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訳アリ教師ふたりが異世界召喚に巻き込まれたようです  作者: 藤白春


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第17話


 いつの間にか太陽の神が顔を出す時間となっていた。

 うまく寝付けなかったシロとクロはベッドの上でのたうち回った後、ククリの「朝ごはんよー」という声をきいて二人は起き上がる。割り当てられた部屋から出たシロとクロ。顔を合わせてお互いの眠そうな表情を見た。


「シロ、目の下のクマさんがやべぇけど」

「クロもじゃん」

 

 子どもの姿で夜更かしは厳禁だとお互い頷き合い、顔を洗うために階段を下りた。

 シロとクロの眠そうな顔にスーとククリは心配そうな表情を浮かべたが、二人とも朝ごはんのサーシェという魚の揚げ物と玉ねぎとパプリカのような黄色や赤が鮮やかな野菜の酢漬け、白いパンと野菜の皮から出汁を取ったスープをモリモリと食べていたため、問題なさそうだなと安堵していた。シロとクロはどちらも元武士元社会人で日本人だからこそ、眠くても体調不良の時でも無理矢理仕事に行くことには残念ながら慣れていた。今日も明日も部屋でゴロゴロしていてもなんら問題は全くないのだが、シロとクロは気づいていない。

 

 食堂の手伝いを終えたシロとクロは冒険者ギルドに向かった。冒険者学校へ通う前にヤマトノ国で冒険者として活動してみたかったからだ。

 

 ちなみに今日の魔法銃装備当番はクロだ。本人的には触りたくないのだが武器がないのは冒険者的には痛手だろう。それに自分たちの能力値が露見してしまった場合、魔法銃のお蔭だと言えば説明が簡単だ。ある意味魔法銃を貰ってよかったのかもしれない。ただあの老人には話を聞きたいことがあるので出会ったら捕まえなくてなとシロとクロは考えていた。


 朝の忙しない往来を歩いて冒険者ギルドの扉をくぐる。

 冒険者ギルドでは混雑する時間帯なのだろう、人が多く至る所から大きな声が上がっていて騒然としていた。この混みの中に突っ込んでいく勇気はシロとクロにはない。比較的空いていそうな壁際に寄ると『Gランク』と書かれた掲示板の前だった。目的の場所だったのでラッキーと二人は呟いて掲示板を眺めると、紙が一枚だけ貼ってあるのみだ。先に取られたのか、今日はこれしかないのか、現状判断はつかない。


「店の掃除の手伝い、しかないな。シロこれでいいか?」

「報酬銅貨三枚、今までがラッキーだったか。いいよ、今日は掃除の日にしよう」


 クロは掃除依頼の紙を剥がした。すぐ受付に持っていきたいところだったが、冒険者である大人達の間に入っていくと踏まれそうだったため人が引けるまで暫く待つことにした。

 シロとクロは壁際にあった椅子の上へ座り、足をぶらぶらと揺らす。スーが持たせてくれた水筒を取り出して、蓋兼コップに中身を注ぐ。茶色く甘いお茶は旅人がよく飲むものらしい。少し塩も入っているようで動いたあとにはピッタリの飲み物なのだろう。

 シロとクロがお茶を飲んでいると、人混みの中で目立つ存在を見かけた。長い赤い髪に長身、周りの人たちはわざと距離を取っているせいで姿を確認しやすいためレオンだとすぐにわかった。

 誰かを探しているようだな。と思ったらシロとクロと目が合い近づいてきた。その形相は恐ろしく、周りにいた冒険者たちは小さく悲鳴を上げていた。


「シロクロ、先に行くなら教えてほしかったんだが」

「え、レオンさんの仕事って私とクロをヤマトノ国まで連れてきたら終わりだと思ってたんですが」

「……そうなんだが、そうだな?」

 

 そういえばそうだったな? 顎に手を置き考え込むレオンにシロとクロは困った顔をする。

 レオンはシロとクロの面倒を見ることが自分の仕事だと思い、冒険者ギルドには依頼は暫く受けないと申請していた。仲間達はディクタチュール国に潜入しているため暫くは戻ってこない。現状は個人判断で動くことができるので、レオンは冒険者ギルドに緊急依頼でない限り受け付けないと昨日の夕方に申請を出していた。数少ないAランク冒険者から休みの申請を出された側の冒険者ギルドの内部は大混乱の真っ只中だったが、レオンの知ったことではない。

 レオンはシロとクロが心配だった。迷い人だからなのか、二人とも子どもらしくなく生き急いでいるようにみえた。一度手を貸した以上死なれると夢見も悪い。それに子どもは守られるくらいがちょうどいい。

 

「今は余裕があるからな。シロとクロの依頼に着いていくことにしよう。今日は何を受けるんだ?」

「店の大掃除しかなかったのでこれを受けます。えーっと、達筆だな。シロ読んでぇ」

「しょうがないな。えーっと夢幻草店むげんそうてん、仕事内容は掃除、報酬は銅貨三枚」

「あの薬屋か、ちょうどいいんじゃないか?」


 レオンは店の事を知っているのか頷く。レオンが問題ないならばとシロとクロは人が減ってきた受け付けに並んだ。

 シロとクロの後ろにレオンもいるせいか、冒険者達の視線が痛い。コソコソと「なんで紅蓮の騎士様が並んでいるんだよ」とか「子ども連れとか聞いていたが、マジだったのか」と噂話をされている。レオンは全く気にしていないようだが、シロとクロはあまり目立ちたくない為「レオンさん、離れてくんないかな」と内心考えていた。

 

