56.
数分もすればリリアナも来るだろうと屋敷の中を案内され、応接室に行く。ゼータさん以外は見当たらないけど、ハゼルトと同じ感じなのかな。
「主はんは人が嫌いやから、今はうち一人やよ。戻ったらまた呼ぶけど、しばらくはうちだけやね」
この大きな屋敷を一人でって、かなり大変だよね。リリアナが人嫌いだとしても、我慢してもらった方がいいのでは。
「どうせここの人間は仕事しないからいいんですよ。いっそ全員解雇した方が合理的です」
帰ってきたリリアナがそう言って、手に持っていた花束を近くにあった花瓶に入れる。
ライラックにフリージア、カスミソウといろんなものだけど、花束にするには合わないよね。色もかなりバラバラだし。
「その花束どうしたんだ?」
「知り合いにもらったんですよ。せめて色を統一してほしいですが、あの子目が見えないから無理なんですよね」
「目が……あぁ、彼女か」
どうやらリリアナがこちらにいたときに仲よくしていた子がいるらしく、とある事故で失明してしまったらしい。
「治せないの?」
「難しいですね。治癒はあくまで自己再生能力を向上させるだけですし、細胞を一からとなると魔術になりますが」
魔術師がわざわざ他人が使えない治癒魔術なんて作るはずがない。作るとしても魔法になるし、そんなことしている暇があれば別の研究をするだろう。
《お前が治癒さえ得意ならばよかったな》
「ようやく来ましたか。遅いですよ」
フワフワと周りに現れ始めた光る物体。精霊がここら辺いるのか。しかも今の声、ジンだよね。
「何故精霊がここに」
《元々こちらにいたのを娘と一緒にあちらに移った。我々精霊は本来、死の森や天界、魔界などで暮らしている》
「では、フェニックスも?」
《この地にいましたよ》
小さな手のひらサイズだからそんなに驚くことはなかったけど、守護獣って勝手に出てこれるんだね。はじめて知ったよ。殿下も混乱してるから許可とかもらってから出てきなさいよ。
《挨拶が遅れ申し訳ありません。お久しぶりですね。ハゼルトの姫君》
「お久しぶりです。別に気にしていませんよ。精霊が人間と意志疎通を取ることはもはや忘れ去られている。あの場で話せば面倒だったはずですから」
確かに、精霊……というか、守護獣が喋るとかゲームでも出てきてなかったしね。それだけ知られていないことなのか。
「このあとの予定は?」
「明日はあの方に挨拶に行きますかね。聞きたいこともありますし、あのバカをそろそろ引きずり出してもいいでしょう」
誰かいるのか? リリアナがバカって言う人。どんな人なのだろうか。




