69.
公爵は行くところがあるらしく帰ったけど、先生たちはいるのね。
「そう言えばさ、神話の本どこやったの」
「アイリス様に貸しましたよね? もうお忘れですか?」
あともう少しで読み終わるから待っててください。
ハゼルトに行ったときに借りたあの神話。恋愛ものなのだろうけれど、悲劇に分類されるよね。
産まれてから数十年もの間(最上位種族からしたらかなり短い年月らしい)、誰にも存在を気づかれずに生きてきた神族の皇女の話。彼女はとあることがきっかけで兄姉、他の神族や天使たちに存在を認知されてたくさんの人と関わっていく。けれど、皇女からしたら長いこと自分のことを知らなかった人たちが急に接してきて面倒だったり……。まぁ、普通だよね。
今まで見向きもされなかったのに、急に当たり前のように接してきたら誰だって怖いし、私だったら嫌だ。そんなことするならもう放っておいてくれってなると思う。
「あれ、どんな感じなんだ?」
「異種族恋愛……かな」
皇女はあるとき、国境にある大樹の傍で悪魔の青年に出逢う。周りが鬱陶しいと感じる皇女と静かな場所にいたかった青年は気が合い、定期的に会って、やがて恋に落ちる、という恋愛ものならお決まりと言っていい流れ。
「どこまで読んだのですか?」
「えっと、青年が亡くなったところかな」
二人が心を通わせ、結婚しようと約束してから、青年が悪魔の皇子であったことが告げられる。身分としては結婚相手として申し分はなく、問題があるとすれば二人が異なる種族であることだった。今は天界と魔界の関係は良好らしいけれど、大昔は「神魔大戦」なるものが起こるほど不仲だったらしく、その名残で異種族を嫌う人たちもいた。幸い、皇女の兄姉は異種族を嫌っておらず、青年との仲もよかったため二人の婚約が決まった。
「確か、その前にはハゼルトと交流があったんだよね?」
かなり省いているけれど、青年が皇子であることを告げる前に、彼らは天使や悪魔を何人か連れて下に降り、人間と交流をしている。名前は出されていないけれど、きっとハゼルトだ。
「じゃあ、ハゼルトの神様って」
「神話に登場する皇女様ですね」
「ハゼルトはその時代から他の種族と交流してたからな。そのときにいろんな種族の血が混ざってる」
ハゼルトの血がダメってそういうこともあるのか。異種族の血は取り込むと拒絶反応でほぼ死ぬし、ハゼルトも、かなり薄くなってるけど死んだりするのかな。だからハゼルトの血は門外不出とか?
「ハゼルトが外に出さないのは呪いだよ」
「呪い?」
ハゼルトが呪われてるの? 誰がどうしてそんなことをするんだ。
「元々は祝福だったものが時代を経て呪いに変化していったんだよ。今も祝福としての効果はある」
「呪いもハゼルトの名を捨てなければ発動しないからな」
ハゼルトの名を捨てなければ発動しない……。なら、シティアル公爵夫人は? ハゼルトからシティアルに籍が移ってる。それが「名を捨てた」ことになるのなら、夫人は呪われた。それに、リリアナとユラエスは……。