「伝えるのを忘れていたが、シロとクロの一ヶ月の生活費はギルドカードを見せれば引き出せるからな。金は換金所から受け取れる」


 あそこに換金所があるだろう。とレオンが指をさした場所には受付とにたカウンターの前にエプロンを付けたスキンヘッドのおじさんが立っていた。換金所では魔石や倒した魔物の毛皮や牙なども売れるらしく、魔物を倒した時に素材を剥ぎ取れるようあとで解体を教えるとレオンが言う。シロもクロも動物の解体は幕末時代に経験済みのため難なくできるが、魔物ではない。わかったと頷くとレオンはふたりの頭を撫でた。


 受付の順番がまわってきた。袴姿の若い男性が「次の方どうぞ」と言ったあと、レオンに気づいたのか少し驚いた表情を浮かべた。カウンターに依頼表を「お願いします」とクロが出すと、受付の男性は表情を引き締め「夢幻草店の掃除ですね、ギルドカードはありますか?」と仕事モードに切り替わる。

 しごできお兄さん。とシロとクロは勝手にあだ名をつけた。受付を済ませたのち、受付の男性に手を振ると手を振り返してくれた。優しい。

 冒険者ギルドからでたシロとクロ。レオンが店を知っているので、レオンに道案内を頼み歩くこと数分。エドの中でも門や壁に近い冒険者が多く住んでいるエリアに店はあった。


 シロとクロは店の中に入り「こんにちはーギルドの依頼で参りましたー!」と二人揃って声を張り上げる。レオンは付き添いなので無言だ。

 店の奥から耳の先が長い老婆と同じく耳に特徴のある女の子が姿を見せる。レオンが「二人はエルフ族だ、特徴は耳だぞ」と教えてくれる。シロとクロはエルフ族を近くでみるのは初めてなのでじっと見つめてしまい、女の子が視線に気づいたのかモジモジと身体を揺すり恥ずかしそうしていた。老婆はレオンの姿を見て、目を大きく開く。


「Aランク様のレオンが掃除なんてできんのかい!?」

「俺は付き添いだ。掃除の仕事はシロとクロが受けた、説明は二人にしてくれ」

「なんだい、それを早く言いな! ガキども報酬は銅貨三枚、人数分は増えないからね。詳しくはこの子から聞きな、あたしゃ店の奥で調合しているからね終わるまで話しかけるんじゃないよ!」


 「はい」と了承する間もなくエルフの老婆は店の奥に引っ込んでいった、気難しそうな人だ。

 レオンは「あのばあさんは誰にでもあぁだから気にするな」というし、エルフの女の子も「おばあちゃんがごめんなさい! ちょっと言葉遣いが荒くて……」と頭を下げた。

 気にしていないという旨を伝え、さっそく掃除の内容を教えて貰う。


「えっと、掃除は店の中だけです。棚の中と容器に入った商品は拭いて元の場所に戻してください。割れ物が多いので気をつけてくださいね!」


 という指示のもと、掃除開始。クロが箒、シロが雑巾だ。レオンは付き添いだが暇なのか雑巾を持ってた。手伝うつもりらしく「報酬は二人でわけろよ。俺の事は気にするな」と事前に宣言していた。

 

 いつから掃除していないのか土と埃が酷く、本当にここは薬屋かとシロとクロは疑う。天井の端に蜘蛛の巣があって異世界にも蜘蛛はいるらしい。このクモは魔物扱いになるのかとシロがながめていたらレオンが「アレが魔力を得ると魔物になるが、街の中は結界があるから虫は虫のままだ」と説明してくれた。とりあえずは虫扱いらしい。

 下をいくら掃除しても上が汚いままでは意味がない。先に天上の埃を払ってしまおうとシロはエルフの女の子に声をかけた。


「えっとすみません、大きな布はありませんか? 汚してもいいやつ」

「あ、私エミリアといいます! 布なんてどうするんですか?」

「私はシロ、箒を持っている奴がクロで、そこのお兄さんはレオンです。布は商品の上に被せて埃避けにします、天井から掃除したほうがよさそうなので……」

「す、すみませんお婆ちゃんも私も掃除が苦手で……今持ってきます!」


 小走りで奥へ消えていくエミリアを見送ったシロは、扉と窓を開けているクロをみる。

 シロは掃除が苦手だった。人目につく場所は綺麗にしているのだが、自分の部屋は汚いタイプの掃除嫌い。クロは掃除好きでもないができる方なので依頼を受けたが不安になってきた。ちょっと割に合わないかもしれない。でも受けてしまった依頼なのでやるしかないとシロは溜息を吐き、クロはどう掃除すれば楽かと考えていた。

 そんなシロとクロにレオンは微笑む。


 大きな布を数枚持ってきたエミリアから布を受け取り、商品の上に布を被せる。

 エミリア、シロ、クロは身長が同じくらいのため天井に箒を伸ばしても届かなかった。なので子ども三人でレオンに「おねがいします!」と言うとレオンは胸をぐっとおさえ天井を見上げる。レオンの動きに疑問を持った子ども三人だったが、レオンが「天井を掃くからお前たちは一旦外に出てろ」と言って頭に布をまいた。

 レオンが天井の埃を全て落としてくれたあと、床に茶殻と使えなくなった薬草を適当な大きさに切りシロの水魔法で浸して床にまく。埃が舞うことも減り、ごみも茶殻と草に絡まって取りやすくなる。

 新聞紙でも代用は可能で、学校等では茶殻よりも新聞紙でやるのだが、この世界の紙は貴重品。無駄には出来ない。


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