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どうせなら、ゼロさんも一緒に街を回ろうということになり、五人で回ることになった。なったんだけど、
「……一応聞きますが、買い物の経験などは」
「いつも必ず誰かしら傍にいる」
ゼロさん、まさかのお金の使い方分かってない。こういう街中だと金貨は使えないんですよ。
「商人とかは使えるけど、こういうところだと金貨は高価すぎるから、銀貨や銅貨が基本です」
「なるほど」
相当な箱入り娘だな。先生たちも普段買い物しなさそうだし、知らないか。
「ハゼルト侯爵が保護者ということは、リリアナとも会ったことが?」
「……直接はないが、魔塔でよく話に出る」
「リリアナ嬢もそういえば、お金の使い方が分からなくて困らせていましたね」
リリアナもなんだ。やっぱりなんでもできるってワケじゃないんだね。
「リリアナは変なの買いそうになって止められたって聞いたよ」
「ゼクトくん大変だよね~」
「あれはあれで楽しんでるだろう」
ゼクトには会ったことあるんだ。それならリリアナと会っててもいいと思うけど。
「ゼロさんは何歳?」
「同い年だが」
「え、嘘……」
「背が低いからと言って年下ではないぞ」
いや別に、背が低いから年下だと思ってたワケじゃなくて、シンプルに私たちと同い年の人が魔術師候補なのに驚いただけです。
「それにしても、騒がしいね」
「……まずいかも」
「え?」
何故かゼロさんが後ろに隠れてしまう。逃げていたみたいだし、近くにその人がいたのかな、なんて思っていると、遠くにだけれど、見たことある人影が。
「……あぁ、ここにいたのか」
「お父さんじゃん。珍しいね」
ニーチェル公爵、なんか汗かいてるけど、誰か探してるの? ここにいたのかって、もしかしてだけど、ゼロさん?
「今日は月に一度の儀式の日です。勝手にいなくなられては困りますよ」
「……つまらない。どうせ籠ってるだけだ」
「そうは言っても、やれるのはあなたしかいないんですから」
ニーチェル公爵が敬語とはこれまた珍しい。年下でも、やっぱり魔術師候補だと公爵より立場は上なのかな。
「第六か第四にやらせればいい」
「あの二人だと建物を壊しかねませんから」
「自分が壊さない保証などないだろう」
「あなたはあの二人よりはまだ穏やかですから」
ニーチェル公爵、扱いが手慣れてるな。ゼロさんはすごく嫌そうだけど。
「儀式と言うのは?」
「公にはできないものですが、簡単に言えば魔塔ができてから行われている恒例行事のようなものです。魔塔に所属している者の中でもっとも魔力が多く、神に愛されている者が祈りを捧げ、神の怒りを鎮める。その担当がこの子なんですよ」
ゼロさんも大変だな。でも、魔力はそこまで多いようには感じない。隠してるのか?
「……今度好きなに街に来れるよう魔術師に取り計らいます。それでいいですか?」
「いいのか!?」
嬉しそうに跳ねるゼロさんを見て呆れながらも優しい顔を見せるニーチェル公爵。やっぱり子どものことを理解してくれる大人っていいよね。私のお父さんは親バカすぎてダメだよ。




