67.
服はリリアナが魔法で乾かしてくれたからいいとして、問題は上への行き方だよね。
「ここにある結晶は全部魔力を吸うモノなの?」
「違うモノもありますが、八割はそうです」
「ここから出る方法とかって」
「迷路になっている洞窟を抜けるか、転移魔法ですね」
じゃあ転移魔法で行こう、と言おうとしたちょうどそのとき。足下に魔法陣が出現して外に出る。リリアナではないな。リリアナは魔法陣使わないし。
「おー、無傷か。運がいいな」
「先生とメルトさん……って、ニーチェル公爵?!」
なんで三人が。ティアナたちもいるし。まさか、洞窟の外から一気に転移させたの?
「ほらな。合ってたろ」
「探知はやっぱりカフニオだね~」
探知はって、まさかニーチェル公爵が見つけ出して先生かメルトさんが転移させたの? 地形の把握ができないのに。
「落ちたのがお前らでよかったな」
「なんでお父さんいるの? あと、落ちたのが二人でよかったって?」
「俺がいるのは儀式の手伝い。落ちたのがこの二人でよかったってのは祝福やらなんやら持ってるから」
儀式ってなんの? ハゼルトが行ってるものを手伝ってるのか? それまたなんでニーチェル公爵が。
「んで、一応聞くがどこまで落ちた」
「【青の希望】のところまで」
「ずいぶん深くまで行ったね。よく死ななかったよ」
やっぱり普通は死にますよねぇ。私もリリアナも運がよかったけど、本当ならあのとき死んでた……。
「地下湖がクッションになってくれてなんとか」
「地下湖……? まさか、あそこの水飲み込んでないよな?」
意識を取り戻してからすぐに吐き出したから大量には飲み込んではいないとは思う。リリアナも、あらかた吐き出していたし。
「何かあるんですか?」
「……あの地下湖の水は魔力がかなり含まれてる。普通は一滴飲み込んだだけで幻覚や幻聴に見舞われて発狂するぞ」
幻覚や幻聴……。クロさんのはさすがにそうじゃないと信じたい。あんなのを幻だとしても見てたとか嫌だし。
「その様子だと、二人してなんか見たか」
「私は前に話した天啓のやつで、黒髪の男の人と少しだけ話しました」
クロさんの名前は出さなくてもいいだろう。本名じゃないみたいだし。
「姪は?」
「……おそらくですが、【概念】たちの姿が見えました」
【概念】が生きてたのはかなり昔。もし、クロさんの言っていた時空の捻れがリリアナに適用されているとしても、そんなに昔にまで遡ることができるのか?
「リリアナ嬢の魔力量から不思議ではないが、見ちったか……」
「とりあえず、君らは屋敷戻りな。自分たちはやることやってから行くから」
ニーチェル公爵が一瞬だけ見せた気まずそうな、申し訳なさそうなあの表情はなんだったのだろう。見間違い、ではないよね。




