95.
どうしよう。私と先輩だけ身内がいない。なんなら先輩はユラエスいるから実質私一人だけなんだよね。
「改めて突然すまなかった。そこの小僧の前任のフェミルだ」
「第一魔術師のクロム。魔塔のまとめ役をさせてもらってるよ」
「おば様は分かりますけど、第一様いらなくないですか?」
「いらんな」
「リリアナちゃんはなんでそんな俺に当たり強いの。あとフェミル、俺泣くよ?」
すごい魔塔のトップとは思えないんだけど。本当にさっきの人と同一人物?
「子よ。悪いが使いを頼まれてくれるか」
「……私はのけ者ですか。ご所望のモノがあるかは知りませんからね」
ため息混じりにそう言って退室するリリアナ。なんでわざわざリリアナに取りに行かせたのか。先生たちでも問題ないはずだけど。
「お前ら下がれ。外で待機してろ」
警備としていた騎士にニーチェル公爵がそう言って下がらせるけど、これ大丈夫なの? 皇帝陛下もいるのに。
「メリア、いるだろ」
「……いるけど、オリヴィエたちいるじゃん」
「どっから出てきたんだよサボり魔」
「上」
まともに答える気はなさそうなメリアさん。本当にどこから出てきたのこの人は。
「久しぶりだね魔術師」
「あの子のオモチャか。ずいぶん成長した?」
「魔道具が成長するワケないだろ」
なんで警備の人たちは外に出してメリアさんを呼んだのか……。それに、メリアさんのことってどのくらい知られてるの?
「魔道具?」
「あ、知らないんだ。メリアって魔道具なんだよ。カシアさんもそうだし、結構いっぱいいるよね」
保護者組がこぞって何それ知らない状態なんだけど。あとしれっと新しい人が出てきたな。
「動く魔道具を造れる方が魔塔に?」
「えぇ。彼女はまだ幼いですし、事情が複雑なので席には着いていませんが、二十歳になれば席を用意する予定です」
それ、言外に一人魔術師を落とすってことだよね。そこまでするほど強い人。どんな人なんだろう。
「子が戻る前に本題に移ろうか。我々が今回来たのは子に関してと【呪い】についてだ」
【呪い】は前々から事件が起こってるみたいに聞いてたけど、リリアナに関しても?
「というのも、今回の夫人の死は呪殺だ」
「何故断言できるのですか」
「簡単だ。私と小僧らが感知した。ダメ押しとばかりに弟からも連絡が来たからな」
先生たちは【呪い】を感知できるってこと?
「俺らが感知できるのはあくまでハゼルトの呪いだけだ。他は知らん」
ハゼルトの呪い……。いつだかに聞いたし、神話にもあったな。確か、ハゼルトの神様が与えた祝福が、呪いに変化したもの。
「つまり、今回の事件は」
「ハゼルトの呪いが対象者を守るために呪い返したものだ」
「呪い返しと言うと?」
「自分が呪われると分かってるなら対策するだろ? その対策として呪いを跳ね返す魔法を構築しておく。そうすれば呪いが来たときに術者にそのまま呪いを跳ね返すことができるんだ」
そうすることで呪った側の人がその呪いの被害に遭い、呪われた側の人はノーダメージ。
「……ということは、母は」
「リリアナちゃんを呪ったんだろうね。それも、かなり強力なモノを使って」




