキ。シロちゃんとクロくんってもしかしたら将来大物かも」
「かもな、面白そうだから友だちになりてぇ」




