65.
「……そろそろ起きてくれね?」
聞き馴染みのない声で目を開ける。
そこは夢でよく見る景色で、近くには漆黒の青年に似ている人がいた。
「……あなたは」
「俺? んー……まぁ、しがない悪魔ってところかな」
「ここは?」
「あんたの夢。正確にはあの子の魔力に起因してできた時空の捻れだ」
時空の捻れ……。じゃあ、現実の私はどうなってるんだろう。一応これは夢判定みたいだし。それに、リリアナは大丈夫なのか?
「あの子って言うのは…」
「上を飛んでるだろ」
そう言われて見上げれば、空を飛ぶ一匹の龍。夢でもたまに出てきていた龍だ。でもきれいな純白ではなく、ところどころ灰色になっている。
「さて、ようやく対面したことだ。やることやろうか」
やることって、まず本当にここどこ。あなた誰。
「今は適当に『クロ』とでも名乗っとくわ。ここはさっきも言った通り時空の捻れ。あの龍は俺の恋人で天帝……まぁ神族の一番偉い奴の娘」
クロさん。なんだろう。私の知り合いで一人安直にそんな名前をつける人がいるな。髪色が黒だからクロなら本当にセンスを疑うぞ。
「やることって」
「三つあって、うち一つは対面でもう完了してる」
「なんで対面がやること?」
「また今度会ったら話す」
それ結局うやむやになって聞けないやつなのでは?
まぁ、悪い人ではなさそうだし、聞くだけ聞くか。
「お前名前は?」
「アイリス」
「いい名前だな」
花の名前なんだけどね。アイリスの花言葉は「希望」や「信じる心」。家名のカトレアの花言葉は「優美」や「魅惑的」。ゲームでは何か名前に意味があるのかと思ったけれど、結局よく分からなかったんだよね。こういうのは知り合いの考察魔に任せるしかない。
「んじゃ、真名は『ジニア』にするか」
「真名?」
「今じゃ使われないが昔は最上位種族からの祝福だのなんだのって言われてたやつ」
そんなものもらっていいのだろうか。ゲームではなかった設定が出てくると怖いのだけれど。
「んで、三つ目は頼みごとだ」
「サクサクいきますね」
「時間がねぇんだよ」
この人ゼクトみたいだな。他人の空似なんだろうけど、髪色とか話し方が似てる気がする。
「あっちに戻ったら時間かけてもいい。あの子を見つけてやってくれ」
「あっちにいるんですか?」
「記憶はないが転生してる」
なるほど。私や先輩のような異世界への転生ではなくこの世界で死んで新しく命を授かったパターンか。まぁ、そういう人もいるよね。問題は、記憶ないから誰か分からないことなんだけど。
「何か手がかりは?」
「あー……魔塔に属する可能性がある」
魔塔関係者か。それならリリアナや先生に頼めばいいな。恋人って言ってたし、きっと女性だろう。それで魔塔関係者で今後属することになる人はかなり限られそうだ。
「そろそろだな。真名は人に教えるな。言ったらお前の人生終わりだと思え」
クロさんのその言葉を最後に、私はまた意識を失った。




