92.
面倒くさそうに裁判を開始するいつもとは違い、魔術師の服装をしっかりとしている先生。
正直なところ、先生はもちろん私たちはリリアナが前公爵夫人を殺したなんて思ってないし、何がなんでも行動が速すぎるから、リリアナを訴えた人たちを怪しいと睨んでる。
先生はさっき言ってた通り裁判員側で最高裁判長の役割。他にも七人いるから、当たり前だけれど先生が絶対というワケでもない。裁判員の方にあっち側の人間がいたらダメなのではと思うけれど、全員中立派の人たちであり、私情で判決を下すことのないよう誓約魔法がかかっているらしい。
裁判に参加している人たちの前には鐘のような小さな魔道具があり、これで真偽を見極める。真なら何も起きないし、偽なら音が鳴る。偽装は不可能。
先生は真面目にやるつもりはないのか適当だし、リリアナはニコニコしてる。とても裁判とは思えない光景なんだよね。
「普通に聞けば一発ですよね?」
「リリアナ嬢が直接手を下してない可能性があるから面倒なんですよ」
シティアル前公爵夫人を殺したのかと聞かれてリリアナは否定。鐘は鳴らないため本来ならこれで終わるはずだが、依頼という形で他者の手によって死んだのなら鐘は鳴らないらしい。
「魔法も万能じゃないからな。魔力の揺れなどで真偽は出せるが、相手の過去を視て全てをさらけ出すことは難しい」
複雑な魔法は魔術となってしまい、他人が使うことは難しくなる。使用者によって効果が変動することは魔法でもよくあるけれど、魔術はそもそもで他人が使用することは不可能。術者にとってもっとも効率的であり最大の理論値が出せるモノが魔術となるため、そもそもの構造を理解できないからだ。
「心を見透かす魔術はないの?」
「ありはする。シエルは真偽判定に特化した魔術師だしな」
魔術師にはそれぞれに【称号】と呼ばれるものが与えられる。魔術師たちはその【称号】に基づくものをもっとも特意としているけれど、基本的にそれは非公開。けれど何名かはそれを公表しており、先生の場合は【真実と虚偽】。裁判で使っている魔道具も先生が作ったもので、微弱な魔力の乱れを検知し真偽を判定するというのが魔道具のタネ。簡単そうに聞こえるけれどかなり繊細な魔法が組み込まれているし、何より魔法を一つ一つ道具に編み込んでいると考えると、普段の先生がやるとは思えない。
「シエルは人の本質を見るのが嫌いだからな。やれはしても絶対しない。魔道具をわざとこうして穴があるようにしたのもそれが理由だ」
「どういうことです?」
人の本質を見るのが嫌いって、なんで。分かれば人付き合いとか簡単なのに。
「信じたい相手の心を覗いて裏切られたら二度と見たくないだろ?」




