54.
リリアナたちの登場に驚いて声も出せないのか唖然としているフレミア嬢たち。リリアナが歩けばみな避けて道ができる。
「リリアナ嬢、これはその」
「言い訳は結構。あなたが私の友人に手を上げようとした。その事実以外は不必要です」
これこそまさに強者の威厳と言うべきか、誰も何も言えなくなっている。もっとも、怖いのはリリアナではなく、その後ろにいるゼクトの方だろうけれど。
「とは言え、もうすぐ学院も休みに入りますから、今騒ぎがあっても面倒なのもまた事実」
つまり、だ。リリアナはここであったことは他言無用にしろと言っているのだ。そうすることで少なくともフレミア侯爵令嬢たちが罰を受けることはなく、穏便に済ますことができる。実害がなかったからこその処置。
周りの野次馬たちは逃げるように去っていき、フレミア侯爵令嬢たちも顔を真っ赤にして帰っていった。なんとか無事で済んだ。
「間に合ってよかったよ」
「連絡ありがとうございます。お兄様」
「俺じゃ止められないからな。すまない」
ユラエスとリリアナの手には小型の魔道具があり、それで連絡を入れたのだとか。通りでタイミングがいいワケだ。
「あれどうするよ」
「もう少し泳がせてからだそうなので放置ですね」
何か悪いことを考えてる予感がするけど、大丈夫だよね。
「にしても、今度は周りに迷惑かけ始めたな」
「元々迷惑でしたからね」
あの人、なんであんなに突っかかってきてたんだろうか。あんな人、ゲームには出てきてなかったし。
「言動も分からないんですよねぇ。『悪役令嬢』だの『負け犬』だのと、何を言ってるのやら」
先輩の方を見ると、こちらを見て頷いていた。リリアナを見て「悪役令嬢」とか、転生者確定じゃんか。
自分だけが転生者で、小説やゲームのように行くとでも思ったのだろう。けれど残念なことに二年生には攻略対象はいないし、リリアナは興味なさそうだから空回りしてるんだろうな。
「リリアナが負け側なワケないじゃん」
「頭の中に花畑でも持ってるんじゃないか?」
「その花枯れてるだろ……」
「咲く花が可哀想では?」
「咲くための土がねぇよ」
平然と毒吐くなこの人たち。ユラエスとクロフィムは優しいイメージだったけど、意外と強いな。
「まぁ、しばらくは会いませんし」
「ばったり街で会うかもよ?」
「領地に行くんだから会うはずないでしょう」
もう行くの? さすがに早くないか。普通、領地に帰省するにしても八月に入るくらいからだ。リリアナの言い方だと、休みに入ってすぐに領地に行くんだよね。
「シティアル領のあとにハゼルト領に行くからな。隣接してはいるが、領地が広いからな」
「それに、ゆっくりしたいですから」
そういえば、シティアル前公爵夫人とリリアナは仲が良くないとゲームで少しだけ触れられていたけれど、大丈夫なのだろうか。




