57.
翌日、朝食を済まして、なるべく歩きやすい格好でって言われたけど、どこに向かうんだろうか。
「すみません。お待たせしました」
「普段結ばないから手間取ったな」
普段髪を下ろして髪飾りなども使っていないリリアナだが、今日は珍しく高い位置で一つにまとめていて、花の髪飾りを着けている。
「どこに行くんだ?」
「森です」
「………えっと、まさかとは思うけど」
「森って言ったらあそこしかないですよ?」
死の森に行くならもっと早く言ってくれ。心の準備ができてないよ。ハゼルト以外入ったら死ぬって話じゃんか。
「リリーがいるから平気だ。皇子とカトレアもいるしな」
「何を根拠に…」
「フェニックスはここにいましたし、【水の王】は森の管理者と知り合いなのですよ」
「リヴァイアサンの知り合い?」
どんな人だよ。というか、森の管理者なんているのか。
リリアナ先頭で森に入って行くけど、うん。道が整備されてないから歩きにくい。前世じゃそういう道歩くことあったけど、今じゃ整備されてる道しか歩かないからキツい。男性陣とオリヴィエさんは鍛えてるからいいとして、リリアナはなんでそんな余裕そうなの。
《精霊たちの加護ですね。あの方は自然に好かれておりますから》
「精霊の、ですか」
《えぇ。上を見てください》
そう言われて見てみると、上にはあちこちに飛び回る光る玉に見える精霊たちがいた。よくよく見ればリリアナの周りに来たりしていて、私たちの周りにもときどき来ては逃げるように飛んでいく。
「なんか、さっきから葉っぱも飛んできてるけど、それは……」
《ここから出たことのない者からすれば人間は珍しいですからね》
「お前たち、次イタズラしたら家燃やすから覚悟なさいな」
怖いよリリアナ。精霊を脅さないで。相手は精霊の中では下位かもしれないけど、上位種族だから。
精霊たちは近くもなければ遠くもないという距離をフワフワと漂っていて、どこかに案内しているようにも見える。
「そろそろか?」
「ですね。魔力の反応もありますし」
少し先に拓けているのか光が当たっている場所があり、そこに出る。
一本の大きな樹木が真ん中にそびえ立ち、その周りには、精霊や魔物がいる。そして、
《久しぶりだな。息災であったか》
「お久しぶりです」
樹木の前にいる巨大な黒竜。リリアナと知り合いのようで、おそらくリヴァイアサンと知り合いなのも、この竜だ。竜と龍で二種類いるのかよというツッコミはしないでおこう。こういうのはコミックやアニメでよくあるご都合主義だ。




