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リリアナとユラエスは正確には捨てたワケではない。けれど、呪いを受ける可能性は充分ある。
「リリィは耐性あるし、ユラエスはシティアル寄りだから大丈夫でしょ」
「校長先生は? それに魔塔は」
「おじい様は名乗らないだけで正確には名を捨てていません。魔塔に関しても、家名を名乗ることがないだけであり、捨ててはいませんよ」
それこそ、前にユラエスが言っていたリリアナの記憶を消して魔塔にってやつは呪いに関しては大丈夫なの?
「ハゼルトが名を捨てるというのは二つの意味合いがあるんですよ」
「一つは別の家の姓になることだよね」
「えぇ。もう一つが真名。最上位種族より授かる名です」
クロさんが言ってたやつ。人に教えてたら人生終わるって脅されたけど、ハゼルトも持ってるんだ。
「ユラエスも持ってるの?」
「俺はハゼルトの後継じゃないから持っていないよ。ただ、どういうものかは教えてもらったことがある」
真名とはかなり重要なもので、その人の魂に刻まれる名前なんだそうだ。転生してどれだけ別の人になろうと、魂に刻まれた名前は変わることがない。昔はそれで生まれ変わりを見つけるなどもしていたようだ。
「その真名を知られると何かまずいの?」
「強制的に主従契約を結ばされる」
「しかも真名喚ばれた側が下だからクソだよねぇ」
クロさんが人生終わるって言ってたのはこういうことか。真名を知られて呼ばれたら一生その人に縛られる。もし、ハゼルトの真名がバレて呼ばれでもしたら、簡単に国家転覆ができる。その後の魔塔に勝てるかは問題だけれど。
「真名を昔は名乗ってたのですか?」
「真名を持つ者同士でね。けれど、とある人物が私欲に溺れて国家転覆のために真名を持つ者たちを服従させ戦争を起こしたんだよ。実際に国が三つ消し飛んだ」
「あとは、好いた皇女を手に入れるためにそいつの真名を聞いて服従させて結婚とかもあったな」
そこまでして、何がしたいのだろう。国家転覆をしたとして、魔塔に対してどんな対応を取るつもりだったのか。結婚の方も、相手の気持ちを汲まずに無理やりの愛のない結婚なんてして、幸せか?
「想像つかないね~」
「そりゃ、我が家には場所って概念あるか聞きてぇくらい人目を気にせずにイチャつくバカップルがいるからな」
親のことをバカップルと言うのはどうなのか……。実際ニーチェル公爵夫妻はおしどり夫婦で有名だからなんも言えないんだけどさ。
「カフニオはまぁ、うん……」
「昔からだからな」
昔からなんだ……。羨ましいな公爵夫人。それだけ愛されてるって実感できるのは。別に愛されてないワケじゃないし、なんならお父さんとか鬱陶しいくらいには過保護で愛してもらえてるけど、やっぱり婚約者と家族じゃ違うんだろうなぁ。




