74.
あのあとはスフィアさんは帰ったし、特段何事もなく終わった。シティアル領も変わった様子はなく、平和に終わったけど、
「………リリアナ、まだやることあるからね?」
「え、あります?」
「毎年毎年墓参り忘れるなよ」
墓参りって、もしかして公爵夫人の? そういえば行ってなかったよね。
「……あぁ、そういえば」
「嘘でしょこの子」
母親の墓参り忘れるのダメでしょ。しかも毎年なの? リリアナが覚えないなんて珍しい。
何故か裏庭にあるらしく、行ってみるとそこには一つのお墓と、水色の髪と青紫色の瞳を持つ一人の女性がいた。
「……母」
「見かけないと思ったら、こんなところにいたのですか? ユイ」
ユラエスが何か言おうとしたけれど、リリアナの声に遮られた。
「お久しぶりです。ご友人方と来られたのですね。魔術師様方も、お久しぶりです」
「相変わらずだねぇ。君も」
メルトさん、なんか嫌そうだけど。リリアナは慕ってる、のか? 先生たちと接するときと同じ感じだし。
「………あー、リリィ。そう言えばゼータが呼んでた」
「ゼータが?」
何かあったかとリリアナは屋敷の中に入っていき、会話が途切れる。ユラエス、聞きたいことがありそうだけど、何かあったのかな。
「……伯父上、この方は」
「なんでアメリアに似てるんだってか?」
「夫人に?」
「私は正確には人ではなく、魔道具です」
魔道具……。リアンくんたちみたいなってこと? でも、なんとなく違う気がする。リアンくんたちはなんというか、どこか少し異質に感じた。けど、この人はそんな感じしないし。
「私はユイ。シティアル公爵夫人が、主様に渡した人形です」
「人形が動くのですか?」
「そういう機能を魔法で組み込まれております。元々は魔力が多すぎるあまりに身体が耐えきれない主様の魔力を放出するためのものです」
魔力は基本、一人一人に器がありその器から溢れることはない。けれど稀に、身体が器が満たされていないと誤認して魔力を貯め続けることがある。
「それがどうやって動くんだ?」
「姪の魔力がちと特殊で人形に自立魔法を知らず知らずのうちに組み込んでたんだよ」
「自立魔法って、違法じゃないっけ」
「違法だね」
あの、しれっと違法なの認めないでください。何許可してるんですか。バレたらまずいですよね?
「魔塔の実験にして許可してある。実際、いくつかデータ取りたくてやらせてるからな」
「皇帝陛下たちはこのことを?」
「カフニオは知ってるが、他はあいつが言ってないなら知らんだろ」
報告義務もないからな、と言ってるけど、報告義務はあるよね。それに、ユイさんが公爵夫人に似てる理由にはなってない。




