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87.




ゼロさんと街でバッタリと会ってから数日。もはや日常だけれどシティアル公爵家にいる。ただ、いつもは出迎えてくれるリリアナはおらず、ゼクトが来た。


「……今客が来てるからあんま騒ぐな。それと、リリーに話しかけるな」

「え、なんで」


聞いても答えてもらえず、屋敷の雰囲気も、元々賑やかだったワケではないけれど、とても重々しい。何があったのか聞きたいけれど、リリアナに話しかけるなってどういうこと?


「……客人をお連れしました」


いつもとは違う部屋に通され、中に入るとそこにはユラエスと何故か使用人がいるはずの立ち位置にいるリリアナ。それと、


「………お久しぶりですね。いらしたいたとは思わず、突然の訪問、お許しください。前公爵夫人」


公爵夫人……。シティアル公爵夫人はもう亡くなられてる。じゃあこの人、リリアナとユラエスの祖母なの? でも、そしたらなんでリリアナはそんなところに。

リリアナを見ると、困ったような笑みをこちらに向けてきて、手際よくお茶の準備をしてくれる。ゼクトもリリアナと一緒に準備をして、リリアナは座るのかなと思ったけれど、そんなことはなく、ゼクトと一緒に立っている。


「お久しぶりね、アストロ様。お元気そうで何よりだわ」

「公爵夫人も、お元気そうで何よりです」


アストロさんが話してくれてるけど、ティアナは嫌そうにしてるの隠そうともしてないな。それに、なんでみんなリリアナのこと気にしてないような素振りを……。


「ところで、そちらのご令嬢たちは?」

「ご挨拶が遅れて申し訳ごさいません。カトレア伯爵家のアイリスと申します」

「聖女として神殿に住まわせていただいているラテと言います。公爵夫人」


一瞬だけ、睨まれたのは気がするけれど、すぐに穏やかな先ほどまでの笑みを見せてきて、気のせいなのかなと思う。


「聖女と言うと、聖術をお使いに?」

「まだ拙いものですが、少しだけ」


神殿に仕える人たちは魔力とは別に、【聖力】と呼ばれる不思議な力を持つ。聖術とは、魔法の聖力バージョン、とでも言おうか。


「浄化の術はできるのかしら」

「はい。微々たるものではありますが」

「なら、ぜひ浄化してほしいモノがあるのよ」


ニコニコと上機嫌で言う公爵夫人。浄化してほしいモノって何? 浄化の術は本来呪いに対抗するためのもので、その応用として、人の穢れと呼ばれるものを払う力もあるけれど、公爵夫人に穢れが溜まっているようにも思えないし。


「浄化してほしいモノとはなんでしょうか。さすがに持ってくるのに時間がかかるかと思いますが」

「あらやだ。聖女様は冗談が上手いのねぇ」


何故だろうか。とても気持ち悪いくらい、ねっとりとした、何かを感じる。


「そこにいるバケモノを浄化しろと言っているのよ。できるでしょう?」


その言葉に、全員が息を呑んだ。






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