9.
あのお茶会から二週間ほど経ち、今私たちは何故か、ハゼルト侯爵とムフロフ侯爵のにらみ合いを見ている。
王国騎士団団長──カーティス・クルム・ムフロフ侯爵。オリヴィエさんのお父さんで、髪や瞳の色がオリヴィエさんと同じ。顔つきはあまり似てないから、オリヴィエさんはお母さん似なのかな。
「………いい加減、放課後の教室でにらみ合うのやめたらどうです?」
痺れを切らしたリリアナがそう言うけど、やめないのを見るに仲悪いのかなこの人たち。
「俺はやらんって言ってるだろ」
「お前じゃないとダメだから呼んでるんだっつーの!」
わざわざ騎士団の団長が来るとか、相当だよね。ゲームではこの時期は特に何もイベントとかなかったはずだけど、ゲームで描かれてなかっただけなのかな。
「行くだけ行ってみませんか?」
「姪は実験したいだけだろ」
「まぁ、それもありますが」
「ありますが?」
「どうやら、我々に宣戦布告してきている輩がいるようですから」
そう言い、窓の外を指すリリアナ。
「我々」が指すのはハゼルトなのか、それとも国なのか。ハゼルトなのであれば、解決は勝手にやるから何かしらの問題はあるだろうけど、被害は最小だろう。けど、それが国であった場合、今後どのような被害が出るかなどの予想をして被害をどれだけ抑えられるかになり、後手に回ってしまう。
「……イカれた奴らか?」
「そこまでは見てみないと分からないですね」
にこりと微笑むリリアナに先生が折れ、ついでにと言うようにその場にいた私たちと、リリアナが行くからと理不尽に先生にゼクトが連れてこられた。
「これはこれは、不思議ですね」
「魔力の痕跡はなしか」
薄暗い路地裏で、騎士団の人たちによって周辺は封鎖済み。
「……よく見れるね」
死体は見れたものではなかった。全身がぐちゃぐちゃになっていて血も壁に飛び散り、内蔵も飛び出ている。
「こういうのは慣れですからね」
血に慣れてる公爵令嬢ってなんだろうね。ハゼルトだと動物の解剖とかは普通なの? これ動物じゃないからあれだけど。
「…腐敗はしてませんね」
「見つけた時刻は?」
「お前たちのとこに向かう四時間ほど前だ」
死後硬直は亡くなってから二時間後になるって聞いたけど、腐敗とかはどうなんだろうか。
「魔力の痕跡もないとなると、まずいですね」
「面倒くせぇな」
魔法であれば術者の技量がかなり高くなければ魔力の痕跡が残る。なのにそれがないとなれば、真っ先に疑われるのは魔法の腕がある人物。この国では、恐らく先生たちが一番容疑者に入ってしまうだろう。
「一応聞くが、被害者と面識は?」
「そもそも誰か分からん」
「興味なし」
「社会的に消す方が楽なんですよ?」
リリアナだけおかしいんだけど、なんで社会的に消すって手段があるの?
「さてと、伯父様」
「なんだ?」
「【呪術】を行使する許可をいただけますか?」