60.
どうするんだよこの空気は。リリアナ以外にまともにここの住民と話せる人いないんですけど。
「なぁに殺気立ってるのさ。怖いよぉ?」
後ろから知らない声が聞こえてきて、振り向いたときには、オリヴィエさんが腰にかけていた剣を抜いて斬りかかっていた。
「っぶな!」
その人はギリギリで避けて両手を上げる。
誰だ? ここはハゼルト以外入れないんじゃないの?
「ひど。ひっど!! リリィ見た!? オリヴィエが殺そうとしてきた! 酷くね!?!」
「一々うるさいですね。背後に立つからそうなるんですよ」
「ゼクト、二人が冷たい!」
「あー……死ねばいいんじゃね?」
なんでそこでゼクトに頼ったのだろうか。一番冷たいだろう。にしても、知り合いなのか。そりゃあここにも入れるか。
「あの方、死んでますよね」
「おぉ、さすがは聖女だね。彼はリオ。死んでからここに住み着いた亡霊。一応アンデッドの部類に入るよ」
影で少し見にくいけれど、ユラエスと同じ色を持っていて親戚かと考えたけれど、公爵は一人っ子だし、違うよね。シティアル公爵の親戚で近しい間柄の家はなかったはず。じゃあ、リオくんは何者だ?
「いい加減成仏なさい」
「えー、俺成仏するのはリリィが死ぬときって決めてるのにぃ」
「知りませんよ。私の死を待ってたらそれこそあなた、アンデッドたちの長になりますよ」
それは難しいのでは、と思うけれど、魔力が多いほどこの世界では寿命が長いとされているからな。リリアナの魔力量的に、かなり長寿だろうからあり得るのが怖い。
《こっちには挨拶もなしかクソガキ》
「ジンは定期的に会ってるだろ。リリィは会ってくれないし来てくれないんだから」
「リオはうるさいんですよ。それに、お父様に見つかったらどうするんですか」
「そこはお願いしてよぉ。可愛い娘からの頼みなら公爵もイチコロだからさ」
リリアナ、露骨に嫌そうにしない。私もお父さんにやれって言われたら全力で拒否するけど、そんなに嫌そうにしないであげなよ。というかまず公爵と話せ。あんたら親子に足りないのはまず会話だよ。
「ぜっっったいに嫌です」
「溜めたな」
「バカほど溜めたね」
「リリアナちゃんは媚振る側じゃなくて振られる側だしね」
何事もなければ時期皇后確定だしね。シティアルは筆頭公爵家だし、ハゼルトも性格に難ありなのを除けば優良物件だし、仲良くなりたい人たちは多い。何より、リリアナに取り入れれば先生もそう簡単に切れない。
「浅はかですよねぇ。オモチャにもならない者に時間を割くのも面倒です」
「リリィ、本当に周り以外には冷たいよね。この子たちもオモチャなの?」
リオさん。それは普通、私たちがいないところで聞きませんか?
「バカなんですかお前は。友人だから連れてきてるに決まっているでしょう」
「……なるほど。楽しそうなワケだよ」
「は?」
「怖いって。素が出てるよリリィ」
リリアナ、ときどき本心漏れてるよね。私たちの前だからって理由なら信頼してもらえてるんだなって喜べるんだけど、何故だろう。本心聞いてみたいけど怖くて聞けない。




