第22話
『成人の儀式』とはヤマトノ国の王がはじめたもので、十五歳をむかえた若者に国から武器や防具などを贈られる式のことである。
昔むかし、ヤマトノ国の現国王が即位したての国内は治安や経済などが荒れており、民達の生活は厳しいものだったという。
「ワシが皆を助けに行けぬ時もあるだろう、その時これらを武器や防具としてもよしだが、腹が減った時は売った金で飯を食え。戦う前にまずは腹を満たしてから先の事を考えよ、空腹で良い事はひとつも思いつかんからな」
民にそう伝えた国王が皆に武具を配ったことから成人の儀式が始まったらしい。
武具を配る金があるならそれで経済を回せばよいとシロクロは少し考えたが、武具を配った話は政治の一側面だ。同時期に不必要な税を撤廃したり商売の規制を緩和させた金で他国からの輸入輸出なども行っている。政策がうまくいったからこそ武具の配布が実施されたのだろう。
昔学校で習ったような経済政策に首を傾げるシロとクロだったが、気にしない事にした。気づいてはならぬとも思っていたが。
現在、衣食住に困ることの無い子ども達は成人の儀式で剣など実用的なものを受け取る子が増えている。貴族などの爵位持ちは派手で装飾品のような武具を受け取るのが流行りらしい。
シロクロより先に子熊食堂に戻って夕飯を食べていたレオンにクロが成人の儀式について聞くと「おまえたちの成人の際に話すつもりだったが、誰かから聞いたのか?」と説明後に問われたクロ。
クロは曖昧に笑ってはぐらかし、シロは聞きたくないのでスーに夕飯をねだりに向かった。
織田信長はレオンと知り合いのようだった。だが、シロもクロも疲れていたのでこれ以上の情報は頭に入れたくなかったのでこれも気づいていない事にした。
知らない振りも時には必要だ。
織田信長との衝撃の出会いから数日後。シロとクロはまた織田信長に会ってしまったらどうしよう、次会った時は完全偽装を看破されたらどう説明しようなどと考えていたせいか二人とも気分は落ち着かない日々を過ごしていた。
今仕事を受注しても失敗すると食堂から一歩も出ず、食堂の手伝いのみをこなしている。
そんな外出しないシロクロの様子に気づいたレオンが「そろそろ魔物と戦ってみるか」と二人を連れて門の外、街を囲む壁の向こう側へと出ることにした。
何かに焦っているシロとクロは気にはなるが、精神的な焦りを感じている時に二人がどう動くのか確認し、今後のサポートの参考にするには良い機会だとレオンは考えていた。
シロもクロも子どもにしては我儘をひとつも言わない不思議な子達だ。
懐いてくれれば我儘のひとつやふたつ言ってくれるのだろうか、そんな時がくれば嬉しいとレオンはシロクロを見つめていた。
そんなレオンの思考などしらないシロとクロは、城壁の外に出て森の中へと向かった。レオンが見つけた獲物を離れた場所から銃で狙い倒すというのがレオンからの課題だ。
失敗してもよいとレオンは考えていたが、クロは猪、シロは鹿のような魔物を一撃で仕留めてしまう。
魔法銃を構え魔石のある場所を見極め撃ち抜く腕前、そして魔物に対する警戒もプロの冒険者と遜色ないものだった。
レオンの「おまえたち、強いな?」と呆気に取られていた姿をみて、シロとクロはハッと我に返る。
能力は隠し、スローライフをおくる計画がご破算してしまう!
