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訳アリ教師ふたりが異世界召喚に巻き込まれたようです  作者: 藤白春


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第16話


 月の神が暗闇を明るく照らす時間はひとが寝静まる時でもあったが、ヤマトノ国は冒険者が多いせいなのかあちこちで笑い声が聞こえた。酒が入ったひと達はみな陽気に騒いでいるため、2つの小さな影が近くを通り過ぎたことに気づいていなかった。

 夜には目立つ灰色のマントを着込んだシロとクロは、手慣れたように夜の街を駆け抜ける。昼間どこを通れば街の外に出れそうか見定めていた二人は、建物の上を軽々と跳んで走っていた。チートを持つ前も、京を駆け抜けていたし屋根の上を渡って面倒な輩逃げた実績もある。

 子どもの姿になってしまったとはいえ体は覚えているらしい。小さな手足に慣れてしまえば走ることも戦いも問題はなさそうだった。

 

 シロとクロはエドの街を囲む高い壁の上に辿り着く。現代日本で見ることのできるアーチ式ダムのような壁はかなり大きく、登ろうとは普通思わないだろう。だがシロとクロは建物の上を跳んできていたので、難なく壁の天端にとび移った。

 シロは目を擦っているクロの頭を軽く叩き「警戒よろしく」と言って銃を背負い直して腰にあるナイフを確認するようにポンポンと2回軽くたたいた。クロも「へいへい」と返事をしてシロの後ろについていく。

 

 壁の向こうに広がるのは平原地帯と森林地帯。暗がりでちゃんとは見えないが、手前は遮るものがなく月明かりはよく照らしてくれている。身を隠すなら森の中の方が良いだろう。壁を降りてすぐに入れそうな森をみつけ、そこに向かってシロは天端からヒラリ落ちた。体の正面を壁に向け、何度か壁を蹴って落下の勢いを抑えながら下へと降りる。その様子を上から見ていたクロは「忍者じゃん」と呟いて、諦めたように自分も飛び降りた。

 

 シロもクロも人間の気配を探るのには馴れてはいるが魔物の気配はよくわかっていない。なので魔力操作で覚えた魔力感知を使うことにした。クロが光り輝いているように見えているシロ。クロは不思議そうにシロを見た後「なに?」と聞いてきたので、シロは「どっかの将軍とサンバしてこい」と適当なことを言ってごまかした。

 「透明になれ透明になれ」と何度も自分に言い聞かせたシロは、なんとか目が痛くなる魔力感知を透明化、目に優しいものへ変化させることに成功したシロは溜息を吐く。

 

 ある程度森の中を進んだところで開けた場所を見つけたシロとクロ。街から距離を取った事だし、付近に他の気配はなし。大きな音を立てても大丈夫だろう。旅人が使っていた形跡もない。銃を試し撃ちするにはもってこいの場所だろう。

 シロは適当な木に向かって銃を構えた。

 

〈魔力装填・範囲一本・目標固定〉


 自分で考えた呪文を唱えたシロは引き金を引いた。特徴的な発砲音はなく、シロが狙った木の幹の中央が撃ちぬかれた。

 シロは息を吐き出し、吸う。構えを解く。


「んーこわ、音がない」

「音がしない匂いもない。あるのはせいぜい魔力の残りカスか? それもあるかないかギリギリってところだな。こえーなそれ」

「うん、暗殺向けだね。あと範囲指定で同時に何体も攻撃可能ぽい。怖いからたんすの肥やしにしたいね」


 クロに銃を押し付けたシロ、銃を受け取ったクロは銃を構え確認を始めた。

 ちょっと寒いしこんな森の奥なら焚火をしても問題ないだろうとシロは枝と燃えそうな葉を集め火魔法の〈火よ〉を詠唱すると、葉に火が付き枝に火が移る。


「レオンさんに魔法教えてもらって正解だったなぁ」

「あんまり楽をし過ぎると後がこわいけどね」

「んで、どうよ。自分の実力わかったか?」

「まぁ、ある程度は。体が小さいのにも馴れてきたし、クロも試してみなよ」


 クロが銃を構えて感覚を確かめている間、シロは先ほど撃った木を見に行く。

 銃痕はハッキリと残っている。よくみれば穴から反対側の景色が見えていた、破壊力は抜群のようだ。クロも木を数回撃ったあと「これやだ、使うのこわい」と言う。撃った時の反動も少なく、弾は魔力なので魔力が続く限りずっと撃ち続けることもできる。チート武器といってもいいほどだ。

