8.
「……ごめんなさい」
「んで俺まで」
容赦ないな侯爵…。相手は侯爵家の娘とあなたの姪っ子の従者ですよ。
「それで、わざわざここまで何しに?」
「姪に用事」
「え、嫌ですけど」
「リーダーから」
「お願いだから死んでくださいって言ってもらっていいですか?」
とても公爵令嬢から出てくる言葉とは思えないものが飛んでるんだけど大丈夫?
「そのうち慣れるよ」
「リリアナ嬢はオフのときはこんな」
殿下もエルヴィスも無礼法だからいつもみたいに敬語じゃないし、いつもみたいだね。
「なんで魔塔の仕事を私がしないといけないのか十文字でお願いできます?」
「ハゼルトだから」
「籍はシティアルです」
「言い訳せずにやれ」
言い訳……なのか? 実際籍はシティアルだし、言い訳ではない気がするけど。
「……リリーいねぇと帰れないんだが」
「安心しろ。お前はばあさんが呼んでる」
「死ね」
「………今日は先に失礼します」
ハゼルト侯爵の説得を諦めたリリアナはゼクトを連れて魔法で転移。話の内容的に、魔塔に行ったのかな。魔塔って、登録者以外の立ち入り禁止だった記憶あるんだけどな。
「リリーちゃん帰っちゃったね」
「連れて行かれたの間違いだろ」
「あの人、また勝手に入ってきてるし」
「我が家では日常」
それはシティアル……というか、ハゼルトがおかしい。いくらなんでも親しき仲にも礼儀あり。訴えてもいいと思う。
「訴えたところでハゼルトは法の外なんだよね」
「ハゼルトの権限もそうだし、魔術師の権限もあるからあの人たちはもう無理」
「リリアナちゃん」
「伯父上たちの教育」
リリアナはゲームでもハゼルト侯爵と仲良さそうだったし、ユラエスルートでは父親である公爵とリリアナの関わりがないことを嘆いてたし。
「リリアナはハゼルト侯爵と似て人と関わるよりも魔法だからね」
「シエルさん……というか、メルトさんに似てるよね」
「誰それ」
「シエルさんの双子のお兄さん」
さっきから「伯父上たち」ってユラエスが言ってるからハゼルト侯爵に兄弟いるとは思ってたけど、双子なんだ。
「現在第四魔術師の地位にいるって言う方か」
魔塔に属する人たちを【魔術師】と呼んでいて、第四と言うのは序列。ハゼルト侯爵は第六魔術師で、そのメルトさんと言う方はハゼルト侯爵よりも二つ地位が高いみたい。
「魔術師って、一つの国で何人も出していいものなんですか?」
魔術師になるには「単独で国を消滅させる力を持つ」という条件を満たさなければならない。
【魔法の祖】と呼ばれるハゼルトならば優秀な人材も多いのだろうが、大丈夫なのだろうか。
「三名まで各国から魔術師を排出できるから問題ない」
「とは言っても、引退した人たちがまだ生きてるとかあるとその時代に一つの国で五人魔術師いるとかはあるけどね」
あくまで現役だけで三人なのか。なら、ハゼルト侯爵とそのお兄さん。あと一枠ありますけど、誰が?
「十三年くらい前かな。それまではメルトさんの前任の元第四魔術師がいたんだけど、今ではとある人を魔術師にするために引退したの」
「じゃあ、この国には三人いるんだ」
「いるけど、出てこないと思うよ」
これ以上はシエルさんに怒られるから、と聞けなかったけれど、気になるな。
ハゼルト侯爵のお兄さんもそうだけど、第四魔術師という高い地位にいる人が引退してまで魔術師にしたがった人物。どんな人なんだろう。