84.
あのあとも話していたけれどリリアナは戻ってこず、魔法でしばらくハゼルトに泊まるという連絡が来た。かなり怒ってるし、時間も時間だしと帰った。
まぁ、問題は今私の目の前にティアナが殿下とエルヴィス連れていることなんだけどね。
「今日は何……」
「街に行こ!」
急いで準備するけど、この四人で行くの? リリアナは? ラテさんもいないし。
「ラテちゃんは神殿でやることあるみたい。リリーちゃんはなんかいなかった」
「私がいて悪目立ちしないといいけど」
今さらなんだけどもね。
街はたまに来たりするけど、こうして来るのははじめてだな。あの夜の酒場探しがノーカンなら。
「たまに来るんですか?」
「ティアナに連れてこられて来たりしますね」
やっぱりティアナなんだ。国民と触れ合うって目的ならこれが一番だけど、護衛とかいいの?
「ニーチェル公爵に渡されてる魔道具があるからね」
迷子防止兼護衛用の魔道具。それなら何かあったときにすぐに対応できるし問題ないのか。
「あ、私ガラス細工みたい!」
「それならあっちじゃなかっ……ちょ、大丈夫?」
よそ見してたせいでぶつかっちゃったけど……。
尻もちをついた女の……うん、たぶん女の子。何故か顔を隠す雑面を被っていて、背丈はリリアナくらい。髪色はこの国ではとても珍しい白と黒のグラデーション。服装は見たことないけど、他国の子かな。
「ごめんね、怪我してない?」
「……してない。こちらこそ、急にすまなかった」
口調は令嬢のものではないけれど、声が高い。男の子と言うにはちょっと高すぎるし、やっぱり女の子か。
「急いでたみたいですが、どうかしましたか?」
「知り合いから逃げてたんだが、どうやら逃げきれたみたいだ」
「こんな街中で?」
「問題あるか?」
ちょっと常識なさそう。それとも、この子の国じゃ違うとかなのかな。でも、普通どこの国でもそんなことしないよね。
「失礼ですが、この国の方でしょうか」
「ん、あぁ。まあ、そうだな」
「お名前を伺っても?」
「……すまないが、この格好で名は明かせないんだ。そういう契約でな」
誰から逃げてたんだろう。知り合いって言ってたけど、たぶん平民ではないよね。魔力もそこそこあるみたいだし。
「挨拶が遅れたな。見たところ視察か何かなのだろう。時間を撮らせてすまないね。皇太子並びに公爵令息令嬢。それと、【水の王】の使役者。自分のことは【ゼロ】とでも呼んでくれ」
私たちのこと知ってるのか。
「第六たちから聞いている」
「第六って、シエルさん?」
「あぁ。この国にいる間の自分の保護者代理だ」
先生が保護者代理……。でも、この国にいる間って言うのは? 普通は親がいるなら親が保護者だよね。
「自分はそのうち魔塔に行くからな。だから第六たちが保護者になってる」
「魔術師候補の方でしたか。なら、社交なども」
「基本的に出ていない」
それなら見たことないのも納得だな。顔を隠してるのも、身元がバレるのを防止するためか。