 銃は使いこなせないと判断したシロはナイフの練習を始める。が、シロがナイフを投げたところ既に銃痕がついていた木に深い切り込みがはいる。そして自身の重みに耐えきれなくなったのか、木が折れ曲がる大きな音を立てて倒れた。倒れてしまったものはしょうがないので「ごめんなさい」とシロは木に向かって両手を合わせて謝り、クロと組手をはじめる。


 シロはクロの正面へ拳、クロは右に避けて左手で顔を狙うが避けられた。シロはいったん距離を取り、一気に間合いを詰め懐に入り掌底。「あっぶねっ」というクロの声と同時に回避されたので足を引っかけ転がすが、すぐに起きあがった。

 シロは瞬間を見逃さず、クロの腹に一発入れれば「げぼッ」と呻き声を上げつつも、勢いよく横に転がって間合いを取りクロはシロを睨みつけた。


「手加減してくれよシロ!」

「やだよ上限が知りたいんだし、往生してくれ」

「やだァ……! 俺が組手は苦手なの知ってるだろ!」

「えー知らないなァ」

「こんにゃろ!」

「静かに、何か来る」


 自分たち以外の魔力を背後で感じた。クロは近くに置いていた銃をさっと取り構えて魔力を注ぐ。シロは焚火を足で踏んで消すと、辺りは暗くなり、月明かりが照らすのみ。だが、シロとクロの目にははっきり景色が見えていた。植物なども魔力を含んでいるため、その魔力の光が見えているためだ。魔力操作の加減さえ覚えてしまえば夜目もきいて便利だとクロは思っていた。シロはまだ加減が下手なので便利だなぁとは考えていなかったが。

 銃を構えるクロは目の前に表示されている文字を読み上げる。

 

「距離六百、ツーベアーって出てる。うーん、熊かぁ、熊ってビビりだから山奥にいるもんだと思ってたなぁ。イノシシのほうがこえーし」

「ここ日本じゃないから。ツーベアーって獣人じゃないの?」

「あー、スーさんの魔力とは何か違うけど」


 クロはスマホカメラの倍率をあげるような感じでアップできないかな。と思い目に力を入れれば出来てしまった。

 サイズ感は分からないが体は大きく頭が2つある熊だった。獣人には見えない。体の心臓がある場所だろうか、そこに濃い魔力のようなものが固まっていた。

 シロとクロの住まいの大家兼食堂の主スーには、魔力の塊のようなものはなかった。


「わりと遠いし、動き止まった。シロ、どうする?」

「んー無益な殺生は必要なし。倒しても持ち帰れないし、逃げようか」


 「走れ!」と森を抜けた先の壁に向かってシロは走り出した。

 草木が茂る森の中は本来走りにくいものだが、シロは馴れていたし、魔力操作のお蔭か夜目もきくのでクロも問題なくシロの後ろを走っている。

 ツーベアーも再び動き始めた、シロとクロの動きに感付いたらしい。

 もともと距離もあったのでツーベアーに追いつかれることもなく、シロとクロの身長の何十倍の高さもある壁にたどりつき、勢いよく跳び上った。さすがに一発で上まで跳び上れるわけがないので、壁に対して真っすぐ走るのではなく斜めに駆け上がった。走る距離は伸びてしまうがのぼりやすくなるのだ。といってもシロとクロができるから他の異世界人たちもできるというわけではない。

 召喚された勇者一之宮達は出来ない。シロとクロは幕末の京を走り回っていたこそできる芸当だった。それもシロとクロの仲間たちからみたら異様なほどだったが、仲間たちは異様だと話すタイプではなかったのでシロとクロも自分たちの実力を過小評価していた。

 

 壁の天端に辿り着いたシロとクロは、一番上から銃を構えて見下ろす。頭が2つの熊が地面の匂いを嗅いだ後、顔を上げてキョロキョロとシロとクロを探していた。上をみようとはしていないため、狙っていた獲物が突然消えたと思っているようである。

 その後気配と足音を消、屋根の上を歩いて下宿先食堂二階の部屋へとシロとクロは帰宅した。

 スーやククリは気づいていないようで食堂の中は静かだ。シロとクロのスキルにある暗殺術が勝手に発動したのだろう、二人が思う以上にお互いの気配が消えていて驚いていた。自動発動タイプのスキルもあるようだと知れて二人とも満足した。


「クロおやすみー」

「おやすみー」


 シロとクロは割り当てられた自分の部屋に入り、装備を外し寝巻に着替えてベッドの中にもぐりこんだ。

 ごろごろとのたうち回るうちに寝られるだろうと、シロもクロも思っていたがうまく寝ることができず。

 気が付いた時には太陽の神が天の神へ近づき、エドの街を明るく照らし始めた。

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