第14話
謎のおじいさんに魔法銃をもらうイベントが起きたが、それ以外は問題も起きず船は進んだ。
二泊三日の船旅は危険な魔物が現れたりすることもなかったが、たまに船員たちが「オオカモメだ! 捕まえて今晩の飯にしよう!」と弾んだ声で銛を投げつける姿にシロとクロはあぜんとしていた。
オオカモメと言うだけはある軽自動車程の巨大な鳥、カモメのような可愛らしい顔の嘴からのぞく歯が肉食動物のようでシロとクロはゾッとした。オオカモメを難なく倒す海の男たちに対し、レオンは戦う気がなかったらしく銛を振り回す船員たちを眺めていた。
だがシロとクロの目の前にオオカモメが飛んできた際は舌打ちし、いつ取り出したのかわからない大剣をオオカモメにむかって振り下ろす。大剣をよけ切れなかったオオカモメはゴウッと炎にのまれたのち、甲板へ叩きつけられた。
「オオカモメはうまいぞ、羽根が焼けきったら解体するからな。見て覚えなさい」
燃えるオオカモメを大剣で指しながら言うレオンにシロとクロは何度もうなずいた。
船旅三日目の昼。シロとクロはヤマトノ国港町『サツマ』に到着した。仲良くなった船員たちに手を振ってシロとクロ、レオンは船を降りる。
「サツマのギルドにある転移魔法陣でエドまで一気に飛ぶぞ」とレオンに連れられて、シロとクロはサツマのギルドへ向かう。船着場すぐの建物がギルドだったようで見物する暇もなく。床に描かれた魔法陣の上にのせられたかと思いきや、石造りでできた部屋の景色が一瞬で変わった。
白い壁はしっくいのようで、柱であろう木も見える建物へ。床には魔法陣の描かれたじゅうたんが敷いてあり、壁には墨で書かれたような文字が額縁に入れられ飾られていた。
『必死に生きてこそ、その生涯は光を放つ』
読み書きがまだ怪しいシロとクロは鑑定スキルで確認。何だか聞いたことのある名言が書かれていたが、二人は思い出せなかった。
「ここがエドのギルド本部だ」
「「おぉ」」
レオンに手を引かれてシロとクロは転移魔法陣の部屋から出る。
学校体育館程の広く天井が高い室内は多くの人が行き交っていた。頭の上に兎のような耳がついている人。耳の先が長く尖っている人。背が小さくひげが特徴的にな人。猫や犬、爬虫類のような顔や体をしているが、人間のように二足歩行している者もいた。ファンタジーによくいる獣人の方ではないかとシロとクロは鼻息を荒くする。
受付と書かれた看板の方へ視線を向けると、着物のような物を着た人たちが仕事をしていた。シロとクロが立っている床よりも高く作られているようで、奥で書類仕事をしている人たちは皆正座をしていた。番頭が座ってそろばんを弾いている様子をほうふつとさせる様子に、クロは嫌な記憶を思い出す。金策で悩んだ時に訪れた商家で、声をかけているのに無視を続ける番頭がいたのだ。
「シロ、なんか懐かしい感じしないか」
「うん、日本って感じがすごいね」
「ギルドは迷い人が作った組織だ、ワザとだろうな」
「それよりも受けた依頼を報告してこい」とレオンに言われたシロとクロは受付の長い列に並んだ。
受けた依頼は乗っていた船の清掃手伝いである。三日間船の甲板掃除と皿洗いなんかを手伝ったおかげで船員たちの仲良くなれたのはラッキーだった。この世界についていろいろ聞けたのだ。
種族は人間、エルフ、ドワーフ、獣人、魔人の五種族に分かれているということ。
昔は国家間の戦争が頻発していたが今は平和だということ。ただディクタチュール国はきな臭いうわさがある、もう二度と近寄らない方がいいと船員達はシロとクロに言い聞かせた。
迷宮国家『ヤマトノ国』、魔法王国『ユナイ王国』、獣人の国『メリカ王国』の三カ国が大国扱いされており、他の国は小国扱いだという。
「次の方どうぞー」と受付の担当者が声を上げた。シロとクロの順番が来たようだ。
二人の背より高い受付に、シロが背伸びしながらギルドカードと依頼達成票を受付に提出する。
「はい、お預かりしますね。うんうん、仕事が丁寧だったから依頼料にちょっと上乗せして払うって。よかったわね」
受付の女性はほほ笑みながら「依頼達成おめでとう」とギルドカードと依頼達成金は銀貨五枚だった。本来は銀貨二枚の話で受けていたのだが、随分上乗せしてくれたようだ。
銀貨はシロとクロで分けて持つ。盗られた時対策だ。そして後ろで待っているレオンの元に駆け寄ろうとするが、なぜかレオンの周りに人だかりが出来ていた。レオンは「俺は忙しい、悪いな」といって集まってきた人をシッシッと手を振って追いやっている。
シロとクロは顔を見合わせるが、答えは出なかったので気にしないことにした。
「レオンさん終わりました」
「ん。クロ、いくらもらった?」
「銀貨五枚です」
「銅貨にすると何枚だ?」
「五十枚です」
「ちゃんと覚えたな。シロ、銅貨を百枚集めると金貨は何枚だ?」
「一枚です」
「シロも大丈夫そうだな、二人とも偉いぞ。では昼飯でも食いに行くか。うまくて安い飯屋を教えてやろう」
「行くぞ」と視線を集めているレオンの後ろをついて行くシロとクロにも視線が集まる。
「あのレオンが子連れだって」「レオンさんかっこいい!」「えーあの子達なに、隠し子?」「いや似てねーだろ」「レオンがヤマトノ国に戻ってきたのか」
などなど、話し声が聞こえる。シロとクロはレオンは有名なのかと不思議そうにレオンを見る。レオンは二人の視線に気づいたが「どうした?」と問うだけで、噂話を気にして居ないようだった。
ギルドの外に出ると、西洋の建物と和風な家屋が混ざった街並みが広がっていた。江戸時代末期というよりは大正時代と言われる方がしっくりくる風景。
石畳の道、白い壁と木が特徴的な家々、西洋風の石造りの家。その向こう側に『ザ・日本の城!』が見えたような気がして、シロとクロは目を擦る。お土産屋の前では信楽焼のたぬきをみかけて、二人はさらに目を擦った。




