89.
ハゼルトに関してはゲームでボカされていたし、お父さんから気をつけろと何度も言われていた。確かにリリアナは隠し事が多いし、必要最低限のことしか教えてくれない。本性を見せてくれたことも、きっと殿下たちにもない。それでも、どうしてもリリアナや先生が、自分のためだけに戦争を起こしたりするとは思えない。
「それで、まさかその老害をまだ残しておくとか言わないよね?」
「そろそろ確実な証拠が出るはずですよ。集まり次第、魔塔により捕縛です」
魔塔なの? 普通そういうのは騎士団とかの仕事だよね。それに、証拠っていったいなんの。
「明日には帰るはずなので、ボロを出すならそのときですね」
「お願いだからちゃんと自衛はしてね」
「しますよ。なんだと思ってるんですか」
「誰だよ。毒入りって分かってるものを飲んだのは」
リリアナ、あんた何してるの。そして誰だよそれ出したのは。普通に殺人未遂だよ。
「いつものことですよ」
「いつものことになっているのがダメって話をまたする? 毎回毎回こっちをヒヤヒヤさせるのやめろって言ってるよね?」
ユラエスはこういうとき強いなぁ。リリアナもさすがに心配かけすぎたと思ってるのか何も言わないし。
「リリアナ嬢はしばらく警戒しておけよ」
「分かっていますよ」
当たり前のように急に来た私たちが悪いけれど、前公爵夫人のことで話すことがあるからとニーチェル公爵に帰された。
その数日後。私たちに届いたのはシティアル前公爵夫人の訃報。そして、魔法裁判が開かれるということだった。
* * * *
忌々しいバケモノ。ニーチェル公爵すら魔法で惑わすゴミ。毒を仕込んでも死にやしない。ハゼルトの娘との婚姻を許したのが間違いだったのよ。いくら人に見えても所詮はバケモノの子。ユラエスが似なくてよかったけれど、あのゴミはダメね。
けれどそれも今日まで。あのバケモノは今夜には消える。消えても私にたどり着くことはできないからあの忌々しいバケモノ侯爵は手出しできない。
帰路につくけれど、外の様子がおかしいわね。いつもはもう少し騒がしいと言うのに、今日に限っては不気味なくらい静かだわ。
「奥様!」
「何があったの……ひぃ!!」
馬車の扉を開けてきた護衛を見てみると血塗れ。そんな姿で私に話しかけるなんて!
「バケモノが突然襲ってきて。お逃げくだ」
その護衛は、言い切る前に血を吐き、扉の前で崩れ落ちる。血が飛び散り、下賎な者の血が付く。
汚ならしい血をよくも私に付けたわね!
そもそも、バケモノなどアレら以上のバケモノなどいないでしょう。私の力があればその程度……。
わざわざ私が外に出てみれば、そこには護衛たちはもうおらず、腹を裂かれていた。腹を裂いたバケモノとやらは暗闇に溶け込むような漆黒の不定形の身体を持っており、目であろう部分が赤黒く不気味に光っている。
「……な、なんでここに!」
こいつがここにいるはずがな──。