ワタワタと倒した魔物を前に慌てるシロクロは魔法銃の性能が良いとか、魔石の場所を見つけてくれて自動で撃ってくれたとか、早口で言い訳をする二人の姿が悪いことをごまかす子どものようで、レオンはくしゃりと顔を歪めた。
シロとクロは迷い人だ。子どもながらに死を経験してきた者達が弱いはずがないのに、シロとクロは自分たちを下げ、弱く見せようとしている。
その方が生き残れると考えているからこその行動と言葉なのだろうが、レオンにとって二人が強かろうが弱かろうが、どうでもよい。
大人の顔色を伺うこと無く、素直に育ってくれればそれでよかった。
二人が気を許していないという事に改めて気付かされたレオンはシロとクロの頭を撫でた。
この子達がこの世界で今度こそ健やかに過ごせるよう手を回さなければ。
「シロクロ、二人一緒ならば城壁の外へ出てもいい。ただし油断はするな、森は浅い所までだ。平原は隠れる場所がないから行くなよ」
シロとクロが倒した魔物を解体した後、今日食べる分だけ取って残りはギルドに売ることにした。
毛皮と肉で金貨一枚と銀貨六枚。かなりの金額になったが魔石があるともっと金額が跳ね上がっていたらしい。一撃で仕留めるために魔石を破壊してしまっていたのでシロとクロはレオンに「次から気をつけるといいぞ」と助言をいただいていた。
三人で食堂へと戻り猪と鹿を肉をスーに渡すと「レオンよ、おまえは子どもに何をさせている?」とレオンに怒りをあらわにしていた。
ククリは静かに怒っていた。顔は微笑んでいるが目は怒っていたのだ。
猪はストーンボアという猪に岩でできた鎧のような物をまとっている魔物でCランク。
鹿はホップディアという跳んで捕まえにくい事で有名なBランクの魔物だったらしい。
シロは元の世界の言語がなぜ魔物の名前になっているのか以前から不思議に思っていたが、大人たちに聞いてもわからないと言われそうなので、そのうち調べれば良い。
この世界に図書館はあるようだし、入館するのもレオンがいれば容易だろう。
それよりもスーとククリの怒った顔が怖くてシロとクロは戦々恐々としていた。
レオンは気にしておらず慣れている様子で「すみません」と反省していない子どものように言葉だけ放った。
その日の夕飯はストーンボアのステーキ、ステップディアで出汁を取ったスープと豪勢だった。
猪からは結構な肉が取れたので余った分はスーが加工し保存食にしてくれるという。シロクロに時間停止の異空間収納があるとしても、加工食品は持っていて損はない。
いつ何があるかわからない。
江戸時代末期を生き、異世界にまで来てしまったシロとクロは嫌という程知っていた。
この世界でも準備を怠らず、何が起きてもすぐに対応できるようにしなければならない。
だが第六天魔王にどう対応したらよいかは本気でわからないシロとクロだった。
夕飯後シロは自分の部屋で、クロはシロの部屋にお邪魔をして武器の手入れしていた。
特にクロは魔法銃をわりと気に入っていて、銃の掃除用具を見繕い分解して掃除をしていた。
シロとクロは江戸時代末期に尊皇攘夷をうたい文句に暴れていた武士達の一端を担っていた。実際は尊皇攘夷などどうでも良く、生きる為に必要であったから攘夷志士に化けていただけだが。
武士、侍と名乗っていた癖に刀や槍以外の武器もよく使っていて、クロは仲間の銃まで手入れをしていたほどだ。
シロは銃よりも刀の方が良いため、仲間に銃を使わないのかと問われた時「刀の方が殺した感覚があるから、狂わないですむ」と漫画の台詞のようなことを言っていた。
その後頭を抱え「厨二病患者になった俺を殺せぇ!!」とのたうち回っていたが。
「シロぉ、信長様からもらえる武器何だと思う?」
「へし切長谷部とか?」
「それはボケか? オタク心からか?」
「どっちの意味でも。いや待てよ、へし切長谷部は下賜したから無いとして、本能寺の変で焼失したとされている薬研藤四郎と実休光忠は織田信長の死に際手元にあったはず、もしかして異世界に持ち込んでいる可能性ある……? この間信長様って刀持ってた?!」
「んなもん見る余裕なかったわ! それよりこの魔法銃をみてくれよ、魔力が銃弾だから分解して掃除する手間もないし、分解するけど! 油も必要ないっぽいし、手入れで使うけど! 最強かよ、こわいわーめっちゃこわいわー」
「うるさいぞオタク、お茶はないぞ」
「クッキーならあるぞ」
クッキーは食べるとクロからクッキーを受け取ったシロはサクサクと音を立てながらバター風味のクッキーをむさぼった。
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参考文献
・名古屋刀剣博物館 「戦国武将の愛刀一覧「織田信長と愛刀」」https://www.meihaku.jp/sengoku-sword/favoriteswords-odanobunaga/ (参照2025-07-13).
・原田道寛『大日本刀剣史 中巻』春秋社 1940.




