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88.




そこにいるバケモノ? 誰のことを指しているの。ここにはそんな人いない。

ふと、最悪な考えが過り、ユラエスの方を見ると、顔を真っ青にしている。当たっているの? 嘘でしょう? そう否定しても、ゼクトが必死に手を握り怒りを抑えているところや、王太子殿下が前公爵夫人を睨んでいるところを見るに、当たっているのだろう。


「……お婆様、何を言って」

「あら、だってそうじゃない」


なんなのこの人。なんでそんなに、自分の孫をバケモノ呼ばわりして、そんな笑顔でいられるの?


「ハゼルトなど、バケモノでしかないわ。アメリアちゃんはあのバケモノたちと違ってとてもいい子だったけれど、それは人ですらないじゃない」


この人は、リリアナのことを人として見てない。だからリリアナはそんなところに。


「………その言葉は、我が国への宣戦布告ということでよろしいですか?」

「あら、そんなワケないわ。友好国に宣戦布告だなんて。あのバケモノが親族なんて、そちらにとっても汚点でしかないでしょう?」


この人、何がなんでもリリアナを排除する気だ。なんでリリアナは黙ってるの。いくら祖母だからって、こんな人の言いなりになる必要なんてないじゃないか。


「お話中申し訳ございません。ニーチェル公爵閣下がいらしておりますが、どうしましょうか」

「通しなさい」


ニーチェル公爵がなんで。しかも、こんなタイミングで。


「お久しぶりですね。お元気そうで」

「えぇ、何年ぶりかしら」

「それと」


ニーチェル公爵から一瞬だけ魔力が漏れ、次の瞬間、前公爵夫人が倒れた。何が起きたのか分からないけれど、やったのはきっとニーチェル公爵だ。


「ゼクト、ソレ片付けろ。リリアナ嬢は座れ。ずっとその状態はツラいだろ。ユラエスも連絡すまないな」

「いえ、間に合ってよかったです。リリアナ、お願いだからその殺気と暗器はしまってくれないかな。俺の心臓がもたない」

「あら、いらないモノを片付けるちょうどいい機会だったのに、残念です」


目が笑ってないよ。暗器ってあんた、令嬢らしからぬモノを平然と持ってるんじゃないよ。怖いから。


「ちなみになんだけど、これどうしたの?」

「ただ音で脳揺さぶって気絶させただけだ」


だけと言う割りにはかなり高度な技術だと思うのですが。


「それにしても、なんでこの人」

「……私がお父様にもお母様にも似ていないからですよ」


確かにどちらにも似てはいないけれど、だからってそんなことする? ハゼルト嫌いだとしても、孫だよ?


「先祖返り、とでも言うのですかね。私は歴代ハゼルトの中でも特に魔力も多く、人の普通と言うものがよく分かりませんから。人は自分たちと違うモノを忌諱します。だから、自分と違う私を嫌うのも無理はありません」

「……リリアナは、嫌われてても仕方ないって思ってるの?」

「実際そうでしょう? ハゼルトが何故恐れられているか知っていますか? 昔の当主が、私欲で一国を亡ぼしたからです。その前には自身の知識欲を満たすため、禁忌とされる魔法を行使し、その前にはいくつもの国と戦争を起こした」


ハゼルトに関しては歴史で少しだけ触れられる程度。それはきっと、ハゼルトへの不信感を大きくしないため。


「ハゼルトとは元々、自身のことしか考えない自分勝手な一族。最近は落ち着いただのと言われていますが、実際は表にしていないだけで、裏を見れば誰だって恐怖を覚えますよ」






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