53.
先輩と話すのもほどほどにして、その日は帰った。前世の知り合いがいるってだけでもかなり心強いし、それが先輩ならなおさらだ。
にしても先輩。当たりを引いたなぁ。先輩の推しユラエスだったし、推しの婚約者に転生したとか、運よすぎだよ。
そんな羨ましさもあり呆れもありと言った感じだけれど、先輩に言ったら「せっかくのヒロインなんだから男一人くらい落としなさいな」とか言われそうなためグッとこらえる。
怒涛の最終日だった気がする。リリアナのことが主だけど、校長先生がハゼルトだって言うのにも驚いたし。
まぁ、どちらにせよ私からすればリリアナと縁を切るとかはしない。もうすでにゲームのシナリオからは外れているけれど、これ以上外れて何か起こったとき私一人ではどうにかできないからね。リリアナといるのが今のところ一番安全だろう。
それに、ゲームのことなしにしても、リリアナのことが心配だ。ハゼルトだからと遠巻きにされて、ハゼルトだからと自分に言い聞かせて周りと壁を作っているように見える。
だからできるだけ穏便に過ごしていこう……と、思った矢先にこれですよ。
休みが終わり、学院では上位十五名の名前が出ており、一学年はリリアナが一位、三学年はゼクトが一位という結果。私は四位のため、結構いいかな。ティアナとクロフィム、ラテさんも上位にいるし、私たちはよさげ。リリアナは何故かいないけど、先輩たちも見終わったようだし帰ろう、と言うときに面倒なのに絡まれたのである。
「あら、下賎な者と親しくしているとは本当でしたのね。カディスト嬢」
「挨拶もないのかしら。同じ位の者として恥ずかしいわ。フレミア様」
ミティウム・ナノン・フレミア侯爵令嬢。真っ赤な髪に縦ロールというこの容姿。加えて高圧的な態度。なんで製作者はこの人を悪役令嬢にしなかったのか……。
「挨拶しないのはそこの下賎な者でしょう」
今私見て言ったよね。私、あんたの取り巻きと同じ爵位ですけど。そんでもってあんた挨拶してないよね?
「フレミア様が挨拶なされたのはカディスト様だけでありますし、私からしてしまえばマナー違反ですわ。フレミア様がそんなことも知らないワケはございませんよね?」
この言葉遣い慣れない……。先輩よくこんなの使えるな。もうやめたいんだけど。
フレミア侯爵令嬢は顔を真っ赤にしている。大方、バカにされたとでも思ったのだろう。ずいぶんと沸点が低い。
「弱者は弱者らしく道を開けなさいな!」
爵位低いのに調子に乗るなとでも言いたいのだろう。持っていた扇を思いきりこちらに振られる。叩かれるのは避けられないだろうと目を瞑ったが、扇は寸でのところで止まった。
「『弱者は弱者らしく道を開けろ』と言うのなら、お前が開けたらどうだ。フレミア侯爵令嬢」
「いつから私の友人に文句を言えるほどフレミア侯爵家は偉くなったのでしょうね」
いつもは持ってすらいない扇で口元を隠し、笑っているのにとても冷たい目を彼女たちに向けるリリアナと、リリアナの後ろで殺気を隠そうともしないゼクトが来たためだった。




