97.
シティアル公爵夫人からリリアナに関して聞いているって言っても、かなり昔だし、確か公爵はリリアナが産まれてからは会ってないはずだよね。
「妻は夢見、天啓というものと似たようなものが見受けられました。時折空を見つめてはまるで未来を視たかのような口ぶりで淡々とそのことを伝えてきました」
「それはいつから?」
「初めて視えたのは十五のときだったと聞いています」
「シエルとメルトは知ってたのかい?」
二人とも首を振り、ニーチェル公爵たちもおそらく初耳。シティアル公爵にだけ伝えられてたこと。娘のことだからってワケじゃないはず。
「あいつはつくづく自分たちをバカにするのが好きらしいね」
「夫人を擁護するつもりはないが、教えたらお前ら回避しようと躍起になって動くだろ…」
「知ってたの?」
「少しだけ聞いた。夫人からはこうして第一魔術師と皇帝たちが集まったときに話せって言われてる」
わざわざ指定してなのは、それで視えたのか? それとも、また別の何かがあるのか?
「その内容は」
「……正確な時間や場所は分からないが、月と太陽が重なる日、荒れ果てた荒野に無数の屍と黒い不定形のナニカ、白と黒が入り交じった鱗を持つ龍が飛んでる。他にも人がいて、それがたぶん俺やシエルだと思うとは聞いてる」
白と黒が入り交じった鱗を持つ龍……。もしもあのときの龍なら、私が見たのはいったい何?
「他にも子どもと大人がいるって言ってたのはたぶん子どもがユラエスたち、大人が皇帝ら。ただ」
「子はそこにいなかったか」
「夫人は、リリーに何か起きて龍を呼んだんじゃないかってよ。本当かどうかは分からないが」
「ハゼルトのルーツ的には可能性があるね」
ハゼルトは複雑だからなぁ。一番謎な存在だし。
「あの子トラブルメーカーだからなぁ。前も喧嘩売ってなかった?」
「あれはあっちが売ってきたものだろう。貴様が一番嬉々として見ていたのに忘れたのか。いい加減引退しろ老害」
「ハゼルトってなんでみんな俺に当たり強いの?」
ハゼルトはだいたい強いと思いますよ。ハゼルトが甘いのはそれこそ身内くらいしかいない。
「フェミル殿がそうなるのも妥当だろ……。あんた会ってすぐのリリアナ嬢に何したか覚えてないのか」
「手の甲にキスしただけじゃんか」
「それが求愛の意なの知ってやったろうがジジイ」
「ロリコン」
「メルト、一番効くからやめてくれないかな」
なんかロリコンって認めてません? この人大丈夫なの。不安なんだけど。
「シティアル公爵、子にコレを近づけさせてしまい申し訳ない。ハゼルトの者としても、コレは近づけたくなかったのだが」
しれっとご自分のこと明かしましたね。いや、いつだかオリヴィエさんが言ってたような気もするけど、にしてもハゼルトの人だったんだ。
「ばあさんはじいさん……校長の姉で、昔は当主だった人だ」
「んでもって、一年だけ教師やってて俺らの担任だった方。だから俺も知ってるし頭が上がらない」
先生たちの担任……。よく先生とメルトさんを抑えられたなと思うけど、ニーチェル公爵と二人がかりだったのかな。




