77.
サジュエルにエスコートしてもらい、会場に入るけれど視線が痛い。公爵子息が婚約者でもない伯爵令嬢のエスコートしてたらそうなるよね。後ろで何人かニヤニヤしてるけど。
「今さらながら、カトレア伯爵夫妻はどうしたんだ?」
「父が過保護で、あまり出ないんですよ」
私も今回ギリギリまで出る出ないで揉めてたし。お母さんはお父さんを引き止めてくれている。友だちと楽しんできなさいと見送られたけど、申し訳ない。お母さん、あまり出ないけど苦手ってワケでもないから、お父さんのわがまま聞いてるだけだろうし。
「サーフェルト公爵夫妻はもう?」
「えぇ。今は挨拶をしに回っていますよ」
「うちの人とは大違いねぇ」
「あいつらが真面目すぎるんだよ」
面倒だからじゃん、とティアナたちが揃って言う。ニーチェル公爵、真面目なのにこういうところは手を抜くのか。
「お父さん、有給取得率おかしいからね」
「あいつらが使わないだけで、他の奴らも使ってるぞ」
「家に戻らないせいで妻に実家に帰られる人もいるしね~」
オリヴィエさん。珍しくスカートなんだ。いつも動きやすいようにこっちじゃ女性ではあまり見ないズボンだったから、少し違和感ある。
「やっほ~。アイリスちゃん、見事にサジュエルくんの色だねぇ。婚約するの?」
「冗談でも言うな。いくつ歳が離れてると思ってるんだ。それに、俺なんかよりお前がさっさと婚約決めろ」
「私は独身貫くから」
そんな自信満々に言うことでもないですよ。オリヴィエさんもアストロさんもサジュエルも、婚約者いないけど大丈夫なのかなぁ。
「てか、メリッサたちが婚約決まるの速すぎなだけ」
「私たちは確かに速かったけれど、あんたたちは遅いわよ」
「すぐ決まったもんね」
ティアナたちは仲良くなって婚約することになったんだっけ。確か、二人とも婚約したいって言ったとか。
「この国って政略結婚少ないもんねぇ」
「私たちの場合、親世代が恋愛婚だものね」
「……こっち見んな」
我が国の恋愛婚筆頭者って言えばニーチェル公爵たちですし。シティアル公爵たちもそうだよね。結構反対されてたって聞いたことあるけど。
「あの二人はシエルが折れたから許可降りただけだ。本当ならアメリア嬢は処刑ものだ」
「そんなになの?」
「ハゼルトの婚姻ってのは他種族が絡んでくる。わざわざシエルが頭下げに行って許可もらって結婚できたんだよ」
先生がわざわざ……。イメージ湧かないな。
「……そろそろあいつら来るぞ」
ニーチェル公爵がそう言い、入り口の方を見やると、着飾ったリリアナとユラエスにゼクト、そしてシティアル公爵が入ってくる。
リリアナはマーメイドラインの碧色のドレスにパパラチアサファイアの首飾りを着けていて、殿下が頑張ってアピールしてるんだろうなってのがすごい分かる。ユラエスもゼクトも正装で、手袋をしている。リリアナが着けてるのはなんとなく分かるんだけど。
「あの手袋なんです?」
「あぁ、あれね。こういうパーティーではいつも着けてるのよ」
先輩も知らないのか。素手でモノを触りたくないからってワケではなさそうだし、なんなんだろうか。




